vol.187 組織と自分の多様性が不祥事を防ぐ
ビズサプリの辻です。
大学受験シーズン真っ只中ですね。その日のために頑張ってきた努力をしっかり発揮できることを心からお祈りしています。ただ、この受験シーズンは、感染症ピークの時期と重なります。今年もインフルエンザやコロナが流行している中ですから、受験生を持つ家族はヒヤヒヤものでしょう。「子どもが受験だから最低限しか外出していません。」というお声を聞くことも多いです。
日本の受験がこのような一発試験で決まらなければこのようなこともなくなり、普段の力そのもので入学が決まればよいのですが、一般的にはまだまだ一発試験が主流です。「その日」にピークを合わせるということも試験科目の一つなのでしょうね。ちなみに日本と同じような一発試験方式はアジアの国が多く、アメリカやヨーロッパは高校の成績や、書類審査、年に複数回受験可能な学力テストなど学校によって様々な方法で決まるようです。
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■ 1.ロッキード事件以来?
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政治家のパーティー券を用いた裏金問題が連日報道されています。パーティー券をノルマ以上に販売したらその超えた部分は裏金にしていたという手口も「恥ずかしい」と思いますし、その後の説明もひど過ぎです。加えて野党の対応も鬼の首をとったような発言ばかりが報道されていて、なんだかモヤモヤして非常に不愉快です。
もちろん、説明責任はしっかり果たしてもらうのは重要ですが、どうせそんなお金、まともな使い道には使っていないでしょうから満足な説明はできないでしょう。
そのようなお金に群がる人達がたくさんいたことも事実だと思います。災害や戦争・紛争がある中、国会議員がもっと議論しなければいけないことはたくさんありますから、そういう古い常識の年代の方たちにはいったん全部引いていただいて、今後はシンプルに「コーポレートカードでのみ経費支出し、会計システムに自動連携、そして総勘定元帳を公開、以上!」にならないものでしょうかね。
しかし、そもそもお金が動いているのに、いくら派閥から「帳簿につけなくていい」と言われたとしても、それをまともに信じていたとしたら、社会人(おとな)としての「会計リテラシー」が無さすぎではないでしょうか。
「お金が動いたら帳簿につける」というのは当たり前のことです。お金の使い道をきちんと説明するのが帳簿です。帳簿に付けないということは、それだけで説明できないやましいお金だと言っていることになる、ということが分からないのであれば、政治家云々の前に社会人としての資質に欠けると言わざるを得ません。(多分、裏金用の帳簿はあると思います。出てこないでしょうけれど)
この裏金問題のニュースの中で「ロッキード事件以来の裏金疑惑だ」といったような報道があり、中2の娘から「ロッキード事件って何?」と聞かれました。
うまく説明ができず「田中角栄元首相が賄賂で逮捕された事件」ということ以外、実はどのような事件であったのかあまり知らないことに気づきました。ロッキード事件とは何だったのでしょうか。
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■ 2.ロッキード事件は冤罪なのか
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ロッキード事件について、私の大好きな小説家である真山仁氏が「ロッキード」(文春文庫)というノンフィクション小説を出されていることを知りました。
この本は真山氏が、『その新聞記者よりも新聞記者らしく、どのジャーナリストよりもジャーナリストらしく、もつれて曲がりくねる細い糸をたぐり、関係する人を探し当て、愚直に話を聴き(中略)誰よりも高く雄大に想像の翼を羽ばたかせ、日本とアメリカの双方を一望の下に事件の裏と表の双方を俯瞰し、新たな仮説を提示する』(ロッキード解説 奥山俊宏より抜粋)ものです。
本の中では、ロッキード事件というのは実はまだまだ謎が多いこと、報道に基づいた怒りの世論が、判事も逆らえないほどの勢いと熱量をもってそれが元首相をも追い詰めていったこと、検察の主張は証言ばかりに過度に頼っていること、それにも関わらず、第一審の弁護団が機能しなかったこと等が鋭い視線で書かれています。真山氏は多くの疑問を書籍の中で呈しています。
・法律に詳しい田中角栄が本当に外国法人(ロッキード社)からお金を受け取っていたのか
・そもそも首相に民間会社の航空機を採用するにあたる職務権限があるのか
・現金受領の日の天候を考えると検察の主張通りだとすると不自然な動きをしなければならない(雪が降っていた)
・証人の多くが裁判の場で検察の作成した調書の内容を否認している
・弁護士の立会がない状況での海外での尋問など、不適切な方法での証拠収集が行われている
・どうしてもわからない現金の流れ
このような疑問に対して、文書やヒアリングにより著書自身の仮説を立案し、その検証をしており読み応えがありました。ご興味のある方は是非手に取ってみてください。
ただ、実際には、田中角栄本人が最高裁判決の前に病気で獄中亡くなってしまったこともあり、中途半端な形で裁判は終わり、真相は闇の中になってしまいました。関係者の多くもすでに鬼籍に入っており、真相に迫ることは難しいようです。
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■ 3.繰り返される冤罪事件
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本の中で何度も書かれているのが、「検察が作ったストーリーに辻褄を合わせて、状況証拠を都合のよいように組み立てている」という点です。客観的に見れば「こじつけ」に近いような論理でも正々堂々と主張し、それ以外の事実が出てきたとしてもそれを無視するといった姿勢です。
同じような事件で記憶に新しいのは、障害者郵便制度を悪用したとして、当時厚生労働省の局長だった村木厚子さんが逮捕された事件です。村木氏の事件の場合は、村木氏の頑張りと弁護団の徹底的な証拠の検証により、検察が証拠を改ざん・捏造していた事実を発見し、見事無罪を勝ち取りました。そのあたりは村木氏の著書である「日本型組織の病を考える」(角川新書)に詳しく記載されています。『自分たちのストーリーに当てはまる話は一生懸命聞き出そうとするけれど、自分たちに都合の悪い話は一文字も書こうとしない。自分たちの裏付けに使えるか、使えないかの1点のみで証拠が検討され、使えないものは無視されていく』とのこと、驚くことばかりです。
また、つい最近でも横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長などが、軍事転用が可能な機械を不正に輸出した疑いで逮捕、起訴されましたが、その後起訴が取り消されたという事件がありました。不幸なことに逮捕され3名のうち1名が拘留中にがんで亡くなりました。この事件では、残された会社の社員が何度も軍事転用ができない旨の実験データ等を提出したものの、捜査にあたった公安部では、実験の仕方を自分たちのストーリーが成り立つような条件でのみ実験を行い、また専門家の見解も自分たちのストーリーに合わせて都合よく切り取って使っていました。(その専門家は、自分の意見が切り取って警察側の論理を補強するために使われていることを知らなかったそうです。)
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■ 4.仮説検証アプローチ
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事件を調べる側が自分たちの立案した仮説に固執するために、それを裏付けする証拠を捏造することは恐ろしいことで、あってはならないことではありますが、「仮説を立て、それを立証していく」という「仮説検証アプローチ」自体は捜査において常に使われている手法です。
このアプローチは不正調査でも利用をします。不正に関連する情報を収集し、わかっている情報から「多分〇〇ということが生じているのではなかろうか」という仮説を立案し、その仮説に関連する情報をさらに収集して、その仮説が正しいか、正しくなければ新しい仮説を立案しそれを検証していくということを繰り返し、実際にはどのような不正が行われていたのか(又は行われていなかったのか)の事実認定をしていきます。
不正調査でも、上記で指摘した捜査機関と同じく、一度立案して仮説に拘り過ぎて誤った判断をしてしまうこともあります。客観性や中立性を重視した第三者調査が入ったとしても、不十分な調査で誤った結論を出したということで「再調査」となっている事例や、ヒアリングを受けた当事者から「事実と異なる」といった反論を受ける場合もあります。このようになってしまうのは、人間は一度仮説を立ててしまうと、自分たちの仮説を支持するようなデータや資料ばかリに目が行き、反証するようなデータや資料、証言を軽視してしまう「確証バイアス」が働いてしまうためです。
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■ 5.確証バイアスを防ぐために
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「確証バイアス」は人間が持つ性質です。みなさんも自分の意見をサポートする情報ばかりに目が行く、という経験は多くあるのではないでしょうか。
・買収をしようとしている時に、先方の会社の良いところしか見えてこない
・新規出店を考えている場所の良い情報ばかりが入ってくる
・株式を購入すると決めた企業の良い情報にしか目がいかない
といったことです。
ちなみに、「確証バイアス」自体は悪いことばかりではありません。人間がこのような性質を持っているのは、限られた情報の中で効率的に判断をするために備わった能力で、これにより意思決定が早くできるために備わったものです。
重要なのは、確証バイアスによって「見なければいけない情報が見えていない」という状況を避けることです。例えば買収や新規出店であればリスク情報、捜査であれば自分たちの仮説が誤っているという証言やデータにあたるもので、そこにもしっかり目を向けた上で、それでも自分たちの仮説が正しいかどうかを検討する必要があります。それができるためには、同じ価値観でない異なる視点からの意見を取り入れる事が必要です。
最近では、そのような多様な目を組織に入れる事の重要性について、特に不祥事が起きた企業には指摘をされています。
また、このような組織の多様性だけでなく、自分自身の人生の幅を広げていくことも、誤った判断をしないという意味では大切だということを、村木氏は前述の著書の中で述べています。
「なぜ、仕事と家庭生活の両立が必要なのか、なぜ労働時間の短縮が必要なのかと聞かれたときに、仕事だけという生活はすごく危なくて、一本の杭に両足を乗せて立っているようなものです。それだけが自分の全世界だと思ってやっている。
でも、杭にしがみついている限りは見えないかもしれないけれど、視点を変えて、辺りを見回してみたら、二本目の杭、三本目の杭が見つかるかもしれません。
仕事だけでなく、家庭生活とか、住んでいる地域とか、遊びとか趣味の世界とか、全く別の世界が周囲にはある。それに気づくことで視野が広がり、自分も楽になる。」
同じ組織の中で、「間違っている」と思ってもそこにしか居場所がないとなかなか立ち止まれず、「おかしいと言えない」まま長年不正が常態化している「品質不正」などにも通じるのではないでしょうか。そこにしか居場所がない一本杭にしがみついている人達で構成されている組織は、確証バイアスにもかかりやすく、かつその間違った判断を止めにくい風土になっているのではないでしょうか。
仕事人間が評価されない組織にしないと、「モノが言えない組織風土」は変えられないのかもしれません。
本日も【AW-Biz通信】をお読みいただき、ありがとうございました。