vol.188 街角経済学vol.4 就活人気企業と企業の持続可能性について
皆様、こんにちは。アカウンティングワークスの花房です。
東京都心では、来週24日が桜(ソメイヨシノ)の開花予想となっています。これには、2月1日からの最高気温の累積が600度になると開花する600度の法則と、平均気温が400度に達すると開花するという400度の法則があるようですが、昨年の3月14日よりは遅いものの、近年の暖冬で間違いなく桜の開花時期は早くなってきています。
そのため、過去には桜と言えば入学式や入社式のイメージがありますが、4月の入社式や入学式の時期には満開時期は過ぎていることも多くなっています。企業としては人材難のなか、いかに新卒の学生を確保するかますます重要な課題となっていますが、一方で就活生にとっては、如何に入りたい企業に入社出来るかが関心事になります。
昔から、就活人気ランキングなるものがあります。人気企業や業種は、時代とともに変遷していますが、その理由の1つに世界や日本の経済情勢の変化もあるように思います。今回は、就活人気企業と経済について考えてみることにします。
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■ 1.就活人気企業の変遷
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今年の株式市場では、2月22日に日経平均がバブル期の最高値である3万8,915円を超え、さらに4万円前後に達しています。バブルが崩壊したと言われている1991年卒での就活人気ランキングでは、文系ではトップ10に航空会社2社(ANAがトップ)、商社2社、都市銀行3社、あとはJR東海、NTT、東京海上という顔ぶれでした。
それが約30年後の2021年新卒では、航空会社2社、東京海上は引き続きトップ10にいるものの、その他の顔ぶれは変わり、1位はJTB(2001年、2011年新卒でも実はトップ)、5位にオリエンタルランド、9位にニトリ、10位はソニーミュージックとサービス業やエンタメ系の人気が高まったり、文系でもソニー(理系ではトップ10の常連)や味の素と言った、メーカーもランクインするようになってきています。一方でメガバンクやJR系、NTTはトップ10圏外となっています。
同様に理系で人気企業を比較すると、1991年卒は圧倒的に電気、重電、自動車が強かったのが、2021年卒では味の素(2位)、サントリー(4位)、カゴメ(7位)、明治グループ(9位)と飲料・食品系が人気となっています。
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■ 2.就職先の選定理由
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このように過去30年で就活人気企業の業種は入れ替わって来ていますが、最近の学生が企業を選ぶ決め手とは何でしょうか?ある調査会社の2025年卒の大学生を対象とした調査レポート(マイナビ 2025年卒 大学生 活動実態調査 (3月1日))によると、就職先として企業を選ぶ際のポイントとして1番は「待遇面(給与、休日休暇制度含む)が良い」(22.8%。昨年は18.3%の2位)、2番目は「社風や働く社員が良い・良さそう(22.6%。昨年は28.7%&の1位)」で、順位は入れ替わっているものの、この2つが最近の最重要ポイントのようです。3番目のポイントは今年も昨年も同じで、「安定性がある」(19.3%。前回は19.0%)ことが選ばれていました。
理由として、「待遇面の良さ」を選んだ人は「心身の健康の必要性」について言及する声が多く見られたようで、休日が多くて残業は少なく、ワークライフバランスを重視している傾向が垣間見えます。また、「社風や働く人の良さ」と「安定性」を選んだ人は「長く勤めたい」という声が多いことが共通していて、新卒で入社した会社に長くいるために、内的要因として自分に合う社風であり、良い人間関係を築けるか、外的な要因としては、コロナも影響していると思いますが不測の事態にもその企業が耐えられるか、ということを意識しているようでした。
待遇面は、給与水準よりも、仕事以外の時間がどれだけ取れるのかが重視されているものの、最近の賃金引き上げのトレンドを見ていると、企業側はそれに加えて、新卒者の初任給の引上げを続々と発表しており、世の中の要請、学生の希望に応えた動きになっています。
また、最近では新卒者は3年で3割辞める、という定説のようなものがあるので、このアンケートから分かる就活生の思いとしては(そもそもアンケートにきちんと回答している方はきちんと就職先を選んでいる意識の高い方であるからかもしれませんが)、新卒で入社する会社で長く働きたいと思っている人が多いことは意外でした。「終身雇用」と「年功序列」は日本型雇用の古い悪しき特徴と言われています。確かに年功序列はいいと思いませんが、終身雇用そのものは企業側も従業員側も双方が望む仕組みであればいい制度だと思いますので、今の時代、その企業の社風に合う形で仕組みを作ることが出来れば、強い組織基盤となり、企業としての持続性が高まるのではないかと考えます。
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■ 3.企業の持続可能性、結局は?
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学生が入社する企業に安定性、すなわち長く継続できる企業であることを求めることに対して、その企業が未来永劫存続するかは未来の話であり、ましてや様々な不確実性が高まっている現在、結局のところは誰にも分かりません。しかしながら、特に上場会社では市場から中長期的な企業価値の向上を期待され、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応が求められています。
1年前の昨年3月末に、東京証券取引所はPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る上場企業に対して、株価水準を引き上げるための具体策を開示・実行するよう要請し、波紋を広げました。PBRが1倍を割っていることは極論を言うと、時価総額よりも解散価値としての純資産が大きいことを示し、事業を止めて残余財産を分配した方が株主にとってはメリットがあることを意味します(もちろん業種特有の事情や個別銘柄の市場流動性等の様々な複合要因がありますが)。これに対して、実際に成長分野への投資機会が将来も乏しいような企業は、余剰資金を使って増配や自己株買い等の株主還元策を実施したり、ROE改善策を発表してそれがPBR改善に繋がっているケースもあります。
日経平均がバブル期最高値を更新してきた理由の1つとして、東証が打ち出したこの低PBR企業への働きかけが奏功した部分も大きいかと思います。本質的には、短期的な株価の上下に一喜一憂するのではなく、収益性の高い事業に資金を配分し、当該事業を成長させていくことが結果的に株価を意識した経営になりますし、企業が永続することにも繋がります。
なお、PBRという株価指標は、『時価総額÷純資産』の数式で表されますが、これは当期純利益を間に挟むことで、『時価総額÷当期純利益』×『当期純利益÷純資産』に分解出来ます。前者がPER(株価収益率)と呼ばれるもので、株価が利益の何倍かを意味し、企業の成長期待を表す指標と言われます(後者がROEですが、本日は触れません)。つまり、毎期の純利益が一定とすると少なくとも何年はその企業が持続出来るか、を意味しますから、この倍率が高いほど、企業が成長して持続出来る可能性が高いことを表すことになります。
PERの水準は、成熟した企業では平均すると15~20倍と言われています(実際に東証の過去のデータを見るとそうなっています)。もちろん単年度で極端に利益が少ないとか特別な損益を計上した場合には上下しますが、長い時間軸で見るとこのレンジに収束します。最近の株高によってもこのレンジを逸脱していませんので、上場企業の利益もしっかりと増えていることの裏付けでもあります。そしてこれは、人間が予想出来る、将来を見通せる期間はせいぜい15年~20年先、ということの裏返しではないかと思えます。
大企業であっても、経営者のかじ取り次第で業績は大きく変わりますし、偶発的なイベントで大きなダメージを受けることもあり得ます。企業運営とはまさに大海を航行する船のようなもので、様々な気象条件の変化に対して、乗組員がチームワークを発揮し、目的地を目指して日々努力をしています。企業選びはどの船の船員となるかを選ぶことですから、船の大きさや速さのスペックだけではなく、最近の企業選択では、船での食事や乗り心地、プライベートな時間や空間の確保が重要な選択ポイントになっているのだと思います。
そして、出来れば長くその船に乗って自らを成長させたいと多くの就活生が思っていることを考えると、今さえ良ければよい、刹那的と評される若者に対して私自身が少なからず偏見を持っていたと反省し、見方を改めたいと思います。桜は一瞬で散ってしまうからこそ美しいと言われるのですが、派手さはなくでも観葉植物のように、むしろ着実に緑を保ち成長し続けるような企業が実は、30年後、50年後も持続できる企業かもしれません。
航海の話で言うと、目的地を探すための羅針盤に当たるのが、管理会計と言われます。AIは過去情報の入力には優れていますが、将来を見通す管理会計はまだまだ置き換えられない領域です。アカウンティングワークス株式会社では、常駐型の財務経理のアウトソーシングサービスを提供しています。予実管理や予算作成等の管理会計分野についても支援していますので、ご興味がある方はお気軽にお声がけ下さい。
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