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会計

Vol.10 ROEについて再び (2015年8月19日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━vol.010━2015.08.19━

【ビズサプリ通信】

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ビズサプリの三木です。

前々回の花房氏のメルマガではROEについて書かせていただきました。 経営指標というのはなかなか奥深いもので、会社や投資家の行動を大きく変 えてしまいます。

今回も再びROEについて考えをめぐらせてみたいと思います。

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■ 1.優良企業の低ROE

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ROEが以下のように推移している会社があったとします。 どのような会社を想像するでしょうか。

1年目 5.1%

2年目 5.0%

3年目 4.9%

4年目 ▲59.5%(赤字)

5年目 11.9%

6年目 10.9%

※ ROE(株主資本利益率)=利益/株主資本

1~3年目のROEは5%前後と低めです。4年目に大きな損失を計上しますが、5、6年目のROEは高くなっています。

経営効率の悪かった会社が、大きなリストラを経て経営効率を高めた。 そんな姿を想像するかもしれません。

実はこの会社は、以下のような設定で計算をしたものです。

・毎期増益する優良企業。

・4年目に災害で大きな臨時損失を計上した。

・災害後は以前と同じく増益ペースに戻った。

増収増益であれば経営指標も良いと思いがちです。 しかしながら、ROEは利益を株主資本で割って求めるため、毎期上げる利益が株主資本に蓄積されることで悪化してしまいます。 皮肉にも、運悪く災害で大損失が出たことで株主資本が減り、ROEを上げることができました。

増益を続けても下がっていたROEが、災害という不幸で改善する。利益を増やすべく経費節減や営業努力をする企業からすると、憂鬱になってしまうようなシナリオです。

財務的な観点からは、せっかく過去に蓄積した利益が資金としてたまっているならば、その資金を元手に再投資することで、更なる利益の増加を目指すべきです。 それができないならば、余剰資金は配当などで還元するべきです。

この理屈から言えば、上記の会社は決して「優良企業」とは言えません。 しかしながら、毎期着実に増益しているとなれば経営者としては「何か文句が あるか!」と言いたくなる気持ちも理解できます。

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■ 2.ROEが重視される理由

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ROEの限界については色々な人が解説記事を書いています。

・安全性:経営の安全性を考えていない

・短期的:短期的な視点になりがち

・操作可能:自己株式取得や配当によって操作が可能

といったことが多いと思います。

安全性については、確かに借入主体のギリギリの経営をすることでROEは上げられます。

また、短期的という部分については、目の前のROEを上げるために必要な投資を怠れば、そのツケは数年後に回ってきます。もっともこの問題は、数年のROEを平均するなどすれば回避できます。

操作可能という点は、メリットでもありデメリットでもあります。 ROEは、会社が努力して利益を上げ、余剰な資金は市場に返すことで上げることができます。 意図的に操作できるというと胡散臭さがありますが、逆にROEを指標にすることで会社の努力を促すことができます。(これはROEに限らず、当事者にとってコントロール可能な指標を使うことのメリットです)

ROEは投資家目線での指標と言われますが、より投資家目線な指標としては株価収益率(PER)があります。 更に言えば、配当狙いではなくキャピタルゲイン狙いの投資家にとっては、株価の変動率のほうが直接的に利益に連動する指標です。

※ 株価収益率(PER)=株式の時価総額 ÷ 純利益

それでもROEが重視されるのは、株価には様々な思惑が入りすぎて会社の状態を見るにはノイズが大きすぎることがあります。 それに対しROEの計算に株価は関係ありません。会計数値から計算できる比較的「硬度」の髙い指標です。

このように、ROEは投資家目線の指標でありながら管理指標としての使いやすさも持っているオールラウンドの経営指標です。 そのため、限界は知られつつもROEは広く長く使われています。

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■ 3.ROEと資本構成

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オーナー企業では、ROEに縛られない経営ができるので長期的な意思決定がしやすいと言われます。 しかしながら、ROE自体が短期的な指標なわけではありません。前述した通り、数年の平均を取れば長期的な指標になります。

オーナー企業で長期的な意思決定がしやすいのは、むしろ資本構成についての目線の違いに理由がある気がします。

例えば、創業者が株式の100%を持っているオーナー企業では、当初の出資額に比べてどれくらい利益を上げているかが気になります。出資後に蓄積した利益はあまり意識されません。これが上場企業となると常に株主が移り変わるため、過去に蓄積した利益も含めて資本効率を見ることになります。

つまり、オーナー企業の場合は資本金と利益を比較するのに対し、上場企業では全株主資本と利益の比較が投資額に対するリターンとなります。

前述したシナリオでは、増益を続ける優良企業でありながらROEが低迷していました。これは、直近に株式を取得した人にとっては由々しき問題ですが、ずっと前から株式を持っている人からすればさして問題視しないかもしれません。

では、それが全く問題ないかというと、そうとも言い切れません。 「せっかく増収増益できるいいビジネスモデルを持っているのだから、いまのうちにしっかりお金をためて安全経営をしてほしい」 という株主もいるかもしれませんが、「せっかく利益を上げているのだから、うまく運用してほしい。その予定が無いなら、別の会社に投資したいから配当してほしい」 という株主もいるかもしれません。

結局のところ、どの程度のROEを目標とするかは、経営スタイルそのものを考 えなければなりません。

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■ 4.経営スタイルとROE

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ROEは経営スタイルによって左右されます。

このため、とにかくROEが高ければ良いという単純な話ではなく、株主の意見をしっかり聞く、経営者の考えを説明して対話するといったことが重要になってきます。その結果として目標とするROEが出てきます。

会社法の改正やガバナンス・コードといった取り組みが活発化していますが、単にルールを守るという話に終始しては本質は見えてきません。 株主や投資家と対話をする、会社としての考え方を示す、そのために分かりやすい会社の仕組み(ガバナンス)を作って説明する、といった考え方が根底にあります。投資家側にもスチュワードシップ・コードが示され、会社との対話の質を高めるよう促されています。

ROEの目標設定やガバナンス・コード対応といった取り組みの際には、そもそもどういう経営スタイルを目指すのか、それは株主や投資家に説明できているのか、その方針と決算説明等のディスクロージャーは整合性が取れているのか、、、といった大きな視点を決して忘れないようにしたいものです。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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