メールマガジン

メールマガジン

会計

Vol.68 ICOの会計処理 (2018年1月24日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.068━ 2018.1.24━

【ビズサプリ通信】

▼ ICOの会計処理

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

こんにちは、ビズサプリの久保です。

先月のメルマガでは、仮想通貨の売買などの「取引」についての会計処理や税務上の取り扱いについてお話ししましたが、今回は、仮想通貨による資金調達であるICOについて考えてみることにしたいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 1.ICOとは?

-----------------------------------------------------------------------

 新規上場の時に新株発行をして出資する人を募集するところから、IPO = Initial Public Offering (最初の公開募集)は新規上場を意味します。最近はICO = Initial Coin Offeringが話題になっています。これは、Bitcoinのような仮想通貨を使ったベンチャー企業による資金調達方法の一つです。 仮想通貨市場で、「トークン」と呼ばれるものを発行して、その代わりに仮想通貨を調達するというものです。ICOのIはInitialですが、別に最初であるかどうかは関係なく仮想通貨での資金調達がICOと呼ばれているようです。

米国では、filecoinという会社が280億円ぐらいを調達したとのことです。日本でもCOMSAという会社が昨年10月から11月にICOを実施し109億円調達したそうです。トークンを買った投資家は、どうするのかというと、市場でそれが値上がりしたら売却して儲けるそうです。当然値下がりすることもあります。トークンは売買できますので、株式市場での株式の売買に似ています。一方、仮想通貨で資金調達した会社は、そのまま仮想通貨を持っていてもよいのですが、資金として使うためには現金化することになります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 2.ICOで調達した資金は資本金か?

----------------------------------------------------------------------

株券とトークンは大きく違います。会社法上、株券の所有者は株主として一定の権利が保証されていますが、トークンは民間の市場での取り決めだけしかありません。 株式を発行すると会社の「資本金」となりますが、トークンを発行する会社では、調達額を資本金に計上することはできません。それでは、何になるのでしょうか。

「長期預り金」ではないかという人がいます。これは、1年以内に返金するものではないので、長期の預り金であるという考え方です。トークンは、ゴルフ会員券のように売却できる一種の有価証券という性格があります。バブルの時は、ゴルフ会員券を売って儲けたり、または大損したりした人も多かったと思います。ゴルフ会員権は、ゴルフ場の会社側ではどんな会計処理になっているのでしょうか。

ゴルフ場の会社では、ゴルフ会員権は「長期預り金」になっています(古いゴルフ場は株券を会員に渡すこともありました。その場合は資本金)。会員が脱退する時は、それを返金してもらうことができます。ゴルフ会員権を市場で売却すると会員が変わります。その場合は、ゴルフ場は返金するのではなく、書き換え料を徴収して会員名を書き換えます。書き換え料はゴルフ場の収益になります。

トークンは、ゴルフ会員権に似たところがありますので、長期預り金だという人がいるのだと思います。ただし、ゴルフ会員権は、会員に返金する前提があるので長期預り金なのでよいのですが、トークンは返金する義務がないという点が異なります。 このように議論が解決していないことから、会計処理基準が公表されていない状況でした。

しかし、ついに上場会社のメタップスという会社がICOをしました。これまでは、上場していない会社がICOをしており、監査法人の監査の対象になるということはありませんでした。メタップスが最初に監査を受けることになってしまったのです。

  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 3.メタップスによる会計処理

----------------------------------------------------------------------

メタップスは、8月決算の会社で昨年9月から11月までの第1四半期報告書を45日後の1月15日に提出する必要がありましたが、その提出を延期しました。これは監査人であるPwCあらた監査法人とのICOに関わる会計処理についての意見調整が必要となったからです。この監査法人は東芝の監査人でもあり、提出延期になると、この監査法人が出てくるイメージもありますが、筆者の考えすぎと思います。

メタップスの韓国子会社が昨年9月から10月にかけてICOを実施し、当時の時価で10億円を調達しました。これをどのように会計処理するかというのが、メタップスと監査法人に突きつけられた問題です。前述のとおり、ICOをどのように会計処理したらよいかについての、会計処理基準がありません。法的な整備もされていません。

メタップスが1月15日の夜に提出した四半期決算短信とIRニュース(適時開示情報)によれば、調達した資金を「前受金」に計上したとのことです。四半期貸借対照表をみると、その他の流動負債が10億円程度増えています。IRニュースには、「本ICOは、仮想通貨Pluscoin(PLC)の販売であり、本ICO において受領した対価は将来的には収益として認識します。但し、収益認識の方法やタイミングについては引き続き協議中」としています。

ちなみに、仮想通貨Pluscoin(PLC)というのはイーサリアムという仮想通貨をベースにしたトークンです。ベースになる仮想通貨によって、トークンにはいろいろと名前がついているようです。ここでは、トークンも仮想通貨であると言っているようです。

この日に発表した決算説明のパワーポイントには、ICOで調達した10億円の仮想通貨(イーサリアム)の時価が、その後5倍になったと書かれています。前受金計上したときは10億円だったものが、今は50億円ということになります。ちょっと整理すると、メタップスは「長期預り金」ではなく「前受金」に計上しています。これは将来収益に計上する予定であるからである、としています。

この収益は、いつ頃、いくらで計上するのでしょうか。 ICO時の時価は10億円でしたが、メタップスがそのまま仮想通貨を持ってい たら50億円になっていたということです。仮想通貨の販売なので収益であるとしているので、多分10億円が売上高となり、それ以外に評価益が計上されるのかもしれません。提出が延期されている四半期報告書が提出されたら分かると思います。

仮想通貨でのICOは、収益であるとしているのは、メタップスの韓国子会社が仮想通貨の販売業をしているからなのかもしれません。ICOによる資金調達は、どんな場合も収益かというとそうでもないかもしれません。収益だったら課税されますが、長期預り金には課税されません。大きな違いがあります。

PwCあらたさんは、東芝に対しては「結論不表明」を表明しています。監査法人がこの手を使って結論を出さないという判断をした場合には、第1四半期では決着がつかないということになります。収益計上されるのか、結局は別の会計処理なのか、注目したいと思います。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

過去の記事

Bizsuppli通信

会計のプロフェッショナルが、財務・経営を考える上でのヒントとなる情報を定期的にメールマガジンにてお届けしています

購読お申し込みはこちら