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Vol.83 IFRS新リース会計基準の導入 (2018年10月26日)

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【ビズサプリ通信】 ▼ IFRS新リース会計基準の導入

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こんにちは。ビズサプリの庄村です。 とても暑かった夏が終わり、少し肌寒い季節へと変わってきました。

東京証券取引所が2018年7月31日に公表した「会計基準の選択に関する基本的な考え方」によると、IFRS(国際会計基準)適用済・適用予定・適用を検討している上場会社は204社となっているようです。 IFRSでは新リース会計基準の導入が決定しており、今回のメルマガでは、IFRS新会計基準の概要と導入のポイントを中心に取り上げていきます。

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■ 1.IFRS新リース会計基準の概要

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IFRS新リース会計基準(IFRS16号「リース」)では、リースを「資産を使用する権利を一定期間にわたり、対価と交換に移転する契約」と定めています。従来の「リスク・経済価値モデル」から「支配モデル」に変更されました。「支配モデル」はIFRS10号「連結財務諸表」やIFRS15号「顧客との契約から生じる収益」と同様の概念です。 一定期間にわたり資産を使用する権利とリース料を支払うと義務をそれぞれ資 産、負債として認識するものです。

大きな変更は、借手側でファイナンス・リースとオペレーティングリースの区分がなくなる点です。すなわち、従来のファイナンス・リースのみならず、オペレーティング・リース、レンタルや不動産の賃貸契約などもリース会計処理が必要となり、使用権資産とリース債務がオンバランスとなるのです。事務所のコピー機や賃貸借している店舗などもオンバランスとなるので、航空業、店舗を多く運営する小売業・外食業などへのインパクトが大きくなりそうです。

リース債務は、リース期間中に発生する全ての支出を含めて総額を求め、リース期間で割引計算した現在価値を算定します。一方、使用権資産はリース債務に「当初直接費用」を加算して算定します。 これはファイナンシャル・リースでの算定方法と基本的に変わりはありません。

原則すべてのリース取引をオンバランスしますが、実務的に非常に煩雑となるため例外処理(簡便処理)を設けています。すなわち、1資産あたりの金額が5,000米ドル以下の少額リースや取引期間が1年未満の短期リースはオフバランスが認められます。貸手側の会計処理については基本的な変更はありません。

IFRS新会計リース会計基準は2019年1月1日に開始する事業年度から強制適用されるので、3月決算の場合は2020年3月期決算から、12月決算の場合は2019年12月期決算から適用されます。したがって、IFRS任意適用会社ではあまりのんびりとしていられず、早急な対応が求められてきます。

経過措置・初度適用ですが、リース判定は新リース基準適用開始前の期首前に開始された契約については、リース判定のやり直しは必要ないこととなっています。また、IFRS新リース会計基準を適用した使用権資産やリース債務の再評価方法には全面遡及アプローチと修正遡及アプローチがあり、いずれかのアプローチで再評価します。

ここで、全面遡及アプローチとは、過年度に遡及して使用権資産やリース債務を再計算して各報告年度の金額を再計算する方法で、比較年度も新リース会計基準を適用して修正再表示します。修正遡及アプローチは比較年度は修正再表示しないアプローチで新リース会計基準との差異は適用開始日の期首利益剰余金残高の修正として認識します。 いずれのアプローチでも比較年度の再評価は必要となってくるわけです。

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■ 2.導入のポイント

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IFRS新リース会計基準の適用にあたり、まずは、財務数値へのインパクトを分析します。

借手側は、従来はオフバラン処理されていたオペレーティング・リース、レンタルや不動産の賃貸契約に対しての使用権資産が資産計上、リース債務が負債計上されることとなるので、財政状態計算書(貸借対照表)では、総資産及び負債が同額増加します。純資産の金額にはインパクトを与えませんが、自己資本比率やROA等の経営指標従来と変わってきます。

一方、従来はオペレーティング・リース、レンタルや不動産の賃貸契約に関する支払いを「支払リース料」や「賃借料」としてとしてリース(賃貸)期間中一定額を計上していました。IFRS新リース会計基準では使用権資産を定額法で償却した減価償却費、リース債務は償却原価法を用いて支払利息を計上します。したがって、包括利益計算書(損益計算書)では、税引前当期純利益へのインパ クトほとんどありません。ただし、支払利息は営業外損失に計上されるため、営 業利益が改善します。 また、従来の支払リース料はリース期間中一定額、利息法による支払利息はリース負債残高が大きい初期に多額に計上されるため、リース期間前半に税引前当期純利益は減少し、リース期間後半に増加することとなります。

次に、日本の開示制度上は、IFRSは連結財務諸表のみで適用され、単体財務諸表は日本基準が引き続き適用されるため、IFRS新リース基準への対応は連結決算における調整となり、そのような対応をするための業務プロセスの見直しやシステム改修が必要となってきます。日本本社が新基準に対応する以上は海外拠点も含めた子会社の対応も必要となってくるので連結パッケージの見直しなども必要になってきます。

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■ 3.日本でのリース会計基準の動向と論点

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IFRS新リース会計基準の適用を受けて、我が国の企業会計基準委員会(ASBJ)ではIFRS第16号「リース」のエンドースメントに関する議論を進めています。審査の結果、実務上の困難さはあるものの、受け入れ難いとするほどの事情はなく、改正案では「削除又は修正」を行わないとする案が掲示されています。したがって、現状では、日本でもIFRS第16号「リース」を削除又は修正なく適用される可能性が高くなっています。

そこで、論点となるのが、日本の会計基準では、IFRS第16号をそのまま適用す るようにリース基準を改定する見込みですが、その適用時期がまだ不明確である ことです。時期的に考えて、IFRS第16号「リース」の強制適用される2019 年1月1日に開始する事業年度に適用することはなさそうで、それ以降の適用となりそうなことです。

IFRS任意適用会社では特に問題はありませんが、IFRS任意適用会社以外の上場会社では、日本基準を適用する日本親会社よりも早くIFSR第16号を適用する海外子会社がでてくることです。 すなわち、連結パッケージをIFRS基準で作成し監査報告書(レビュー報告書)を入手している海外子会社ではIFRS基準で会計処理する必要があるため、連結財務諸表上では、IFRSを適用した海外子会社のオペレーティング・リース等に関わる使用権資産やリース債務は計上されるものの、日本親会社の使用権資産やリース債務は計上されないことなってしまいます。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタントにより、IFRSのインパクト分析を含めた導入支援、企業内ルールの作成支援コンサルティングも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。 https://biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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