Vol.24 企業の税金負担率について (2016年3月16日)
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【ビズサプリ通信】 ▼ 冬の終わり
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今週は月曜日まで雨が降って気温も低かったですが、火曜日は汗ばむくらいの暖かさで、冬が終わり春の到来を感じられる季節になりました。三寒四温とはよく言ったもので、暖かくなったと思ったらまた急に寒さがぶり返したりで風邪を引きやすい季節ですので、皆さんも体調管理にはご注意下さい。
かく言う私は今年の冬はインフルエンザにはかからなかったものの、2月の初めにひいた風邪がいまだに引きずっており万全の体調とは言えませんが、やはり年とともに抵抗力が弱くなっているのかなと思います。
3月も中旬になると、3月決算会社の新年度に向けての準備もありますが、まずは3月決算を乗り切ることが先決です。今回特段目新しい会計基準の適用はないですが、強いて言えば、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」が見直され、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」を今年度末から早期適用することで影響が生じることでしょうか。
今回のメルマガでは、税効果を適用した上での企業の税金負担率について考えて見たいと思います。
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■1.世界的には法人税率は低下傾向
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日本の世界的な競争力が衰えている一因としてやり玉に挙がるのが、日本の法人税率は高い、という主張です。現行は23.9%ですが、昨年12月に閣議決定された「平成28年度税制改正大綱」によると、平成28年4月1日以後に開始する事業年度から23.4%、さらに2年後の平成30年4月1日以後に開始する事業年度からは23.2%となる予定です(この3月の法律改正待ち)。そうすると、法定実効税率(標準税率ベース)では今年度32.11%であるのが、次年度では29.97%と30%を切り、そして平成30年度からは29.74%とまた少し下がることになります。
財務省公表の国際比較データだと、先進国ではアメリカ(カリフォルニア州)が40.75%と日本よりかなり高く、フランスは33.33%と日本と同等、ドイツは29.66%と30%を切っていますが、日本だけが極端に高い1人負けの状況ではないと思われます。ただ中国は25%、韓国も同様に24.2%と低く、イギリスは 20%と先進国ではかなり低い税制となっています。シンガポールは17%と香港と並んで低く、両国とも法定実効税率の恩恵だけではないですが、政策的に 金融や運輸で世界中から資本を呼び込む仕組みになっていることは、皆さんご承知の通りです。
ただ税率が低い方が企業としては好ましい訳で、日本も法定実効税率を引き下げることで、日本の企業の競争力を高めるとともに、海外の企業を呼び込んで経済を活性化させる理屈で、今回初めて30%を切る税制改正がなされよう としているのだと思います。
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■2.グローバル企業は本当に税金負担で不利なのか?
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日本でグローバル企業と言えば自動車業界は北米を中心に利益を上げています。例えば日産自動車の2015年3月期の税金負担率は28.7%とすでに30%を切っており、2014年3月期においては21.7%とかなり低い水準でした。食品業界だと味の素の2015年3月期の税金負担率は29.9%と、やはり30%を切っています。法定実効税率は2015年3月期で35%を超えていますから、少なくとも5ポイント以上低い税金負担率を実現しているわけです。
世界的に有名なコカコーラでは、2015年12月期は法定実効税率35%に対して実際の税金負担率は23.3%となっています。またGEの2014年12月期は同様に法定実効税率35%に対して実際の税金負担率は10.3%と極めて低くなっています。コカコーラにしてもGEにしてもその年度が特殊な訳ではなく、少なくとも直近3期は同程度の水準です。これは主に、アメリカよりも低税率国での利益の恩恵によるようです。
また日本企業でやはりグローバル化を進めている企業として有名なところではHOYAが挙げられますが、同社の2015年3月期の税金負担率は21.4%でした。これもコカコーラやGE同様に、海外子会社で適用される実効税率が低いことが大きな要因となっています。
このように見てみると、日本の実効税率が高いことが企業の今日競争力を削いでいるという主張は、あまり根拠がないように思えます。
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■3.税金もコストの1つという考え方
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グローバルタックスプランニング、という考え方があります。国際化している企業においては、税金も数あるコストのうちの1つであり、コストであるからにはその削減努力をする必要があるので、戦略的に低税率国で利益を多く出す仕組みとすることで、全体としての税金費用を抑える考え方です。売り上げ増大や、人件費や設備の償却費を削減するのと違い、税金負担率を1%でも削減できると、最終利益に与えるインパクトは絶大です。
税金は必ず払わなければならないものですが、それを受け身で捉えるのではなく、オペレーションその他を総合的に勘案した上で税金費用を最適化できるように税金もマネジメントしていくのですが、日本企業はおそらく欧米の企業に比べて、税金はマネジメントするものだという意識が乏しいのではないでしょうか。
ただしむやみやたらに高税率国で赤字とし、低税率国で莫大な利益を計上するようなトランザクションの流れにしてしまうと、移転価格等の妥当性で問題化するケースも出てきます。近年だとスターバックスがイギリスで税金をほとんど納めていないとか、アップルやグーグルもアイルランドやオランダを経由した複雑なスキームを使って節税していることが知れ渡り、社会問題化したのは記憶に新しいところです。これについてはOECDが中心となり、BEPSプロジェクト(多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した租税回避によって税負担を軽減している問題への対策)によって、国際課税ルールの見直しが進 められています。
日本の税制もそうですが、制度と企業行動は常にいたちごっこで、何かやりすぎた事例が出てくると、それを防ぐ対策が繰り返されているので、節税の手法は時代によっても変わり得るものです。重要なのは、小手先のスキームではなく、取引の実態の伴った合理的な仕組みを構築できるかどうかだと思います。
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■4.上場企業の税金負担率の中身
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有価証券報告書を作成されている方はご存知ですが、上述した法定実効税率と税金負担率の差異は、有価証券報告書で税効果会計関係の注記を見ると載っています。海外の上場企業においても、SECへの届出書類(Form10-K)やアニュアルレポートに載っています。
注記のボリュームとしては退職給付の注記に比べるとそこまで多くはないですが、連結子会社が多いとその資料作成にはそれなりの時間を要します。会社によっては、専任の担当者が1週間くらいかけている事例もあります。
決算開示のための資料作りだとあくまで結果を確認するだけですが、現状の日本と海外子会社、あるいは海外子会社間の商流を見直したり、移転価格を見直すことで、グループ全体の税金負担率がどのように変わるのかをシミュレーションすることが、グローバルタックスプランニングの1つの手法です。
結果ではなく、将来の決算数値を予測し、マネジメントすることが、今後の財務戦略にますます必要になってきますし、そうしないと、そのような対応を当たり前のようにしてるグローバル企業の競合他社とやり合うことは困難でしょう。
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■5.終わりに
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私事ですが、今年の1月に税理士登録をしました。今後は税務の仕事も積極的に増やしていきたいと考えています。
またビズサプリにおいては、税効果の仕訳及び開示用資料の作成から検証まで行えるツールとして、Tax packageの各企業様にあった設計、導入支援、作成サポートも行っています。通常税効果の仕訳、開示資料においては、一時差異の増減表と税効果の計算を行うシート(我々は"Reconciliation"と読んでいます)、法定実効税率と税金負担率の差異分析のシート(同様に"Proof")の2つのワークシートを作成することが大半ですが、会計監査で培ったノウハウをベースに、これらに加えて税金関係のB/S、P/L勘定の期中増減表(同様に"Movement")と税金費用の理論値を算定する計算表(同様 に"Calculation")を加えた、4点セットから成るTax packageを整えることで、税金関連の計算ロジックの検証まで行える優れもののツールです。税金計算の間違いが多い、税効果の開示資料の作成に時間がかかる、と言ったお悩みがあれば、是非導入をご検討下さい。
また最近はIFRS導入企業が100社を超える勢いで増えてきており、グローバル 企業こそ、世界の競合他社と同じ"モノサシ"で比較できる決算書でないと、海外投資家の魅力を高められません。ビズサプリでは、IFRS導入支援コンサルティングも実施しておりますので、お気軽にお問合せ下さい。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。