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Vol.157 人的資本経営について

ビズサプリグループの花房です。

皆様、こんにちは。8月7日の日経電子版の記事において、「人への投資、企業価値を左右スコア上位の株価7割高」とありました。
従業員による評価が高い企業は株価、業績が好調ということで、企業以上に投資家は、人材投資に積極的な企業を評価していることの表れかと思います。

その文脈で、最近は「リスキリング」という言葉が度々紙面等に登場します。
リスキリングとは、経産省では、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定めています。特に、今の日本の現状として、DXを活用した付加価値の高い新規ビジネスを生み出せていないことを根本的課題と捉えて、デジタ人材を育成するために、リスキリングにより、大量にデジタル人材を育成することが急務と考えられています。

一方で、このメルマガでも何回か取り上げたように、持続的な企業価値向上のためには、イノベーションや付加価値を生み出す人材の確保・育成、人財ポートフォリオの再構築が必要と言われ、人的資本の非財務情報を公表する流れとなっており、経産省が主管して2020年9月にまとめた、通称人材版伊藤レポートの実践版として、今年の5月に、人的資本経営の実現に向けた検討会の報告書として、「人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。

そこで今回は、人的資本経営を実現するためにはどのように取り組むべきか、また人財ポートフォリオの再構築の要と考えられる、リスキリングについて考えてみたいと思います。

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■ 1.人的資本経営の実現に必要なこと

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VUCAと言われる予測困難な時代において、AIやロボットが社会に浸透し、デジタル人財の確保が急務な上に、脱炭素の流れで、産業構造に大きな変化が起きている。これは、既存の流れの延長線上にあるものではなく、急激な変化であり、パラダイムシフトと言われるくらいの急激な変化です。
従って、人材戦略も従来の延長線上ではなく、ドラスティックな変化が求められるため、それを実行するためには、「人材版伊藤レポート2.0」によると、次の3つの視点が必要になります。

・経営戦略と人材戦略の連動
・目指すべきビジネスモデルや経営戦略(To be)と現時点での人材や人材戦略(As is)との間のギャップの把握
・人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着させること

また、人材戦略の実行に必要な5つの共通要素として、次のポイントが挙げられています。

・目指すべきビジネスモデルや経営戦略の実現に向けて、多様な個人が活躍する人材ポートフォリオを構築出来ているか
・個々人の多様性が、対話やイノベーション、事業のアウトプット・アウトカムにつながる環境にあるのか(「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」)
・目指すべき将来と現在との間のスキルギャップを埋めるための「リスキル・学び直し」
・多様な個人が主体的、意欲的に取り組めているか(「社員エンゲージメント」)
・新型コロナウイルス感染症への対応の中で明確になった「時間や場所にとらわれない働き方」

視点の中では特に、経営者が本質を理解・納得した上で、トップダウンで強烈に浸透させることが必要であると思います。そのために、CHROというポジションを置き、社員や投資家といった利害関係者と対話しながら、丁寧な説明を地道に続けることが需要です。

また、共通要素にある「リスキル・学び直し」を如何に行うか、重要なのは、お仕着せではなく、従業員が自ら進んで学び直し、現状を打破したいと思う気持ちを醸成するかであり、そのためには、従業員が自ら学び直したいと思える環境を準備し、それに対するインセンティブを与えることが重要であり、その結果、従業員エンゲージメントが高まり、離職率の低下、イノベーションの可能性が上がるものと考えます。

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■ 2.リスキリングのために重要なこと

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「人材版伊藤レポート2.0」の公表と同時期の今年5月に、「未来人材ビジョン」というレポートが公表されました。これは、産学官が目指すべき人材育成の大きな絵姿を示すものとして、経産省がまとめたものです。
これを読むと、かなり衝撃的な内容で、危機感を煽るもののように思われます。
しかし、皆に本気になってもらうためには、危機感を共有するのが最も近道と思われるため、これくらいインパクトのある報告書は、むしろ歓迎すべきものと思います。

日本の生産年齢人口は、2020年で約7,400万人であるのが、2050年には約5,300万人と、現在の2/3に減少すると予想されています。また会計業務従事者や事務員といった、単純作業労働は9割以上自動化され、不要になると見込まれる一方で、IT技術者や新製品開発者の需要は増加していきます。

また産業構造も大きく変化し、脱炭素化の流れの中で、石炭・石油といった、化石燃料主体の事業は衰退し、太陽光や風力といった自然エネルギー(最近は揚水発電も話題になっています)、物流については成長が見込まれています。
また、このレポートではどちらかというと衰退産業に分類されていますが、農林水産業に代表される食に係る事業はむしろ、成長産業ではないかと思っています。
また、メタバースと言われるサイバー空間に係る事業も、今後ますます発展していくでしょう。

このようなパラダイムシフトの潮流の中で、社員に求められる能力も大きく変わっていくことになります。「未来人材ビジョン」レポートの18ページのスライドは、必要とされる56の能力が上手くまとめられていて一見に値するものですので、ご興味あれば一読下さい。

ここでは、現在必要とされる能力で重要なことは、「注意深さ・ミスがないこと」、「責任感・まじめさ」であるが、今後は、「問題発見力」、「的確な予測」、「革新性」が一層求められる、とされています。

また当然、コンピュータスキルや科学・技術も今よりも重要になるということで、DXを中心としたリスキリングが求められる現状があります。これは、我々現役世代について強く意識しなければならないことで、当社でも最近、シェアポイントを活用して社内のインフラに取り組むなど、新しい技術を積極的に取り入れています。

そして、従業員が自ら進んでリスキリングを行い、会社へのエンゲージメントを高める仕組みとして、旧来の日本型雇用システムからの転換が必要であるとし、特に労働市場をより流動化するため(リスキリングにより新たなチャレンジをし易くすると理解)、ジョブ型雇用のガイドラインの創設、兼業・副業の推進(社会保障制度も含む)、企業として、学び直し成果を活用したキャリアアップの仕組の創設、等が必要であるとしています。

また「未来人材ビジョン」レポートは今後の人材育成のための教育の視点にも言及しており、「一律・一斉で画一的な知識を詰め込むという考えを改め、一人ひとりの認知特性・興味関心・家庭環境の多様性を前提に、時間・空間・教材・コーチの組み合わせの自由度を高める方向に転換し、子どもたちが好きなことに繰り返し挑戦したくなる機会を増やしていく」ことが必要だと言及しています。

「未来人材ビジョン」レポートは、読みやすい形でまとめられており、プレゼン資料という意味でもためになる読み物ですので、是非一読されることをお勧めいたします。

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ビズサプリグループでは、DX推進のための、業務効率化のための実例に多く関わっており、会計のみならず、企業の様々な経営課題についても幅広いコンサルティングを実施していますので、ご興味がある方はお気軽にお声がけ下さい。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
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不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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