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Vol.23 「ボス潜入」に思うこと (2016年3月3日)

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【ビズサプリ通信】 ▼ 

「ボス潜入」に思うこと

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おはようございます。ビズサプリの辻です。

3月に入り、いよいよ春本番が近づいてきました。気温が乱高下した先月は、インフルエンザが大流行でした。娘の通う保育園では、児童の半分以上がインフルエンザでお休み。保育園はインフルエンザになると熱が下がっても5日間は必ずお休みしないといけないので、仕事を持つ母達は感染症の季節は戦々恐々です。

今日は、私が最近はまっているテレビ番組について書いてみたいと思います。

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■1.社長が現場に潜入

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その番組は、「覆面リサーチ ボス潜入」(BSプレミアム  毎週木曜日  夜9時)です。

これは、大手企業の社長が、その本人とわからないように変装をして自分の会社の現場に「研修生」や「転職希望者」といった姿で潜入、実際に現場で働いている方と一緒に仕事をして、現場の生の姿を体感し、その後一緒に仕事をした現場の方を本社に呼んで、「実は社長でした。」と身分を明かした上で、社長が現場で感じた課題の解決を図っていくという内容です。NHKのホームページによると、企画自体はイギリス初の人気番組「アンダーカバーボス」という番組の日本版だそうです。

今年の1月から始まっていたようなのですが、知らずにいたのですが、たまたまその前の時間にやっている「英雄たちの選択」という番組が大好きで、ビデオで見ていたらその次の番組が「ボス潜入」。そのままなんとなく見ていたところ、不覚にも涙を流してみる羽目になり、そのままはまってしまいました。ちなみに、「英雄たちの選択」は歴史のタブーの「たられば」を様々な分野の専門家たちがそれぞれの立場から話す、という番組。こちらもお勧めです。

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■2.「言ってもわからないでしょ。」

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私が最初に見た回は、大手シネコンの会社の40代の社長が、1週間にわたって全国の現場のシネコンに異業種からの派遣スタッフとして潜入しました。業界内での競争が激しく、業績の向上のため現場の人員削減や、飲食店の閉鎖をしているという中、現場にどのような課題があるのかを社長が知りたいと いうものでした。

最初の現場は、業績がとてもいいシネコン。ここでは元気に働くパートのお母さん達が、お客様への声掛けを欠かさず、ポップコーンやジュースの売上は全国トップクラス。リピーターが非常に多い現場でした。ところが、そのシネコンの一角にガランとした空きスペース。そこは、合理化の一環で飲食店を締めてしまった跡とのこと。パートのお母さんの一人が、社長をその場所に連れていき、「ここでおにぎりやココアを出せたら楽しいと思うの。」 とお話します。

<そこでの会話>

社長(とは現場の方は知りませんが):「そのアイディア、誰かに伝えましたか。」

パートのお母さん:「言っても伝わらないでしょ。」

次の現場も、競争が激しいながらも大きな売上を上げている現場。そこの映画が大好きなお兄さんが、社長の教育係となりました。映画が終わった後、次の回が始まる前までにきれいに掃除をして、合い間にトイレ掃除もして、そしてお客様の案内して、と目の回る忙しさでした。

<そのアルバイトの彼との会話>

アルバイトのお兄さん:「平日とか、休日でも結構劇場って空いている所あるんですよね。そこで、地元のバンドとかを呼んでライブとかできたら楽しいと思うんですよ。」

社長:「面白いですよね。そのアイディア、上の人とかに言ったらどうですか。」

アルバイトのお兄さん:「言っても、わからないでしょ。」

最後の現場は、業績が不振で、「効率化オペレーション」と称して、現場の人数を半分にした現場。ここでは、半減して残った従業員の方が、チケット売りから、グッズの検品から、清掃、お客様の案内までなにもかも行っていました。当然とても繁忙で、笑顔もなく、検品もお客様から見える場所でやらざるをえない状況でした。あまりに繁忙なので、他のスタッフと顔を合わせることはほとんどなく、業務の引継もできないことからスタッフ間の信頼関係ができていないとのこと。

アルバイトのお姉さん:「これを全部一人でやらないといけないのか、と思うと正直、働いていて楽しくない。”これでやっと黒字が出たから来年1年続けられる ”と言われると、つぶせばいいのにと思っていた。」

社長は、戻ってから本社からの人員のヘルプと働いている方同士のコミュニケーションをとる場の提供を申し出ました。

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■3.本社の人にはわからない

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次の回は、石油元売り大手の社長が、「定年後にガソリンスタンドを始めたい人」という設定で、ガソリンスタンドに潜入するものでした。この社長は、まもなく実施される自社の合併を控えて、自社のDNAがどのように現場に浸透しているか見ておきたいということでした。

最初のガソリンスタンドでは、元気なお兄さんがお客様の洗車を早くおこなう技術を披露。社長に厳しく洗車指導をしました。そこのガソリンスタンドは、結構年季が入っていて、トイレやお客様の休憩場所が古くなっており、ぴかぴかに掃除をしたとしても古さは隠せす、お客様が使ってくれないとの悩みがありました。

お兄さん:「ここをもう少しきれいにできたら、ここで、いろいろお客様とお話ができてオイル交換なんかの売上をもう少し伸ばすこともできるんと思うんですよね。ただ、設備更新にもお金がかかるからなかなかできないんだよね。」

社長は、このガソリンスタンドの設備更新に1,000万円の予算をつけました。次のガソリンスタンドでは、若い店長が売上UPに苦労をしていました。以前は、店長に販売施策に対する裁量があり、いろいろなキャンペーンを実施できたけれど、今は、キャンペーンには本社の承認がいることになり、いろいろ企画を上げているけれど、本社はめったに承認してくれないとのこと。現場のモチベーションを保つが大変、と社長とは知らずに、目の前の社長に 話していました。

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■4.事件は現場で起こっている

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この2社は、もともと社長がこんな風に「現場に潜入しよう」と思うぐらいですから恐らく、風通しがよく、社長も現場に気を配っている会社ではないかと思います。 そうであっても、現場での課題、企画、思いがトップに正確に伝わるのは、本当に難しいものなのだと感じます。組織が大きくなると、情報に様々な取捨選択、フィルターがかかり、なかなか伝わらない。そして、最初からあきらめて伝えることもしていないことが多いということもわかります。

現場の生の真実の情報をフィルタをかけずに集めるというのは、本当に難しい ことです。【報告される情報は、「見せかけの事実か」「本当の真実か」を見分けることには、永遠の訓練が必要】(プロフェッショナルマネージャー  ハロルド・ジェニーン著)なわけです。

特に、リーダーに「都合の悪い」情報、「耳に痛い情報」が正確にタイムリーに伝えてもらうには、工夫や努力が必要です。アメリカ海軍でミサイル 駆逐艦の艦長を勤めたマイケルアブラジョフ氏は、その著書の中で、「上司は、悪い知らせを持ってくる人間をないがしろにしないことが重要である。」「部下が上司に報告することを恐れない信頼の気風を生み出すことは、組織にとって死活問題になるといっても大げさではない。」と言っています。

そして、逆に上からの情報がきちんと正しく伝わっているかということも重要 です。前述のマイケル氏は著書の中で、「部下がどれだけ上司の命令について知っているかということと、彼らがそれをどれだけうまく実行できるかということには直接的な関係がある。」と述べています。私も、自身の経験を振り返るにつけても身につまされる言葉です。

少し、話がずれますが、「真田丸」で注目されている真田一族が巨大な勢力に囲まれながら生き残れたのは、「「草の者」ともよばれるいう忍び」の活用がうまかったからだとも言われています。「草の者」は、通常の身分関係から離れて、自分の足や目で見た真実の情報をありのまま伝えます。公式・非公式含めての情報の質によって戦の勝敗が変わってくるというわけです。もちろん、その情報を実際の戦いに活かすための戦術を実行する力(技術力)があるのが基本ですが。

戦国時代も現在も、情報力と技術力の両方が必要という点、人間が競争をする上で必要となる要素はあまり変わらないのですね。

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■5.社長の人間的魅力

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どの現場でも初対面である変装した社長に、それぞれの現場で教育係となった方が、その思いを時には涙を流しながら正直に語ってしまうということが非常に印象的でした。やはり、社長になる方には、きっと人を引き付ける魅力があるのでしょう。初対面でも、なんとなく、普段思っている事を語ってしまうような「聞く姿勢」をお持ちの方達なのでしょう。

そして、ちょっと意外だったのですが、現場の仕事、接客や掃除も見事にこなしていました。現場の仕事もできるトップは素適ですね。とはいえ、テレビ番組でもない限り、社長自身が変装して全部の現場潜入するのは不可能なことです。だとすると、指揮命令系統が異なる人が、社長の目となり、手となり、足となり現場の状況を把握する人がいるということになりますね。

このフレーズ、内部監査部門の役割そのものです。内部監査部門にこのようなミッションを本当に期待して、監査部門と真剣にディスカッションをしている会社は少ないように思いますが、みなさんの内部監査部門はいかがでしょうか。

また、ある程度会社の規模が大きくなるとこのような役割を本社機能が担っていることも多いかと思いますが、本社機能のミッションはどのように定義されていますでしょうか。現場の課題や問題点を分析して、社長に伝える、そのような内部監査部門や 本社機能が増えるとボスが潜入しなくてもいいのかもしれませんね。

ビズサプリでは、内部監査部門の現状調査・品質評価業務も実施しております。内部監査について課題や疑問点がありましたらお気軽にお問合せ下さい。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
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その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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