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Vol.127 コーポレート・ガバナンス虚偽記載事件 (2020年12月23日)

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【ビズサプリ通信】

▼ コーポレート・ガバナンス虚偽記載事件

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ビズサプリの久保です。新型コロナウイルス感染症の拡大が続いています。 12月に入り、1日の新規感染者数が毎週のように過去最多と報じられ、Go Toトラベルキャンペーンも一時停止となる事態になっています。 第3波の感染拡大は、これまでにない規模になりました。このため、 筆者はほぼ在宅状態を続けています。

今回は、本年11月27日に監査法人と公認会計士に対する金融庁処分が発表された虚偽記載事件についてお話したいと思います。

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■ 1 事件の経緯とコーポレート・ガバナンスの虚偽記載内容

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情報通信ラックや太陽光発電システムなどの製造・販売を行う、東証JASDAQ(スタンダード)上場の日本フォームサービス株式会社(以下「日本フォーム」)は、2017年9月期及び2018年9月期の決算について外部からの指摘を受け、2019年4月5日に第三者委員会を設置しました。この第三者委員会による調査の結果、決算上の問題だけでなく、コーポレート・ガバナンスに関する開示内容の虚偽記載が発覚しました。

驚くことに、同社のコーポレート・ガバナンスは、有価証券報告書(金商法)や事業報告(会社法)に記載されていた内容と全く違っていたのです。

(1)取締役会

2014年度から2018年度まで、取締役会は年間12回開催されたと記載されていましたが、実際は、年間3回しか開催されていませんでした。しかし、開催されていない取締役会の議事録だけは作成されていました。この議事録は、社長ミーティング等で討議されていた事項や前年の議事録の記載内容を参考に経理責任者が作成したものでした。 取締役及び常勤監査役はこれらの議事録に自ら押印し、社外監査役については、 保管していた印鑑を使って押印していました。

(2)監査役会

監査役会は年間4回開催された旨が開示されていましたが、実際は全く開催されていませんでした。非常勤監査役は、年3回の取締役会に出席する以外には、監査役としての活動はしておらず、常勤監査役と連絡をとることもしていませんでした。 常勤監査役は、経営会議に出席していましたが、非常勤監査役2名に経営会議の情報を共有することはありませんでした。 監査役らは、期首に作成すべき監査計画を作成せず、重点監査事項の策定や、 監査の方針、職務の分担等を定めることもしていませんでした。また、会計監査人と接触を持つこともなく、情報交換もしていませんでした。 監査役監査報告書は、経理責任者が作成し、常勤監査役が押印していました。

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■ 2 事件発生の背景

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日本フォームは創業者一族が発行済み株式の過半数を所有する会社であり、オーナー経営者がワンマン経営を行っていました。社長ミーティングや経営会議の場では、社長に対して異を唱える出席者はおらず、取締役の多数決ではなく、社長の指示に基づいて物事が進められていました。 経営会議の席上で本件会計操作の一端がやりとりされたことがありましたが、 常勤監査役は事実を確認しないまま放置し、非常勤監査役には何も伝えず、 会計監査人に情報共有することもしませんでした。

社外取締役は選任されておらず、「無理に社外取締役を導入すると取締役会の機能を低下させるおそれがある」ということを選任しない理由として開示していました。

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■ 3 監査役はどんな人だったのか

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取締役の職務の執行を監査するはずの監査役はどんな人だったのでしょうか。 常勤監査役は38年間陸上自衛隊に勤務し、同社に入社して約5年後の2015年12月に常勤監査役に就任しています。おそらく、社長が自分に都合の良い人を常勤監査役に選任したのでしょう。

社外監査役は弁護士と医師でした。監査役が何をすべきか知らない弁護士はいないでしょう。監査役報酬は年間2名で300万円、一人平均150万円でしたので、名前だけ貸している感覚だったのではないでしょうか。ただ、年に3回、取締役会に出席するだけで150万円ですので、悪くない仕事だったと言えます。

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■ 4 粉飾決算の内容と理由

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上記のとおりコーポレート・ガバナンスがほとんど機能していない状況でしたので、社長の指示を受け、経理責任者が会計操作を自在に行っていたようです。

第三者委員会報告書には、経営陣が認識する意図的な会計操作として、子会社における売上先行計上、在庫の水増しなど8項目が挙げられています。このような粉飾決算を行った理由は、「金融機関とのコミットメントライン契約における財務制限条項として定められていた経常損失の計上を回避する ため」としています。

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■ 5 監査法人は何をしていたのか

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監査法人は、2017年9月期と2018年9月期の2期連続して、システムが故障したとする理由で会社から資料の入手ができなかったことを不審に思わず、形式的な監査に終始していました。減損処理や棚卸資産の監査においても十分な監査手続を実施していませんでした。金融庁は「監査報告書の提出期限内に無限定適正意見を表明することを最優先と考え」たとしています。

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■ 6 金融庁等による処分

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金融庁は、有価証券報告書の虚偽記載に関して、日本フォームに対して2,400万円の課徴金を課しています。一方、東証は上場契約違約金2,000万円の支払を求めました。 同社の取締役会は、元取締役及び元監査役に対して、3か月分の月額報酬の10%から30%の自主返納と役員退職慰労金の不支給を決定しました。 金融庁は、同社の監査を実施していた監査法人大手門会計事務所に対して、業務停止5ヶ月、公認会計士2名のうち1名は登録抹消、もう1名は業務停止 2年という厳しい処分を下しました。金融庁による処分を受ける前に、この監査法人は解散し清算法人に移行しています。

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■ 7 上場廃止か

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東証は、同社を2019年8月に特設注意市場銘柄(以下「特注銘柄」)に指定し、その1年後の判定の結果、特注銘柄指定を継続しています。当初の指定から1年6か月後の2021年2月の判定で内部管理体制等に改善が認められない場合には、同社は上場廃止となります。

2020年8月に特注銘柄継続となったのは、支配株主である元社長の影響力が排除されていないことが理由となっており、これを改善するのは容易ではないと考えられます。

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■ 8 社長と経理責任者の責任

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この不正に関わった経営陣は2019年9月に全員辞任しています。辞任すれば「無罪」でしょうか。この事件は、社長が主導したことは明らかです。議事録を捏造し、会計操作を行った経理責任者の責任も重大です。 我が国の法律は、経営者に対する刑事罰が甘い傾向があります。

我が国では、 有価証券報告書などの虚偽記載について、「10 年以下の懲役若しくは 1,000 万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する」(金融商品取引法197 条1項 1号)となっています。これに対し、米国SOX法では、最高500万ドル(約5億円)の罰金及び最長20年の禁固刑となっています(SOX法906条)。

日本では、粉飾決算を行った会社とそれを見逃した監査法人には課徴金を課す制度がありますが、経営者に課徴金を課す制度はありません。また、公認会計士には業務停止処分等が行われますが、経営者に対してこのような 行政処分はありません。経営者には株主代表訴訟などの民事責任を問うしかありませんが、米国ほどの訴訟社会ではない我が国では、それが十分機能するとは言えません。 このような事件の再発を防止するためには、経営者に対する刑事罰や行政処分を厳しくする必要があると思われます。

 本年も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。 良いお年をお迎えください。来年もよろしくお願いいたします。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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