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Vol.42 長時間労働と労働生産性について (2016年12月7日)

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【ビズサプリ通信】

▼長時間労働と労働生産性について

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ビズサプリの三木です。

かつて日本には「企業戦士」という言葉があり、「24時間戦えますか?」というコピーのドリンク剤が売れていた時期がありました。時代は変わり、今やブラック企業という言葉に代表される長時間労働が社会問題となっています。

今回のメールマガジンでは、長時間労働をめぐる問題や労働生産性について取 り上げます。

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■ 1.過労死の原因とは

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現役で働いている方が亡くなると、その原因が仕事かどうかが問題となります。厚生労働省は、残業が月100時間を超えた場合、あるいは2〜6か月平均で80時間を超えた場合に健康被害リスクが高まるという目安を示しています。労災認定も概ねこの目安を基準にしているようです。

社会問題としての過労死もさることながら、現役で忙しく働く方にとって最大の関心事は「自分は大丈夫か?」でしょう。 いわゆる過労死と呼ばれるものには、大きく分けて2つのタイプがあります。

1つは睡眠不足を直接の原因とする疾患です。 睡眠不足が続くことによる高血圧や、規則正しい生活ができず食生活が乱れることによる動脈硬化などが原因で、心筋梗塞や脳出血に至ります。対策としては、睡眠とバランスのよい食生活に尽きます。もちろん原因は仕事だけではありません。夜遅くまでポテトチップを食べながらネットゲームをしていても同じことが起きます。

もう1つは労働ストレスによるうつ病と自殺です。うつ病も休暇を取れて治ればよいのですが、そうもいかず自殺に至ってしまう ケースが後を絶ちません。社会問題であるのは確かですが、ストレスは仕事につきものですし、ストレス耐性にも個人差が大きいため、社会制度としてこれを撲滅するのはなかなか難しい問題です。

この2つの悪いスパイラルには陥らないようにしなければなりません。実は現在の労働法制には限界があり、過剰な長時間労働に歯止めがかかりにくいところがあります。次にこの辺の事情を見ていきましょう。

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■ 2.36協定の限界

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労働時間を制限する法令としては労働基準法があり、法定労働時間は1日8時間、1週40時間と定められています。 しかしこれでは業務が回らないことがあるため、労使で合意して労働基準監督署に届け出れば、残業時間を延長することができます。 この届出のことを、労働基準法第36条に定めがあることから36協定(さぶろくきょうてい)と通称しています。この36協定には延長の限度があり、例えば年間では360時間が延長の限度です。

「あれ、うちの会社ではそれ以上の残業がしょっちゅうあるよ」という方も多いと思います。 実は36協定には特別条項を付けることが認められています。これは、「臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情」がある場合には年間360時間を超える延長を認めるものです。

しかしながら「特別の事情」という定義はあいまいですし、緊急対応はビジネスでは頻繁に起こります。 何でもかんでも「特別の事情」と言い出してしまえば、法令上の歯止めは乏しいことになります。 ビジネスマンは、どこでどんな職場や上司、取引先に当たるか分かりません。制度による保護に頼りすぎず、セルフコントロールが必要です。

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■ 3.職場環境

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コンサルタントとして数多くの職場を見てきました。あちこちで話し声がするにぎやかな職場もあれば、静かな職場もあります。 私はにぎやかな職場のほうが好きですが、業務に集中したいときは「話しかけないで!」と思うときもあります(わがままです)。仕事に集中したいときに話しかけられるのはストレスになりますが、うつ病寸前という時にはちょっとしたことを相談しやすい雰囲気は大切です。

業務効率と組織内コミュニケーションの両立は多くの会社での悩み事です。メンター制度を導入してみたり、社内での飲みニケーションに補助金を出したり、色々な取り組みを目にします。

私が「これはいい」と思った事例があります。みんなが色々なおしゃべりをしているにぎやかな職場なのですが、1人作業用の会議室をいくつか用意しているのです。ここ一番、業務に集中したいときは人知れずに1人会議室にこもるとのこと。

業務効率を優先しすぎてちょっとしたことを相談しにくくなっては、逆に業務効率を損ないます。 長時間労働やうつ病に対しては、相談しやすい雰囲気は良い緩衝材となります。 職場の雰囲気は簡単には変わりませんが、うまくコントロールしたいものです。

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■ 4.労働生産性について

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日本の労働生産性は主要国の中で最低という報道をよく目にします。どの文献か忘れてしまいましたが、欧州などは家族で夕食を食べるのが当たり前のため、それでも仕事が回るように権限移譲が進んでいるという分析を見たことがあります。 これに対し、全体調和・根回しを必要とする日本の仕事スタイルは、意思決定に時間がかかり、自分でコントロールできないだけに長時間労働にもつながりがちとのこと。

上場企業では内部統制も問われることから、何かというと上長の承認が求められます。 ひとくちに承認と言っても、内容チェックから、部下の責任を免除するもの、最終的な意思決定としての承認まで目的が様々です。 承認が部下の思考停止につながると、せっかくの統制が台無しです。 例えば上長責任を明確にするための承認であれば「内容はお前に任せた!責任は私が取る」という実質的な権限移譲を明言することも必要でしょう。

余談ですが、指標としての労働生産性は労働効率とは異なるので注意が必要です。労働生産性としてもっともよく使われるのはOECDの計算方式で、

労働生産性=GDP(購買力平価)÷就業人口

で計算します。 この式を見ると、効率の悪い残業をしても労働生産性は下がらないことが分かります。 従って、「日本は冗長な会議が多いことが労働生産性が低い原因」といった記事は、OECDの指標のことを想定しているなら誤っています。 労働効率を議論するなら、本来は時間当たり労働生産性に注目する必要があります。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
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泉 光一郎

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