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不正

vol.189 不正のダイヤモンド!?

ビズサプリの三木です。
世の中、不正や不祥事が尽きません。ジャニーズの性加害、ダイハツの品質偽装、ビッグモーターの不正請求など、ここ1年でも大きな問題がいくつも起きています。
不正や不祥事の度に調査委員会が立ち上がり、調査報告書が公表されます。そして、調査報告書の中で毎回のように取り上げられるのが「不正のトライアングル」です。

今回は、こうして認知度が上がってきた「不正のトライアングル」について、玄人好み?マニアック?な内容にはなりますが、少し深掘りしてご紹介していきます。

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■ 1.不正のトライアングルとは

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不正のトライアングルとは、「機会」「動機」「正当化」の3つが揃ったときに不正行為が起きるとする考え方です。
このモデルは不正を分析する上で最も知名度の高いモデルで、事実上のスタンダードになっています。インターネット上でも数えきれないほど記事がありますのでここでは詳細説明は割愛しますが、このモデルは犯罪調査で出てきた様々な要素を図式化することで生まれた理論であり、「机上の空論」でなく実例の積み重ねによるものと言えます。
実際に筆者の業務経験の中でも、多くの場合で現実の不正に上手くあてはまっていますし、実例に裏付けられたフィット感が、このモデルがスタンダードになった背景なのかなと感じます。

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■ 2.不正のダイヤモンド!?

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不正のトライアングルを発展したものとして、不正のダイヤモンドというモデルもあります、これは2004年にフォレンジックを業務分野としていた会計士が提唱したもので、これまでの「動機」「機会」「正当化」に、「能力」を加えた4項目で構成されます。「能力」は、地位や専門性のほか、嘘が上手いことなども含みます。
近年、このモデルが使用された例として島津製作所があります。島津製作所は、一時的に電源を遮断して故障を偽装する装置を組み込むことで不要な部品交換をさせる不正が発覚したとして、2023 年 2 月 10 日に調査報告書を公表しました。この調査報告書では、不正をした支店としなかった支店があることについて能力や実行可能性の違いであると分析しており、分析のために不正のトライアングルではなくダイヤモンドを使いました。
さらに不正のペンタゴンというのもあります。これは、不正のダイヤモンドに「傲慢さ」という項目を加えたものです。

トライアングル、ダイヤモンド、ペンタゴンを並べてみると、人の心を読み解く軸が増えています。島津製作所の調査報告書でも述べられていますが、もともと人の心を数個の軸でクリアカットに解析するのは無理な話であって、軸は多いほうが心理には迫れるものの、分析軸が多すぎるとモデルとして使いにくくなります。従って、トライアングル、ダイヤモンド、ペンタゴンのどれかが正解というわけではなく、トライアングルで分析しつつも、能力や傲慢さを考慮に入れるような使い方もアリではないかと思います。

この他にも不正分析のモデルはいくつも出ていますので、ご興味のある方は調べてみてください。こうなると何角形まで行くのか楽しみになってきますが、まだ「不正のヘキサゴン(六角形)」は出てきていないようです。

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■ 3.日本型不祥事のトライアングル

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不正と似たものに「不祥事」があります。例えば経営トップがハラスメントをはたらいたとか、情報漏洩を起こしてしまった等は不祥事であって不正ではありません。
不祥事には様々なものがあり、どこまでが会社の不祥事なのか、また不正との線引きも曖昧なところがあります。少なくとも、不祥事は意図をもって行われるとは限りませんので、動機や正当化といった不正のトライアングルの要素が当てはまらないことも多そうです。
実は2018年にCFE(公認不正検査士)の山本真智子さんという方が「日本型不祥事のトライアングル」というモデルを提唱しており、日本の場合は「無責任」「無知」「無思考」の組織風土によって不祥事が起きやすくなるとしています。確かに言われてみれば、そうした環境では不祥事は起きやすくなりそうです。一方で、例えば承認欲求によるバイトテロ(アルバイト従業員が悪ふざけのSNS投稿)のような不祥事に対して、この3要素だけで不祥事発生の構造を読み解くのは簡単ではなさそうです。個人的には、日本型不祥事のトライアングルは、それだけで不祥事の発生原因を包括的にとらえることができるフレームワークというよりも、日本で不祥事が起きやすい組織風土を予防していくための警鐘として考えるのが良いのかなと感じます。
(もちろんこのモデルに価値が無いということではありません。不祥事は様々すぎてモデル化が難しく、まずは不祥事につながりやすい組織風土を3要素で表した、ということなのでしょう)

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■ 4.おわりに

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不正のトライアングルは優れたモデルだと思います。しかしながら唯一絶対のモデルではなく、3要素という限界もあります。こうしたモデルは思考の整理の枠を提供してくれるものの、それ以外の考え方を排斥してしまっては逆効果になりかねません。
不正や不祥事の対応にスタンダードモデルとなっている不正のトライアングルを使うにしても、様々なモデルの考え方に触れておくことで、より深堀りした予防策や再発防止策につなげていただければと思います。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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