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Vol.34 ドーピングとオリンピック (2016年8月3日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.034━2016.08.03━

【ビズサプリ通信】

▼ ドーピングとオリンピック

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こんにちは。ビズサプリの辻です。

リオデジャネイロオリンピックまであと2日です。ジカ熱、テロ、治安悪化、不況等々多くの不安材料がある中、日本選手もぞくぞくと出国しリオ入りしています。毎日練習をこなし、厳しい選考レースを勝ち抜いてきた選手のすべてのみなさんが日頃の成果を思う存分発揮して、晴れ晴れとした舞台を全力で楽しんでいただきたいと心から願います。

一方、すっかり商業化したオリンピック、大きなお金が動く祭典として様々なスキャンダルの舞台ともなっています。特に今回は、ロシアのドーピング問題が本番直前になってもまだ未解決です。今日は、ドーピングについて考えてみたいと思います。

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■ 1.ドーピングとはなにか

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ドーピングは、一般的には「競技でよい成績を納めるため、何か良くない薬物を使って、筋肉を増強したり興奮状態を作り出すこと」といったイメージかと思います。

ドーピングの定義は、世界アンチ・ドーピング規程(World Anti- doping Code)の第1条で定められています。そこでは、「ドーピングとは、本規程の第2.1項から第2.10項に定めらているアンチ・ドーピング規則に対する違反が発生すること」と定められています。

第2.1項から第2.10項では「競技 者の検体にアンチドーピングのマーカーが存在すること、つまりドーピングの 陽性反応がでることに加えて、禁止薬物・禁止方法の使用を企てること、検体の採取を拒否すること、虚偽の報告をすること、禁止薬物を保有すること、禁止薬物の不正取引すること、禁止薬物を投与することなどが定められています。禁止方法というのは聞きなれない言葉ですが、例えば「自分の血液を冷凍保存して試合の直前に体内に入れる」「検体をすり替える」「遺伝子操作をする」等薬物以外の「方法」も禁止されることを指します。

ちなみに、ドーピングという言葉の由来は、南アフリカ共和国の原住民が、お祭りの時に景気づけに「トップ」という強いお酒を飲んでいたことが由来だそうです。言葉の由来自体は、とても明るい人間らしいものなんですね。

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■ 2.ドーピングの起こる背景

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オリンピックでは、毎回ドーピング問題が報道されます。特に今回、ロシアのドーピング問題では、組織(=国)ぐるみでドーピングを実施していたようです。報道によると、オリンピック前に陰性の検体を冷凍保存し、ドーピングを検査する施設の壁に穴を開け、その穴から大会中に採取された陽性の検体とすり替えるというまるで映画のような手口が明らかにされました。そして 組織(=国ぐるみ)となってしまうと、一個人、一競技団体はもはや声を挙げることができなくなってしまいます。「上司の指示でおかしいと思いながらも不正に手を染め身動きできない」過去にあった組織ぐるみの企業不正と状況は変わりません。

それでは、スポーツの祭典にどうして国家がここまでこだわるのでしょうか。オリンピックは、各国の代表が○○人代表という肩書を背負って他の国とスポーツを通じて争います。このため、「自分は○○人」という意識を持ちやすい側面があります。つまり、日本人を一生懸命応援することで、ごく自然にナショナリズムが高揚している状態になります。この状態は、主権国家の指導者側にしては、とても都合がいい状態です。そうしたスポーツからもたらされるナショナリズムの熱狂が政治的に利用されやすいということになるのでしょう。 2020年の東京オリンピック招致が決まったあの「TOKYO」と言われた瞬間の熱狂を思い出すと、なんとなくうなずけます。

奇しくもロシアのプーチン大統領は、2000年のシドニーオリンピック選手団の壮行会で、「スポーツでの勝利は、100の政治スローガンより国を団結させる」と演説したそうです。2010年のバンクーバーオリンピックの冬季オリンピックで金メダルが3個と低迷したのをきっかけに、自国開催のソチオリンピックでの国家の勝利に導く必要があったように思われます。企業不正の概念でいうと、 「ソチオリンピックでは、なんとしても金メダルを多くとらなければならない。」 というプレッシャー(動機)があったということになります。

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■ 3.告発者の保護と処分の在り方

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今回のロシアの国家的ドーピング事件の発覚の発端は、内部告発でした。

ロシアの陸上女子中距離のユーリア・ステパノワ選手と、夫でロシア反ドーピ ング機関の職員だったビタリー氏がロシア代表のコーチとのやりとりを隠し撮りし、それをドイツのドキュメンタリー番組に提供したことで発覚しました。

ユーリア・ステパノワ選手は、反ドーピング活動への貢献が評価され、国際陸連からは個人資格の「中立の選手」として国際大会出場を認められていましたが、国際オリンピック委員会(IOC)は、24日の緊急理事会でドーピング違反歴があるということでリオ・オリンピックへのロシア代表としての参加を認めませんでした。

この判断に対して、「告発者が保護されないのであれば、組織ぐるみ、国ぐるみ で行われるドーピングに対して勇気ある告発をする者はいなくなる」という批判 が出ています。告発者本人からも「事実誤認に基づいた不公平な決定」 「ドーピングで処分期間が終了した選手に、追加で制裁を科す形となる今回の決定は法的に認められない」との非難の声明が出ているそうです。

不正の実態調査結果である「Report to the nations 2016」によると、企業不正の発覚の発端で一番多いのが告発によるもので、内部監査や外部監査 を大きく引き離して毎回トップの座を譲ることはありません。 組織ぐるみの犯罪は、勇気と覚悟をもった誰かが告発をしない限り発覚することが困難であることの証でしょう。

また、IOCはロシアのリオデジャネイロ大会の参加に関して、「過去にドーピング歴がなく、また各競技団体が認めた場合」にオリンピックへの参加を認め、ロシア選手団の全面除外を求めた世界アンチドーピング機関(WADA)の勧告を受け入れませんでした。

これについて「国家ぐるみで悪意をもった行為に対して生ぬるい」という処分の重さに対する批判があります。日本アンチドーピング機構(JADA)の専務理事は、「オリンピックの価値に対して非常に大きな汚点を残した気がする」と発言をしていますし、英国のマラソン選手ラドクリフさんは自身のツイッターで「クリーンなスポーツ界にとって悲しい日だ」と強く非難、 ロンドン五輪の陸上男子走り幅跳びで金メダルに輝いたグレッグ・ラザフォード選手(英国)は「双方にいい顔をしようとする、意気地なしの決定」 と強く切り捨てています。スポーツ評論家の玉木正之氏は、「スポーツが政治に負けた」という趣旨の発言をされていました。

不正があった場合、その不正の責任者、実行者をどのように処分するか、それによって再発防止への覚悟を読み取ることができます。今回のIOCの判断はそれを他人に丸投げするもので、今後もオリンピックとドーピング問題は続いてしまうことになりそうです。

さらに、オリンピックへの参加の可否の判断を各競技団体へ丸投げしたことについても強く批判が出ています。「オリンピックの開催までに2週間をきったこの時期に、ロシア選手の出場の可否判断を各国際競技団体に押し付けた決定は、IOCの身内からも「責任放棄」と批判的な声があがった」(共同通信社)と報道されています。

丸投げされた側の各競技団体も困ってしまいます。結局、時間切れで、すでに結論を出した陸上と重量挙げを除けば、大半のロシア選手がリオ出場を認められる方向になりそうです。でも、なんとも後味が悪い結論です。 ロシアの選手が表彰台に上がった時、心の底から祝福できるのでしょうか。

商業主義を目指し膨張してしまったオリンピック。毎回巨大な赤字を生み 出すお化け大会となってしまいった今、「勝てば何でもOK」でなく、 正しい努力で勝つ大会にしていかないと続かないところまで来ているので しょう。ちょうど、企業が「儲ければ何してもいい。」のではなく、コンプライアンス、環境、様々な利害関係者と上手な関係を築きながら継続的に成長をしていくことを目指していくように。

次は、東京オリンピック。新しい知事のもと、脱商業主義、クリーンでコンパクトなオリンピックへの第1歩となるといいなと思っています。

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■ 4.私のイチ押し

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私事ではありますが私は大学まで陸上部、中長距離をやっていました。このためオリンピックでは陸上、特に400、800、1500、5000、10000mを楽しみにしています。ただ、100mやマラソンのような注目度はなく、なかなかテレビで映してくれないのが悩みどころ。私の推しメンは、男子5000、10000mの大迫選手、女子5000、10000mの鈴木選手です。この競技のメダルは、強いアフリカ勢がいるので難しいかもしれませんが、積極的な走りで入賞を目指してもらいたいです。

4年に一度のスポーツ祭典。日本選手を応援するもよし、世界のトップ選手の人間離れした技や速さを楽しむのもよし。4年後の東京に思いを馳せながらオリンピックを楽しみましょう。今年の夏は寝不足の夏になりそうです。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
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不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
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泉 光一郎

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