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Vol.15 人工知能の現状と、優れた知能とは何か (2015年11月4日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.015━2015.11.4 ━

【ビズサプリ通信】

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ビズサプリの三木です。

今や仕事にコンピュータを使うのは当たり前になっています。それどころか、コンピュータは正確で計算も早いため、人間の仕事がなくなるのでは・・・という懸念すら現実味があります。

今回は、そこから一歩進んで人工知能の現状と、優れた知能とは何かについて考えてみたいと思います。 難しい内容もあるかもしれませんが、マニアックな方には楽しい内容ですので、 是非ご一読ください。

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■ 1.人工知能の難しさ

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人工知能の歴史を振り返ると、案外進みが遅いことに気づきます。開発するごとに人間の知能の奥深さに気づかされ、それをコンピュータで再現できずに足踏みすることの繰り返しです。

例えば、翻訳ソフトを考えてみましょう。

Young man is eating ramen with woman.

某翻訳サイトでは「若い人は女性とラーメンを食べている」と和訳されます。

でも、この内容をコンピュータは理解しているとは限りません。

(1) 若い男性が、女性の近くでラーメンを食べている

(2) 若い男性が、ラーメンを食べつつ女性にも頭からかぶりついているのどちらかは理解せず、単に文法に則って単語を置き換えている可能性が高いでしょう。

文法的には(2)の解釈も可能なものの、常識的にはあり得ません。翻訳1つを取ってみても、常識が無い機械には正しく理解できないのです。かといって、膨大かつファジーな人間の常識をデータ化することは困難で、今でも翻訳ソフトは文意をくみ取った意訳は苦手なままです。

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■ 2.将棋ソフトと人工知能

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将棋の世界に電王戦という試合があります。プロ棋士とコンピュータソフトの試合です。 2015年の電王戦ではプロ棋士が3勝2敗と辛勝しましたが、今やコンピュータソフトがプロ並みであることは確かです。

私は将棋は駒の動かし方が分かる程度で、無料の将棋ソフトにも勝てません。それでは将棋ソフトが賢いかというと、そうとも言い切れません。(負け惜しみではありません・・・)

将棋ソフトは決定木といわれるプログラムと、戦況の評価関数からできています。 決定木(樹形図、ディシジョンツリー)というのは樹木状のモデルで判断分岐を表現するものです。例えば、金をひとつ前に出す、銀で相手の歩を取る、といった取り得る行動を枝として場合分けしていきます。 評価関数のほうは、王が敵陣に入っていれば何点、相手の金を取ったら何点というように盤面や持ち駒を点数に換算します。

この両者を合わせ、より評点の高い状態になる選択肢を取り続けるのが将棋ソフトの骨子です。誤解を恐れずに言えば、ExcelのIF文を膨大に積み重ねたようなものです。(もちろん今のソフトでは様々な工夫をしていますので、これほど単純で はありません。人工知能も応用されています)

これは知能と言えるでしょうか?

コンピュータはミスをせず、計算も早いので、これだけでも強い将棋ソフトが作れますが、あくまでも人間が与えた論理に従った処理をしているだけです。また、この方法だと(ミスや計算スピードは別にして)コンピュータが人間以上に強くなることはありません。

つまり、将棋ソフトが強いというのは、将棋ソフトが高い知能を持っていることとは別と言えます。人工知能の観点から言えば、より重要なのは、どのようにして強くなったか、 つまり学習の仕組みです。 人間が与えた決定木と評価関数ではなく、コンピュータが自ら学習して強くなったのであれば、大きな可能性を秘めているといえます。

ここまで見てきたように、人間の知能というのは我々が考えている以上に高度で、コンピュータで実現しようとしても一筋縄でいかないものです。一方、近年その壁を破るかもしれないブレイクスルーも出てきていますので、 次に紹介したいと思います。

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■ 3.ディープラーニングと特徴量

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2012年にGoogleが面白い研究成果を発表しました。

ついにコンピュータが猫の画像を識別するようになったというのです。

Googleはこの研究に、1000台のコンピュータを動員しました。何がすごいのか、さっぱり分からないかもしれません。この研究は、

・Youtubeの画像を、ただコンピュータにランダムに見せ続けた。

・人間の神経回路を模したコンピュータを使った。

・人は何も教えなかった。

・その結果、「猫」の特徴をコンピュータが自ら学習した。

というものです。 猫の顔といっても、口があり、目があり、鼻があります。個体ごとに形が違いますし、配置も違います。三毛猫もシャムネコもいれば、サザエさんに登場するタマもいます。 それ以前に、口とは何か、目とは何かもコンピュータは知りません。人間は、三毛猫もシャムネコもサザエさんのタマも、全て猫だと判別できます。しかしながら、何をもって猫だと判別しているか言葉で説明するのは案外難 しいのではないでしょうか。

Googleの実験では、猫を猫たらしめている特徴的なナニモノかを、人間が一切教えずに、コンピュータが自らYoutubeの画像から見つけたのです。これは、地味ですが強烈なブレイクスルーです。この「特徴的なナニモノ」のことを「特徴量」といいます。 また、それを見つける学習手法のことを「ディープラーニング」と言います。

将棋のトッププロは、将棋の盤面を見て数秒で戦況を理解するそうです。人工知能的に言えば、戦況の良し悪しを判断する「特徴量」を掴んでいることになります。

実はこれまでの人工知能では、人がロジックを組み立てたり、特徴量を教えたりしていました。この時代の将棋ソフトが強いのは、ソフトが新しいアイデアを持っているからではありませんでした。計算が早くて疲れず、ミスをしないうえに、将棋の上手な人が評価関数をプログラム化したからでした。特徴量をコンピュータがつかむようになれば、プロ棋士がこれまで考えつかなかった戦法をコンピュータが出してくる可能性が高まります。 別の言い方をすれば、Googleの実験は、人工知能に人間という先生が不要になってきていることを示したのです。

この学習手法の進歩により、人工知能のレベルはここ数年、急激に伸びていると言われています。ただ、素晴らしい進歩であると同時に、恐ろしさを感じている人もいます。「シンギュラリティ」が来るのではないか、という懸念です。

(補足) Googleはこの実験にコンピュータ1000台を使いましたが、人間の脳の100万分の1にすぎないらしいです。改めて人間の脳の奥深さに驚きます。

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■ 4.シンギュラリティは来るのか?

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人工知能の将来について、シンギュラリティという考え方があります。

人工知能が地球全人類の知能を超えてしまうと、その人工知能が自らを更に改良し、更にそれを複製するようになり、ついには人間ではコントロール不能になるという予想のことです。この状態に至る一線のことを技術的特異点(シンギュラリティ)と呼びます。

本当にこうした日が来るのでしょうか。

著名な実業家イーロン・マスク氏は、「人工知能は人類の一番大きな脅威」「悪魔を呼び出すようなもの」と言っています。また、米国のコンピューター研究者であるレイ・カーツワイル氏は、このシンギュラリティは2045年だろうと予測しています。

誰もこの予想が正しいかどうか断言はできませんが、個人的にはシンギュラリティは簡単には来ないのではないかと思います。

1つは、複製は簡単ではないためです。いくら人工知能が優れているとはいえ、自分を複製したり増強するとなると、物資が必要ですし、それを運搬し、加工する必要があります。それらすべてを人工知能が賄うのは簡単ではありません。

2つ目に、生命の持つ巧妙な仕組みがあります。 遺伝子には多様性があり、自己修復能力があります。一方で遺伝子の変異や自然淘汰によって環境に最適な形態が生き残っていく仕組みがあります。この絶妙なバランスは、遺伝子を持たない人工知能にはありません。

さらに3つ目に、実は人間の知能は未解明な部分が多いことがあります。例えば、我々は誰でも「自分」という意識を持っていますが、この「自分」という意識がどういう仕組みで生まれているのか、現代の科学でもわかっていません。

将棋の世界では、人間とコンピュータは対決するだけではないそうです。プロ棋士がコンピュータを参謀に自分の戦法を考えていくなど、一緒にレベルを上げてく動きがあるそうです。人工知能と人間のどちらが勝つかではなく、うまく共存していきたいものです。

本稿を書くにあたっては「人工知能は人間を超えるか ディープラーニング の先にあるもの」(松尾豊氏著 株式会社KADOKAWA発行)を参考にしました。 非常に面白い本でした。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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