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会計

Vol.6 「のれん」とは何か (2015年6月17日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━vol.006━2015.06.17━

【ビズサプリ通信】

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ビズサプリの三木です。

最近は日本企業も盛んにM&Aを行います。このためか、「のれん」という言葉 を新聞などでもよく目にすることになりました。

今日はこの「のれん」について考えてみたいと思います。少々理屈っぽい内容ですが、ご興味ある方は是非お読みください。

なお、文中の意見は筆者個人の私見であることを予めご了承ください。

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■ 1.「のれん」とは何か

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店舗や飲み屋の入口には、目隠しや日よけのためののれんが吊るされています。 のれんには店名や屋号が描かれていて、店名や屋号で店の格がわかります。

このことから、会計上でも格式やブランドを表すものとして「のれん」という言葉が使われるようになりました。カタい言葉では「超過収益力」と説明されたりします。

格式やブランド力はどんな会社にもありますが、それがいったいいくらの価値なのかは、なかなか分かりません。

それが外から見えるようになるのが合併や買収の時です。100の純資産しかない会社を150で買収した場合、50は「目に見えない何か」に対してお金を出したことになります。この50部分が「のれん」として会計上も計上されることになります。

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■ 2.償却するか、しないか?

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「のれん」についての会計上の大問題といえば、償却するかどうかです。

日本基準では20年以内で償却します。

「M&A時点のブランド力は段々と無くなっていくものであるから、一定年数で 消すのが正しい」という考え方です。また、「のれん」は換金できないので、いつまでも資産に計上し続けるのは良くないという考えもあります。

IFRSや米国基準では償却しません。

企業はM&Aで得たブランド力をあの手この手で維持発展させるはずだから、その 価値が明らかに落ちた場合(その場合は減損します)を除き償却するべきではないという考え方です。また、収益力の維持発展のために広告などにコストをかけるでしょうから、そ うした費用と償却費を同時に計上するのは理論的に不整合という考えもありま す。

どちらの考え方も筋は通っています。 世界的には非償却が主流ですが、その場合はいつも減損リスクを抱えます。

のれんはかなり巨額になりますから、不景気でのれんの減損が多発すると、それが経済をさらに冷え込ませる・・・ という負のスパイラルに陥る懸念もあります。

ちなみにIFRSも米国基準ものれんは非償却ですが、反対意見もけっこう多く、 決して一枚岩ではありません。 この議論は昔から行われていますが、いつまでもすっきりとは解決できない問 題となっています。

ソフトバンクは米国スプリントの買収で約3,000億円ののれんを計上しました。 巨額になりがちなのれんは、理論的にも実務的にも扱いが厄介と言えます。

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■ 3.自己創設のれん

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「のれん」はM&Aの時しか計上しません。

自社で自社の価値を算定して計上する「自己創設のれん」は、会計上は認められていません。なぜでしょうか。

「のれん」の金額を自ら見積るということは、自社の将来の収益力を金額換算 することと同じです。 これでは経営者のお手盛りが避けられません。算定方法も複数あるため、どの 数字が正しいのか分からなくなります。 これが自己創設のれんが禁じられる一般的な理由とされています。

でも、それ以上に重要な理由は、会社と投資家の役割分担にあると私は思っています。

上場企業であれば、企業の収益力は株価総額という形で市場が評価します。 この場合、自己創設のれんは株価総額と純資産の差額になります。

つまり、財務諸表から企業の将来の収益力を予測するのは投資家の役割であり、 自己創設のれんの価値をどう考えるかは、財務諸表の作り手ではなく、使い手の役割と言えるのではないでしょうか。

このように考えると、自己創設のれんは「載せても意味が無いし、そもそも財務諸表の作り手のやることではない」ために計上しないという理屈になります。

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■ 4.開示の充実と自己創設のれん

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自己創設のれんは、財務諸表に載っていないものの、非常に重要性のあるものです。 企業が自社のブランドをどう育て、それをもって将来どれくらい収益を獲得するかは、投資家の最大の関心事とさえ言えます。

そこで、会計上では自己創設のれんを計上できなくても、会計以外の情報も交えて有用な情報を提供することは盛んに行われています。

有価証券報告書には財務情報以外にも従業員や設備など多様な情報が記載されています。 IFRSでは財務諸表の本表以上に注記情報が充実する傾向があります。

ある意味で究極の形が統合報告といわれるもので、企業の収益性や成長性を様々なステークホルダーとの関係からアピールしていきます。 環境への対応や社会的責任をきちんと果たす企業は長期に渡って成長でき、自己創設のれんも大きいというわけです。

このように、自己創設のれんが計上できないことと非財務情報の開示の充実はある意味で表裏の関係にあると言えます。 財務諸表には計上できない、けれども重要な自己創設のれんをどう表現するか、 今も試行錯誤が続いています。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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