Vol.11 取締役会の評価 (2015年9月2日)
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【ビズサプリ通信】
▼ 取締役会の評価
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おはようございます。 ビズサプリの久保です。
今回は、日本ではまだあまり一般的でない取締役会の評価のお話です。コーポレート・ガバナンス・コードでは、その実施が求められていますので、 上場会社は何らかの対応が必要となります。
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■ 1.コーポレート・ガバナンス・コード
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東京証券取引所は、コーポレート・ガバナンス・コードを有価証券上場規程の別添として位置付けることにより、上場会社が遵守するルールとすることにしました。これは2015年6月1日から適用されています。
これは、金融庁に設置された「コーポレート・ガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」が取りまとめた「コーポレート・ガバナンス・コード原案」(2015年3月5日公表)と全く同じものです。
金融庁は「原案」に留め、その適用を東証に委ねたのは、なぜでしょうか?
それは、法律ほど強制力のないソフトロー(soft law)と呼ばれる規範にするためです。 東京証券取引所の上場規程にしておけば、株式を上場する会社だけが遵守すれ ばよいルールという位置付けになります。また、ルールを遵守したくなければ上場しなければよいという点から、会員制クラブの運営規則のようなものということができます。
最近新聞で見かけるコンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)という考え方がコードに導入されています。これは、原則としてルールは守る必要があるとしても、理由を説明すれば、それを守らないこともできるという考え方です。
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■ 2.取締役会の評価
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コーポレート・ガバナンス・コードの中で、私が特に注目しているのは、取締役会の評価です。新聞紙上などでは、東証1部と2部の上場会社は、独立社外取締役を2名以上選任する必要があることが強調されています。
これは一つの形式基準であり、これをクリアしたからといって、実際に取締役会が適切に運営されるかについての保証はありません。 実際、不適切な経理事件を起こした東芝では、委員会等設置会社として社外取締役が4名いたにも関わらず、取締役会が機能しなかったことが指摘されています。
いろいろな原則がコーポレート・ガバナンス・コードに定められていますが、それらがうまく達成できたかについては、誰がチェックするのでしょうか?
マネジメントサイクルや内部統制で重要なことはPDCAです。最初はやる気になってPlanとDoをしたとしても、うまくできていたかをCheck(評価)をしないと長続きしません。
そこで、コーポレート・ガバナンス・コードでは、「原則4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」の最後に「取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。」としているのです。
これは取締役会の評価を規定した原則です。日本のコーポレート・ガバナンス・コードのお手本になった英国のコーポレート・ガバナンス・コードでは、「基本原則B.6 評価」として独立した原則となっており、取締役会の評価を求めています。
特に、FTSE350に含まれる上場会社については3年に一度、外部専門家による評価が求められています。これらの会社には、外部評価者との利害関係がないことを示すため、誰に評価してもらったについての開示も求められています。日本のコーポレート・ガバナンス・コードでは、ひっそりと基本原則4の最後 に記載されていますが、取締役会の評価は、上場企業が毎年実施する必要のある重要な活動なのです。
なお、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場規程でも、取締役会のパフォーマンス評価を毎年実施することが規定されています。米国の場合は、コンプライ・オア・エクスプレインの考え方はなく、上場規程 として規則化されています。
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■ 3.取締役会の評価対象
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それでは、どのように取締役会の評価をしたらよいのでしょうか?
日本でもコーポレート・ガバナンス・コードにおいて、上記のように規定された以上、何らかの対応をすることが必要になります。
まず、取締役会といっても、何を対象に評価をしたらよいのでしょうか?
日本のコーポレート・ガバナンス・コードでは、「取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなど」(原則4-11)としていることから、取締役会全体を評価の対象とすることを求めているように解釈できます。
一方、英国のコーポレート・ガバナンス・コードでは、アニュアルレポートにおいて、次の3つの評価の実施状況についての開示が求められています。
* 取締役会全体
* 委員会
* 個々の取締役
日本のコーポレート・ガバナンス・コードにおいては、委員会と個々の取締役の評価は「分析・評価を行うことなど」の「など」に含まれると考えることができます。つまり、コーポレート・ガバナンス・コードを初めて導入する日本では、まずは取締役会全体の評価からやってください、ということと考えられます。
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■ 4.取締役会評価規程の内容
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評価の対象は取締役会全体とするとしても、次に、評価の目線をどうするかを 決めることが必要です。
これについては、全米取締役協会から「Director Professionalism」というタイトルの報告書が参考になります。そこには取締役会の自己評価についての6つの条件が記述されています。これらは、取締役会評価規程に盛り込む内容と考えて良いでしょう。
「業務執行からの独立性」
「評価のプロセスと目標の決定」
「企業に合った自己評価の設計」
「虚心坦懐・機密保持・信頼性の確保」
「定期的な自己評価プロセスのチェック」
「自己評価の手続と規準の開示」、がその6つです。
評価は、経営執行者から独立して実施する必要があります。評価のやり方や目的を決め、自社に合ったやり方を設計しなければなりません。評価は虚心坦懐に行い、評価結果の機密保持に留意し、例えば外部専門家のアドバイスも受けて信頼性を確保することも大事です。
評価プロセスにもPDCAが必要になりますので、それをどのようにCheck(評価)するのかについても検討しておく必要があります。最後に、これらの内容の開示を行うということも大事です。
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■ 5.取締役会全体の評価項目
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前述の全米取締役協会の報告書の巻末資料には、次のような評価項目の例が掲載されています。これを参考に自社に合った評価項目を設定して下さい。
1. 取締役会の役割と議題の設定
2. 取締役会の人数・構成・独立性
3. 取締役への研修
4. 取締役会のリーダーシップ、チームワーク、業務執行者との関係
5. 取締役会(委員会)の会議の内容と必要な情報
6. 取締役と取締役会の評価・報酬・自社株保有
7. 業務執行者の評価・報酬・自社株保有
8. 後継者計画
9. 企業倫理・法令遵守
10. 利害関係者との関係
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■ 6.おわりに
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コーポレート・ガバナンスは、その「形」の議論から入ると、監査役設置、監査等委員会設置、指名委員会等設置のどれが良いかや、独立社外取締役は何名必要かなどの議論になります。
しかし、良いコーポレート・ガバナンスのポイントはその運営です。取締役会の運営を継続的に改善していくPDCAを組み込むことが必要です。 そのために、取締役会の評価が重要な役割を果たします。