vol.225 監査法人の“謎”を紐解く(その1)
ビズサプリの久保です。
筆者はトーマツに新卒で入社して39年間勤務し、職員を14年間、社員(パートナー)を25年間経験しました。
今回は、筆者の経験を交えて、一般にはちょっと理解しづらい監査法人についてお話したいと思います。
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■ 1.監査法人とは
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監査はいろいろな場面で使われる用語ですが、公認会計士法で定められた監査は公認会計士または監査法人しか実施できないことになっています。公認会計士が法人として監査を実施する組織が監査法人です。
映画やテレビドラマにもなった小説「華麗なる一族」(山崎豊子著)のモデルになったとされる会社は山陽特殊製鋼(姫路市)だということが知られています。この会社で60年前に起こった粉飾事件をきっかけとして監査法人制度が始まりました。多くの監査先を持つ監査法人であれば、契約解除に耐えうる体力があり、監査の品質管理体制を維持できるため、公認会計士は監査法人化して監査をしなさい、ということになったのです。
少し前までは、個人としての公認会計士が監査する上場会社がありましたが、今では上場会社の監査は、ほぼ例外なく一定の条件をクリアした監査法人に限られています。
上場会社の監査を実施するためには、上場会社等監査人として登録する必要があります。監査法人は約300法人ありますが、上場会社等監査人として登録されている監査法人はその半数以下の130法人です。
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■ 2.監査法人の分類とシェア
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監査法人は大手監査法人(4法人)、準大手監査法人(4法人)及び中小監査法人に分類されます。この分類は実態からそうなったということでもありますが、監督官庁である金融庁による分類です。
大手監査法人は、会社数では上場会社の約6割、時価総額では約9割の会社の監査を実施しています。会社数では、4割すなわち約1,500社の上場会社が大手監査法人以外の監査法人の監査を受けていることになります。
以前は大手監査法人が上場会社の約8割以上を監査していましたが、大手から準大手・中小への異動があったことから、大手監査法人のシェアが減少しています。これは、大手監査法人が大規模な上場会社にシフトし、リスクの高そうな中小規模の上場会社を避けたことが主な原因と考えられます。
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■ 3.大手監査法人の規模拡大
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筆者がトーマツに入った当時は全国で300人ぐらいの組織で、その時の業務はほとんど監査だけでした。その後、監査以外にも力を入れるようになり、今では監査以外の業務を行う法人を含めるとグループ全体で2万人を超える組織になっています。そのうち、監査法人は約6,200人とグループ全体の3分の1程度になりました。
監査法人はこの50年で20倍の規模になりましたが、グループ全体でみると70倍の人数になったことになります。私の入った監査法人は、スタートアップ企業並みの成長をしたということになります。グループの収益は約4千億円となり、プライム上場企業の平均売上高を超える水準になっています。
前述のとおり、大手監査法人の上場会社における会社数のシェアは低下しましたが、大規模な会社にシフトして1社当たりの収益が増加したことと、非監査業務の増加により大手監査法人の規模は拡大基調にあります。
監査法人を中心とした大手監査法人グループのトップは、これまで例外なく公認会計士でした。しかし、今年の6月、トーマツではコンサルティング出身のパートナーが、グループのトップに就任しました。監査法人グループといっても、公認会計士が経営トップではない時代になったということになります(ちなみに、監査法人のトップは公認会計士です)。
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■ 4.社員と職員
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監査法人は、会社法ではなく、公認会計士法で定められた法人で、会社法における合同会社のように、出資者と業務執行者の区別がなく、法律ではこれを社員と規定しています。社員は欧米の制度に合わせて、パートナーと呼ぶことにしています。
業界の笑い話で、公認会計士:「お母さん、ついに私は社員になりました」、お母さん:「これまでは何だったの?」というのがあります。仮に「パートナーになった」と伝えたとしても、別の誤解をされたと思います。
監査法人ではパートナー以外の人達を職員と呼ぶことが多いですが、職員から社員になったと言っても、分かってもえないでしょう。
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■ 5.有限責任監査法人とは
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監査法人には、有限責任監査法人と、何もつかない「無印」の監査法人があります。「無印」の監査法人は、無限責任監査法人ということになります。監査を失敗して損害賠償責任を追及されると監査を担当した社員が責任を負うのは当然のことですが、それ以外の社員も無限連帯責任を負うというのが、無限責任の意味です。
そうすると、有限責任が良さそうに見えますが、有限責任監査法人は登録制であり、一定金額の供託金が必要となり、他の監査法人の会計監査を受ける義務があるなどの制約があります。このためか現状、有限責任監査法人は36法人しかありません。大手監査法人は4法人とも有限責任監査法人です。
有限責任監査法人が作成した監査報告書を見ると、署名欄に「指定有限責任社員」と書かれています。これは、署名する社員が有限責任であるということではなく、この社員は無限連帯責任を負う人であることを意味しています。
これは有限責任社員のうち指定されて無限責任になっている人という意味になります。金融庁が決めた分かりにくい業界用語です。なお、監査報告書に署名した社員だけでなく、法人内で独立した立場で監査の内容を審査した社員も、無限連帯責任を負うことになります。
ちなみに、監査法人は損害賠償保険契約をしていますので、まずは保険でカバーされ、それを超えた支払額は、法人内で分配を決め、監査担当者の支払額を大きく設定することになります。ただ、無限連帯責任であると、お金がありそうな社員が訴えられる可能性があります。
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■ 6.監査法人の交代はあるのか
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有価証券報告書を見ると、同じ監査法人が何十年も監査を継続している事例が多いことが分かります。欧州では原則10年で監査法人を交替させるルールがあります(いろいろな抜け道はあるようです)。日本や米国では、監査法人の交代ではなく、監査を担当する社員の交代ルールが決められています。
日本では、5年/7年ルールが適用されます。上場会社等監査会社数が100社以上の監査法人(大規模監査法人)については、筆頭業務執行社員(一番上に署名する社員)は5年、その他の業務執行社員は7年で交代する必要があります。大規模監査法人に該当しない場合は、どの社員も7年ルールが適用されます。
監査法人交代の方が、会社との癒着を防止点では優れていますが、交代のためのコストがかかることから、日米では、これは採用されていません。日本では何度か監査法人交代ルールの検討が行われましたが、今のところ、現行制度が変更される気配はありません。
前述のとおり、これまで、大手監査法人から準大手・中小への監査法人の異動がありました。最近は中小から中小への異動が増えているそうです。法律による義務ではないですが、会社が監査法人を交替させたり、監査法人が監査契約を辞退したりすることがあります。
現状、毎年200社前後の上場会社で監査法人の異動があります。これは計算上、20年ですべての上場会社の監査法人が交代する会社数ではありますが、監査法人が交代する会社が主に中小上場会社に偏っており、大規模な上場会社では何十年も交代していない現状が続いています。
といっても、大規模な有名上場会社の監査が、私が所属していた監査法人に異動してくると聞くと、自分が担当しなくても、何となく元気が出る感じがしたことを覚えています。
監査法人について、まだまだお話したいことがありますが、今回はここまでとし、別の機会にこの続きお届けしたいと思います。
本日もAW-Biz通信をお読みいただきありがとうございます。




