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Vol.84 収益認識とプライシング (2018年11月7日)

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【ビズサプリ通信】

▼ 収益認識とプライシング

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ビズサプリの三木です。

以前のメルマガで新しい収益基準のことを取り上げました。新しい基準のポイントの一つに「価格」があります。今回のメールマガジンでは、この新基準における価格の扱いと、商品やサービスの値決めについて取り上げます。

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■ 1.値段は案外わからない

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物やサービスの値段というのは、案外分からないものです。電気量販店で家電を買ったらポイントがつきました。ポイント込みの金額が家電の価格でしょうか。それともポイントは控除すべきでしょうか。出張でホテルに泊まったら、「無料朝食券」がついていました。朝食は無料でしょうか、それとも宿泊代とセットでしょうか。 スーツを2着買ったところ、1着無料券をもらいました。もし無料券を使って3着目を買ったら、売り手にとって売上ゼロでしょうか。タバコやお酒の価格には酒税やたばこ税が含まれています。税抜価格がタバコ やお酒の値段でしょうか。それとも税込でしょうか。

物やサービスを売りたい側は、お得感を演出したり、顧客を囲い込んだりするために、あの手この手の販売戦略を取ります。この販売戦略が複雑になると、物やサービスの値段が本当はいくらなのかどうしても分かり難くなります。大企業であればその辺はしっかり管理しているかと思いきや、ポイント制度、セット販売、事後キャッシュバック、ボリュームディスカウント、各種キャンペーンなどを組み合わせて実施しているうちに、実際のところいくらで売れていて、利益があるのかどうかよく分からない・・・・なんていうこともあります。

会計的には、どこまでが売上のマイナスで、どこからが販売促進費(販管費の一部)なのかという問題が出てきます。値引を販売促進費にすれば大幅値引で売っても売上総利益が上がりますが、それで喜んでいると営業利益はマイナス、なんてことになりかねません。何をどういう費目で処理していて、それを販売管理上どう扱っているのかが肝心と言えます。

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■ 2.新基準の計上価格ルール

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収益の新基準の考え方は「履行義務アプローチ」と呼ばれ、要するに、「お客さんと約束したこと(履行義務)をやった時に、その約束の対価で売上を計上しなさい」ということです。そこで、何が「対価」なのかをしっかり考える必要が出てきます。

事後のキャッシュバックやリベートなど、お金は払っただけで対応する商品やサービスが無いとなると、売上のマイナスになる可能性が高いと言えます。例えば、スーツを2着買って1着無料券をもらった場合、2着を売った時点で売り手にとっては3着目を無料で渡すという義務が残ります。このため、2着分として受け取った金額の3分の2は売上からマイナスされ、前受金となります。 このとき、それぞれのスーツが同じものなら2着分の代金を3で割って1着分の代金を求めればよいのですが、それぞれ異なる値段のスーツであれば代金を比例配分することが必要です。

それでも、スーツのように比較的価格がはっきりしているものはまだ分かりやすいのですが、価格がはっきりしないものと組み合わせになると厄介です。例えば「いま車を買えば3年間はエンジンオイル交換無料」というキャンペーンでは、お客がどれくらいエンジンオイル交換に訪れる分かりません。それでも3年間のエンジンオイル交換の権利の値段を考え、価格を配分しないといけません。

販売戦略によってパターンは様々ですが、新基準では「本当の対価はいくらなのか」を突き詰めることになります。そして企業にとっても、複雑に組み合わせた値引やキャンペーンを整理して 「本当の対価」を把握することは、販売価格を決めていく上で重要です。

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■ 3.プライシング

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物やサービスを売るときの大きな悩みとして値決めがあります。高すぎれば売れないし、安すぎれば赤字になります。この値決めにはいくつかの流儀があります。

まずコストプラスマージン、すなわち原価に一定率の利益をのせて価格を決める方法です。汎用品というよりオーダーメイド品、B to CよりB to Bで比較的多く使われ、建築工事などが代表的です。

これと対照的なのがマーケットベースの方法です。市場で競争できる価格設定にする方法で、競争の激しい汎用品でよく見られます。牛丼チェーンなどでの驚くような安価な価格設定が代表的で、その販売価格の範囲内で原価構成を考えることになります。 それ以外に、希少性や技術力を価格に反映させることがあります。例えば高級腕時計などは、職人の技術力や独自性、あるいは数の少なさによって価格が決まります。ハイテク産業で使われるレアメタルが高いのも埋蔵量の少なさが大きな要因です。

商売をするときは、無意識にこうした要素を組み合わせて価格を決めています。ただしそれも正解があるわけでもなく、どういう顧客をターゲットにするか、どういうブランドイメージを作りたいか等の経営判断によって変わってきます。場合によっては大口顧客とスポット客で値段が違うこともあるでしょう。一般的には大口顧客に対しては売価を下げますが、新規顧客開拓のためむしろスポット客に安価で販売することもあります。その場合は新規顧客への値引き額は、売上のマイナスというより営業コストと言えるかもしれません。

収益認識の新基準では、こうした取引実態を踏まえた会計処理が求められます。そうすることで商品やサービスごとの利益獲得能力が見えてきます。今まで花形と思われていた商品が実は大して利益に貢献していなかった、ということも考えられます。 このため、新基準に切り替える際には社内的には大きなストレスがかかるかもしれません。しかしながら、利益の源泉が見えやすくなることで力の入れどころが分かるようになり、収益認識の新基準の導入が収益性の向上につながる可能性も大いに あります。商品展開や値決めに歪みを感じている方がいらっしゃいましたら、収益認識の新基準を改革のきっかけとして考えてみてはいかがでしょうか。

ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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