メールマガジン

メールマガジン

会計

Vol.98 令和の時代になって (2019年6月12日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.098━ 2019.6.12━━

【ビズサプリ通信】

▼ 令和の時代になって

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

皆様、こんにちは。ビズサプリの花房です。令和の時代がスタートして、1ヶ月が過ぎました。ようやく、『令和元年』、『R1』に慣れてきたころではないでしょうか。これで私も昭和から3世代を生きることになるわけですが、平成を振り返ってみると、経済的にはちょうどバブル崩壊から始まり、ITバブルやリーマンショックを経て、失われた20年とか30年という言い方もあれば、デフレの時代と言ったり、その中で銀行はメガバンク中心に合併が進んで数が減る等、経済・金融的にはマイナスの側面が強かったように思います。

一方でITという言葉が一般的になったように、情報通信技術の進展により、インターネットが普及して、仕事がパソコンベースとなり、個人でもPCを持つのは当たり前で、携帯もスマホにシフトしたりと、生活のインフラも大きく変わった時代でした。

平成を振り返ると、様々な切り口で変化の多かった時代と言えるのですが、こと会計に関して言えば、「会計ビッグバン」を契機に、やはり大きく変わりました。今回は、「会計ビッグバン」以降、複雑化してきている会計について、改めてその本質を考えてみたいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 1.会計ビッグバンとは?

----------------------------------------------------------------------

そもそも会計ビッグバンとは、2000年3月期に始まった、日本の企業会計基準を世界基準に合わせるために行われた数々の改革であり、一言で言えば、会計基準の国際化でした。それまでは、取得原価主義の下、含み損を計上することはあっても含み益は計上しなかったものから、時価会計が導入され、貸借対照表の項目について、時価で評価しようという流れになりました。

その評価方法においては、将来キャッシュフローを割引計算して時価を算出する方法が一般的となり、代表的なものとして、減損会計や退職給付会計が導入されました。これらは、アメリカの会計基準(US GAAP)や、国際会計基準(IFRS)で適用されていたものを日本基準に導入したもので、当時は、「コンバージェンス」と言われていました。そこから一歩進み、IFRSを全上場会社に原則適用するような方向性も示されたりしましたが、結果的には任意適用となって、現在に至っています。

私が会計士になった1997年はまだ会計ビッグバン前夜で、それまでの会計士は、試験に受かって一度会計士になれば、その知識で一生飯が食える、と言われていたくらい、会計基準に変化のない時代でした。それを象徴するのが『企業会計原則』(1949年制定)や『連続意見書』(1960年制定)と言われる基準で、1997年当時はまだ、これら40,50年前の基準を使って、会計処理を判断していた時代でした。日本ではまだ税効果会計すら一般的でなかった時代です。

そこから一気に時価会計へ舵を切り、会計基準が大幅に変わったことは、まさに「ビッグバン」と形容できる大変革でした。日本の会計基準が国際基準に近づき、海外から見て日本の財務諸表が信用できるものとなってきた一方で、会計基準そのものの難易度は増していると言えます(もちろん会計基準そのもののボリュームも増えましたが)。

特にIFRSについては、そもそも原文が英語であるため、その日本語訳自体が読みにくいことも相まって、会計基準を難しく見せている側面があると思います。また基準そのものの作りとして、原則主義(プリンシプルベース)を採っています。これは、原理・原則を定めて、その解釈や運用は企業に任せる考え方です。一方で従来の日本基準は、詳細な規定や数値基準(ルール)を決めて、それに従う考え方(ルールベース)なので、IFRSを理解するには、日本の会計基準とは違う考え方をまず身に着ける必要がありました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 2.正しい会計基準とは何か?

----------------------------------------------------------------------

では、IFRSの方が優れているとして近づいていく方向性なのであれば、なぜ全ての上場企業にIFRSを適用しないのか、IFRSを適用している企業とそうでない企業は物差しが違うので、投資家が比べられないのではないか、と言った声もあります。またのれんの会計処理に代表されますが、規則償却を求める日本基準の方が、財務諸表の健全性が増すという意見もあり、国際会計基準審議会(IASB)が、のれんの償却を検討し始めており、一体会計基準として何が正しいのか、という疑問もわきます。

これは、もっと大きな時間軸で会計基準の変遷を辿ると、正解が少し見えて来る気がします。つまり、元々会計は「現金主義」からスタートしています。複式簿記会計のスタート時から発生主義はあったという話もありますが、複式簿記が着目されるようになり始めた中世ヨーロッパでは、航海のプロジェクト毎の収支計算が重要であったこと、事業も小規模なものが多く、取引も現金取引が多かったため、現金主義で十分でした。

そこから、掛け取引や手形取引が増大し、企業規模が大きくなって利害関係者も増えて会計期間ごとの正確な損益計算の必要性が出てきたり、また産業革命以降設備投資額も巨額になって減価償却の重要性が増した、あるいは退職金制度が作られる等、経済活動の複雑化とともに、発生主義の必要性が徐々に大きくなってきた歴史があります。

そして近年は、機関投資家の発達とともに、投資対象としての企業評価の重要性が増したこと、M&Aが活性化してきたこと等が、企業そのものを取引対象として時価評価する重要性が高まってきたことにより、時価主義に偏重してきていると言う見方もあります。また会社を継続企業と見ず、清算前提であれば、清算価値としての時価評価が正しい会計基準ということになります。

つまり、会計(学)とは社会科学であり、物質的な正確性のような、唯一の正解がある自然科学と異なり、社会科学は時代により、また使い手の目的や価値観によっても、正しさが違うものなのです。

但し、会計がお金を扱うものである以上、1つだけ真理と言えるものがあります。それは、会社が設立されて(株主から出資を集めて)から清算される(全ての財産を現金化して株主に払い戻す)までの収支と、同期間の損益合計は必ず一致するということです。

損益計算書は、原則として未来永劫存続する、継続企業を前提として人為的に、通常は1年間で会計期間を区切り(最小単位としては日次決算の1日単位)、利益を計算するためのものです。それらの各会計期間を繋ぐための一時的な財務諸表が、貸借対照表です。全期間の収支と損益が一致するという真理を前提にすれば、極論すると会計処理としてどの方法を用いたかは重要ではなく、同じ方法を毎回適用するという継続性こそが最も重要だと言えます。

ましてや、プリンシプルベースで、各社の会計処理方法や注記を含めた開示は、同業種であっても乖離する可能性は十分あります。ルールベースでは、開示を含めて横並びで、金太郎あめを切ったような内容であったため、財務諸表の読み手に取って、企業間の比較は容易でした。IFRSでは、読み手が会社の会計方針をしっかりと理解(そのために会計処理の方法については詳細に記述されます)しなければならない上、注記の形式も各社まちまちであるため、ルールベースに比べて、企業間の比較可能性を犠牲にしていると言えます。その分個々の会社の状況を深く分析し、トレンドを比較するためには、各社の会計方針を細かく記載し、それらを継続して適用することが重要なのです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 3.哲学的思考

----------------------------------------------------------------------

IFRSでのプリンシプルベースと従来の日本基準のルールベースの考え方は、哲学的な言葉を借りると、プリンシプルベースは「演繹」的な思考、ルールベースは「帰納」的な思考と言えます。「演繹」は、普遍的な原理から論理的に推論し、個別の事柄を導く方法を言い、「概念フレームワーク」として財務報告の基本的な諸概念を示し、そこから個別の基準を開発するIFRSの発想は、「演繹」的なアプローチと言えます。

一方で従来の日本基準は、企業会計原則はその中で、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められるところを要約したもの、と言っていることから明らかなように、「帰納」的なアプローチに基づく基準と言えます。

哲学的には、「演繹」的な思考も「帰納」的な思考も、どちらかが優れている訳ではなく、考え方のアプローチの違いなので、時と場合によって使い分けられるものです。ただ、元々の文化というか、国民性として、日本人やアジア人は帰納的に物事を考えるのに対して、西洋人は演繹的な思考をする文化で育っているそうです。そのため、IFRSは日本人にとって、思考的に受け入れにくいものなのかもしれません。よりIFRSを深く理解し、使いこなすには、「演繹」 的な思考を鍛えるのがいいのではないかと思います。

なぜこのような話をするかというと、最近「哲学」にまつわる書籍や雑誌の特集を、本屋でよく見かけるようになりました。哲学とは、デジタル大辞泉(出典:小学館)によれば、「-世界・人生などの根本原理を追求する学問」とあり、平たく言えば、『なぜ』と問い続けながら、物事の本質をとらえようとすることだと言えます。そのために、様々な思考スキルが必要となります。また人に説明するには、論理的な思考が要求されます。

論理的な思考力は、人を説得したり、批判をするためのビジネススキルとして、今までも着目されていました。ここに来て見直されているのは、なぜ?、と「問い」かけることの重要性です。企業活動は問題や課題の解決の繰り返しですが、問題や課題がはっきりしていれば対策も打てますが、最近は問題や課題そのものが何かを見つけるのが難しくなってきています。

現代においては、人々の価値観を始め、様々なものが多様化しています。またそれぞれが複雑に関連している時代です。これらを形容する言葉として、VUCA(ブーカ)が言われています。これは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの英単語の頭文字から取った言葉であり、まさに今の時代を象徴しています。このような時代だからこそ、問題解決のスキルとして、また古代ギリシャ時代以降の、約2,500年にわたる賢人の叡智として、哲学が改めて見直されているようです。

なお、哲学というと、論理的な思考に傾きがちのように見えますが、古代哲学者のアリストテレスは、人を説得するには、「ロゴス・パトス・エトス」が重要だと説いたそうです。ロゴスは論理(=ロジック)ですが、論理だけで人は動かせず、合わせて情熱(パトス)と倫理(エトス)が必要だと言うことです。まさに真理であり、コーポレートガバナンスにおいて、経営者に是非持ってもらいたい3要素だと思います。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタントによる業務改善支援、M&A支援、システム導入のコンサルティングの他、財務経理業務のアウトソースも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。 https://biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

過去の記事

Bizsuppli通信

会計のプロフェッショナルが、財務・経営を考える上でのヒントとなる情報を定期的にメールマガジンにてお届けしています

購読お申し込みはこちら