Vol.22 コーポレートガバナンス・コードを「そもそも」から理解する(その2) (2016年2月17日)
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【ビズサプリ通信】
▼コーポレートガバナンス・コードを「そもそも」から理解する(その2)
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おはようございます。 ビズサプリの久保です。
株価が乱高下していますが、気温の変動も激しいですね。暖かくなったかと思うと、急に寒くなるのは体にこたえます。インフルエンザがまだ流行っているようですので、健康にはご留意ください。
今回は、コーポレートガバナンス・コードの「そもそも」の「その2」です。コードの中身について、お話をすることにします。
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■1.コンプライ・オア・エクスプレイン
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コンプライ(comply)とエクスプレイン(explain)は、どちらも動詞ですので、命令形と考えられます。よって、「遵守せよ、または説明せよ」という意味になります。
コーポレートガバナンス・コードは、一定のモデルをベースに策定されています。そのモデルに合わないから実効性のあるコーポレートガバナンスができないということではないはずです。例えば、従業員50人のベンチャー企業と10万人の大企業のコーポレートガバナンスが同じであるべきだ、と考える人はいないと思います。
そこで、コードが前提とするモデルと異なるガバナンス体制が自社にとって 望ましいと考える場合には、「説明」すればコードを遵守しないでよいということにしました。これがコンプライ・オア・エクスプレインです。日本人は、一般にルールがあれば遵守するのが当たり前で、遵守しないことは良くないこと、と考える傾向があると思います。しかし、「当社にはコードに記載されたようなガバナンス体制は向いておらず、返ってマイナスになる」ということがあれば、積極的に「説明」すべきであると思います。
コードの遵守率を少し見ておきましょう。日本のコーポレートガバナンス・コードのお手本になった英国では、FTSE350社のうち、すべてのコードを遵守した会社は61%でした(2014年)。ロンドン証券取引所の上場会社は2500社以上ありますので、FTSE350社はそのうちの上位の優良会社です。そのような会社でも39%は完全にはコードを遵守していないということになります。
東証の場合は英国に比べて、コード遵守率がまだまだ低いのが現状です(12月までの集計で、東証一部上場会社の完全遵守は14.2%)が、英国の優良会社でも完全遵守会社は6割であることを念頭に置いておく必要があります。
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■2.ハードローとソフトロー
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コーポレートガバナンス・コードは、法律ではなく、東証のルールとして導入されています。これは、東証のメンバーすなわち上場会社になりたい会社だけが遵守すればよいルールです。一方、法律の適用対象になれば、逃れることができず、その遵守は必須になります。
法律はハードロー(hard law)、東証ルールのような法的拘束力のないものはソフトロー(soft law)と呼ばれます。 コードはソフトローだから、コンプライ・オア・エクスプレインは、ソフトに適用するための手段だと、何となく考えがちです。
実は、コンプライ・オア・エクスプレインの規定は、ハードローにもあります。会社法では、有価証券報告書提出会社が社外取締役を置いていない場合には、定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければなりません。この理由を説明することは簡単ではありませんが、エクスプレインすることができれば、コンプライしなくてもよいという規定が会社法にもあるのです。
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■3.コンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲
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東証の上場規程では、上場会社はコードを実施しない場合には、その理由を説明するものとする、としています。しかし、マザーズとJASDAQ上場会社については、「新興企業向け市場を巡る国際的な動向及び我が国の新規産業育成の観点から」、コードのうち「基本原則」の部分だけが、説明の対象となっています。
前回のメルマガ「その1」でご紹介したように、コードは基本原則、原則、補充原則で構成されています。全部で73原則ありますが、基本原則は、まさに基本的な原則が記述されたもので、5原則しかありません。
新聞で、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであると報じられました。 これは原則4-8に記載されており、基本原則にはそのような記載はありません。そのため、マザーズとJASDAQ上場企業にはこのコードは適用されません。
そしたら、マザーズとJASDAQ上場企業は、独立社外取締役の選任は不要かというとそうではありません。前述の会社法で社外取締役が最低1名いないと、置かない理由を説明することになるため、社外取締役を最低1名選任することが求められることになります(「社外独立」と「社外」はその要求事項が少し違います)。このように、会社法とコードの両方を読んでおかないと、最低線がどこかわから ないことがあるので注意が必要です。
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■4.コードはどのように役立つのか
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前回のメルマガ「その1」でご説明したとおり、コードを遵守することが目的ではありません。自社に最適なコーポレートガバナンスを確立することによって、中長期的な企業価値の向上することが目的です。それでは、コーポレートガバナンスは、どのように企業価値の向上に役立つので しょうか。
コードは独立社外取締役によるモニタリング機能を重視しています。独立社外取締役は、社内のしがらみがない人たちですので、客観的な意見を述べることができます。理想的なコーポレートガバナンスでは、独立社外取締役によるモニタリングはどのように機能する必要があるでしょうか。
短期的な利益を出すだけでは、中長期的な企業価値向上は望めません。CSRを含む中長期的な投資をすることにより、持続的な成長をすることができるのです。中長期的な企業価値向上は、良い経営者と良い経営戦略があれば達成できると考えられます。
ここで、すでにこれらを持ち合わせている会社と、そうでない会社があるとします。 良い経営者と良い経営戦略を持っている会社は、それが持続するようにするのがコーポレートガバナンスの役割であると考えてよいでしょう。独立社外取締役が前向きな経営に口を挟むのは望ましくありません。反対に、リスクテークしすぎている場合には、ブレーキを掛けるように促すことが必要になるでしょう。
経営者と経営戦略に問題があるため企業価値が向上していない会社については、 経営者や経営戦略を取り替えるところから取り組む必要があります。この場合は、これもコーポレートガバナンスの仕事になります。ここでは、経営者がリスク テークするような経営戦略の立案を促すような、攻めのコーポレートガバナンスも 必要になります。
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■5.コードの形式的な適用は厳禁!
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実際には、上記2つのモデルの間にある上場会社が多いと思います。2つ目のモデルに近い会社の場合には、独立社外取締役の役割が重くなります。このような場合には、1名や2名の独立社外取締役では荷が重すぎることから、もっと多くの独立社外取締役がしっかり働く必要があると思います。
この例から、たとえば「上場会社は一律に1名または2名の社外取締役を選任する」 という形式的な対応では、中長期的な企業価値の向上というコーポレートガバナンスの目的を達成することができないことが分かると思います。
なお、ビズサプリでは、コーポレートガバナンスに関して幅広くご支援しています。 お気軽にご連絡下さい。 本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。