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Vol.97 ヨーロッパで感じたESG (2019年5月22日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.097━2019.5.22━

【ビズサプリ通信】

▼ ヨーロッパで感じたESG

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ビズサプリの辻です。 この原稿をを書いている日曜日、爽やかな5月の陽気です。新しい時代の始まりということもあり清々しい気持ちにもなります。

令和の始まりを皆さんはどのように過ごされましたか?生前退位ということでお祝いムードの改元となり、これはこれでとてもよかったように思います。 実は私はGWは10年ぶりの海外でした。改元の瞬間はドイツの電車の中でした。 10連休を利用してのドイツ・フランスの家族旅行を楽しんでいたわけですが、海外に出ると日本との違いがよく見えます。10年前までは海外に出かけるとたいていは「日本はなんて恵まれているんだろう」「日本ってなんていい国なんだろう」と思いましたが、今回は訪れたのが欧州の先進国であったこともあり、「日本は大丈夫か?」と思う事の方が多かったように思います。 いつも不正・不祥事関連の話題が多いのですが、今回は趣向を変えて久々の海外で感じたことを書いてみます。

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■ 1.子どもにやさしい(社会)

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ドイツ、フランスともに本当に子どもに優しいです。ヨーロッパに駐在した友人から「ヨーロッパは子育てがしやすい。日本に帰国して子育てがこんなに大変だったかと思った」と聞いたことありましたが、今回訪れてみて「確かに」と思いました。 例えば

・電車/メトロ(地下鉄)で駅のホームにベビーカーを見かけると、例え混んだ電車であっても我先と降りて、ベビーカーを協力して乗せ、自らは次の電車を待つ。(これを本当に自然にやってのける!)

・赤ちゃんが泣いていると、電車内でも観光地でも誰もいやな顔をせず、横にいる大人達も含めて一生懸命あやす。だから母親も赤ちゃんをリラックスした気分であやしていて、なんとなく回りがふんわりした雰囲気になっている。

・うちの娘が道路を渡っていると地元のおじ様たちが手を広げて車を止めておいてくれる。(「気を付けてね!」といった笑顔で)

・空港保安官もお店の方も必ず娘に話しかけてくれる。「どこから来たの?」「楽しんでる?」「これ美味しいよね?」「本当にこれだけでいい?」実ににっこり色々聞いてくれる。そして100%おまけをくれる。

日本では、保育園の外遊び時間が制限されたり、ベビーカーを電車に乗せるべきかどうか論争になったり、子どもが泣くといやな顔をされるから慌てて赤ちゃんにスマホを見せて黙らせることの是非が問題になったりと子育てする側もなんとなく「配慮」が必要な場面が多くあります。そして私もそれが当然だと思っていたところがありました。

ただ、ヨーロッパではこの「配慮」をする必要があまりなく、ごく自然に子ども達を見守り、社会で育てているという感覚があるように思いました。「日本は子育てをしづらい子育て後進国」と確信しました。そして、それは制度や仕組みではなく、われわれの行動によって「子育て後進国」となっているということです。 これは組織風土と一緒で長年培われてきたものですのですぐに変えることは難しいのですが、少なくとも認識をしておくべきかと思いました。

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■ 2.プラスチックごみ問題(環境)

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ドイツ、フランスとも買い物をしてもいわゆる「レジ袋」は出てきません。大きなスーパーでも、小さなKIOSKでも、パン屋さんでも同じです。また、結構おしゃれなCAFEでもストローは出てきません。細長いおしゃれなグラスですが、ストローはなしです。 また、ペットボトルや瓶などがゴミにならないように大きなスーパーとかの 機械に入れるとすぐ金券が出てきます。その金額が結構大きいのです。2ユーロのお水をペットボトルで買うと、そのボトルから0.25~0.5ユーロが戻ってきます。この金額はボトルに書いてあります。なのでゴミ箱に入れる人はいません。

ゴミ削減に役立っているかは別にして、多少客側に不便や手間があっても「こういうもの」としてしまう強さがあるような気がしました。これが日本人では「おもてなし精神が足りない対応」と映るのかもしれません。実際にガイドブックには「日本とは異なって店員さんは無愛想です。」と記載されていました。パリのデパートで「お渡し用」の追加の袋をオーダーしている日本人に対して、店員の方があっけなく「No」と言っている場面も目撃しました。

「おもてなし精神」でなく環境という観点から考えてみるとどうでしょうか。 そうすると日本における環境施策の浸透度合いの遅さ、不徹底を感じます。 例えばレジ袋が有料になっているところもありますが「1枚2円」といった感じなので、「まあ、いっか」となりますよね。私自身もコンビニに行くのにマイバックを持っていく習慣はまったくありません。

これを例えば、1枚100円とかにすれば流石にマイバックも定着しそうです。これから数か月経つと、もはや35度を超えることが当然となってきた酷暑がやってきます。また、ゲリラ豪雨等数十年や数百年に1回というような豪雨による災害も近年は相次いでいます。地球環境について自分たちは鈍感であるという認識を持つべきかもしれません。

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■ 3.女性活躍の現場(ガバナンス)

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最初の訪れたドイツのデュッセルドルフは、何かの選挙期間中だったようで、候補者の写真が貼られていましたが、そのほとんどが女性。ドイツの女性活躍の度合は、例えば国会議員に占める女性比率でいうと世界44位の31.6%、女性の管理職比率は世界70位とトップクラスというわけではないものの、それでも候補者に女性が多くいました。

一方の日本では、上記の比率は世界でもビリから数えた方が早いということはなんとなく想像がつくと思いますが、国会議員に占める女性比率は世界140位管理職比率は104位と先進国の中では最下位クラスです。(順位と割合はGlobalNoteのHPから抜粋)

管理職の割合が少ない理由として「管理職になる層の女性の採用数が少ない」という過去から引きずっている問題もあると思うのですが、「男女雇用機会均等法」ができたのが1985年であることを考えると、さすがに時間がかかりすぎな気もします。 また、先日行われた統一地方選で、結構話題にもなったのでご存じの方も多いと思いますが、東京23区の当選した区長の平均年齢は66.9歳。もっとも多いのは70代で39%(中央値が70)女性は23区中1人という状況のようです。(認定NPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹さんのブログより)女性活躍後進国であることは確実です。そして、女性が活躍できないような職場環境はきっと男性にとっても望ましい職場環境とは言えないように思います。

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■ 4.グローバルな「枠組み」の重要性

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ここまで久しぶりに海外に行って感じたことをつらつらを書きましたが、奇しくも気づいたことがESGの要素に合致しました。 ESGとは、「環境」「社会」「ガバナンス」のことで、もともと投資家が企業に投資をする際に業績等の財務的な要素だけでなく、ESGの観点といった非財務的な要素にも着目し、投資家としても社会的な責任を果たすべきという考え方です。元々は投資家に対して向けられた言葉でしたが、それに対応した経営ということでESG経営といった言葉も聞かれるようになりました。

このESG投資、日本では2015年に世界最大の公的年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資を推進する「UNPRI(国際責任投資原則」へ署名したことをきっかけに日本の多くの期間投資家がそれまでの財務情報中心型であった投資からの転換を模索しています。ただ、まだ世界全体からいうとかなり遅れており、全投資額に対する責任投資に対する割合は、EUが52.6%、米国が21.6%に対して日本は3.4%とまだまだこれからといったところのようです。(Global Sustainable Investments 2014~2016)

また、このESGを具体的な目標という形に落としたSDGsという考え方があります。 SDGsは、Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標のことで、2030年の地球がありたい姿の優先順位とありたい姿を17の目標と169のターゲットで示したもので、2015年に国連で採択されました。いわば地球をありたい姿にするための世界共通の目標ということになります。SDGsは、カラフルなツールと分かりやすいコンセプトで共に急速に世界に浸透しています。日本においても外務省が吉本興業やキティーちゃんを使って SDGsを啓発する動画をUPしたり、SDGsの取組を積極的に行っている団体を 表彰したり政府も急速に普及を図ろうとしています。

このように、持続可能な世界のためのグローバル共通の「枠組み」が次々発表されており、多くの国の企業がこれにいち早く反応し自社の取組に活かすべく試行錯誤をしています。 日本企業には「三方よし」といったESGに近い考え方は古くからあります。 そして、日本はその取り組みを日本独自の言葉で、またはあうんの呼吸で「日本人らしさ」「自社らしさ」を追求していく文化です。このためグローバルスタンダードである「枠組み」に対しての反応が遅いように思います。国際財務報告基準であるIFRSの導入もなかなか一気には進んでおらず、今でも「日本基準」を採用している会社が大多数です。

ただ、今後は働く人の人種の働く場所も多様化/グローバル化していく時代です。 多様な国籍・文化・価値観が混ざり合う「混成文化の時代」がやってきます。 (「SDGsの基礎」 事業構想大学院 出版部) このような時代においては「らしさ」を大切にしつつ、グローバル共通の枠組みに合わせて、自社の活動を説明していく必要性を認識し、「やっている」だけでなく、「やっていることをいかに説明し、理解してもらうか」ということまで考えていく必要があります。

法定の開示資料である有価証券報告書もいわゆる非財務情報を重視する方向となっています。もうすぐ3月決算の有価証券報告書の開示が行われます。 非財務情報にも注目してみるのも面白いかと思います。 本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
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