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Vol.16 日本郵政グループの上場にまつわる話題 (2015年11月18日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.016━2015.11.18 ━

【ビズサプリ通信】

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ビズサプリの久保です。

今年の新規上場会社の目玉は何と言っても日本郵政グループです。今回は、同社の上場にまつわる話題をすこし取りまとめてお話します。是非ご一読ください。

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■ 1.時価総額17兆円の日本郵政グループ

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11月4日、東証1部に上場した日本郵政グループは、3社合計で時価総額17兆円を超える巨大企業です。時価総額ランキングでは、1位のトヨタの25兆円に及ばないものの、2位の三菱UFJフィナンシャルグループの11兆円を超える規模と報道されています。

持株会社と子会社が上場している例としては、NTTがあります。NTTの場合は、持株会社である日本電信電話の時価総額とNTTドコモの時価総額がどちらもほぼ10兆円です。それらを合計すると20兆円となり、実は、日本郵政グループ3社合計を超えています。

グループ3社の時価総額を合計してよいのかについては、疑問に残るところです。 ゆうちょ銀とかんぽ生命の時価は持株会社である日本郵政に含まれているはずだからです。17兆円というのは、ダブルカウント、いや3社なのでトリプルカウントになっている感じもします。

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■ 2.子会社の時価総額が持株会社を上回る

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合計17兆円の内訳は、日本郵政の時価総額は7.9兆円、ゆうちょ銀7.5兆円、かんぽ生命2兆円です。理屈上は、もう一つの子会社である日本郵便の時価を加えた子会社3社の時価合計が、日本郵政の株価になるのが筋です。

しかしそうはなっていません。ゆうちょ銀とかんぽ生命の時価総額の9.5兆円は、持株会社の7.9兆円より高いという結果になっています。この理由は、ゆうちょ銀とかんぽ生命は将来には完全民営化される(日本郵政の持株がゼロになる)との期待から高く買われているため、と説明されています。

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■ 3.日本郵政は買収ターゲット?

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ちょっと話が変わりますが、1996年にニッポン放送(ラジオ放送局)の子会社であったフジテレビが上場しようとしたら、東証から物言いがつきました。親会社が上場していないのに、子会社が上場すると、情報開示されていない親会社が何を考えているか分からない、というのがその理由でした。その結果、ニッポン放送が東証2部、フジテレビが東証1部に同時に上場することになりました。

その後、堀江貴文氏率いるライブドアが、ニッポン放送を買収しようとした有名な事件が起こりました。時価総額が小さいニッポン放送がフジテレビを子会社に持つという状況は、企業買収の格好のターゲットだったのです。堀江氏が狙っていたのはラジオ放送ではなく、フジテレビあったことは明らかです。ニッポン放送を買収したらフジテレビが付いてくるわけです。(なお、この事件後、フジテレビがニッポン放送の親会社となり、ニッポン放送は非上場になりました。)

日本郵政グループの場合はどうでしょうか? 持株会社の時価総額が子会社の時価総額より小さいといっても、持株会社の時価総額は7.9兆円あります。よほどの資金力がないと買収は難しいでしょう。

今のところ政府が89%保有していますが、政府持株は、3分の1超まで下げることになっています。持株会社の日本郵政の株価が今後下がってきたら、企業買収が心配になってきます。しかしそれまでに、日本郵政がゆうちょ銀とかんぽ生命の株式を全部売り出して、完全民営化してしまえば、問題は解決します。ただ、すぐにはそうならないようです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 4.政府は黄金株を持たず

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買収に拒否権を持つ「黄金株」というのがあり、政府がこれを保有しておけば、買収防止策になります。今のところ、上場会社では国際石油開発帝石の1社だけが認められています。石油利権を外資に買収されるのは国家安全保障に関わるからというのが、その理由と考えられます。その黄金株は経済産業大臣が持っています。民営化を目指す日本郵政グループについては、そのような国策は関係ないはずですので、一時議論されたものの、結局、黄金株の発行は ありませんでした。

なお、この国際石油開発帝石は、もと特殊法人だった石油公団の一部が民営化した会社です。石油公団の資産評価と民営化方針に関わる経済産業省の委員会に筆者が参加していました。そのときに事務局の経済産業省から黄金株の提案がされ、初めて黄金株というものを知りました。拒否権があるので黄金のように貴重な株式ということから、そう呼ばれるように なったのだと思います。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 5.最初の時価はどう決まる?

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上場時の公開価格の決め方をお話しします。それまでは証券市場で取引されていない株式ですので、上場前に最初の時価を決めておく必要があります。これは次の手順で行います。

1. 企業は上場承認から数日で、事業内容や財務状況、想定発行価格などをまとめた 目論見書を出します。この想定発行価格は幹事証券会社が算定します。

2. 次に、株式を購入する投資家に対して、株価水準の聞き取り調査 (ロードショーと呼ばれます)をし、「仮条件」を決めます。これは一定の幅、すなわち何円から何円というように決めます。

3. 最後に仮条件の範囲内で、いくらの価格で何株買いたいか投資家に申し込んでもらいます。これを「ブックビルディング」と言います。これが公開価格になります。日本郵政の場合、想定発行価格は1350円、仮条件は1100〜1400円、公開価格は1400円でした。上場後の人気を反映して、最初に売買が成立した価格(初値)は1631円でした。

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■ 6.上場で調達した資金はどこへ行く?

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3社の上場によって市場から吸い上げられたお金は1兆4362億円です。これはどのようにして政府に入ったのでしょうか?

政府が直接持っているのは持株会社の日本郵政の株式です。このため、その11%を売り出したことから6930億円は政府に入ります。ゆうちょ銀とかんぽ生命の株式の売り出しによる収入は、それぞれ5980億円と1452億円です。これらはその親会社の日本郵政に入るお金です。

日本郵政に合計7432億円ものキャッシュが入り、お金持ちになったように見えます。しかし、そうではありません。政府との約束で、このお金で政府が持っている日本郵政株を日本郵政自身が買い取ることになっています。すなわち、これは自己株式の取得資金になるということです。このようにして、結果として、1兆4362億円全額が政府に吸い上げられるわけです。

実は、この手法はNTTが以前使いました。NTTドコモは、自己株式を親会社から買うことにより、親会社に資金供給しています。2014年8月から9月にかけて行われた、NTTドコモの公開買い付けによる自社株買いにNTTが応募しました。これによりNTTが持っているドコモ株式をドコモに買い取ってもらいました。その結果、NTTはドコモ株式の売却益2990億円を計上しています。

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■ 7.今回の上場では増資はなし

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普通、企業が上場する際に増資をして資金調達します。資金調達は、上場の重要な目的の一つです。しかし、日本郵政グループの上場では、政府が持っていた日本郵政の株式と日本郵政が持っていたゆうちょ銀とかんぽ生命の株式が売り出されただけです。新たに株式を発行して資金調達する(専門用語では「募集」と言います) ことはしていません。上場の主目的が、政府持株の売り出しによる民営化であったためと考えられます。

以上、日本郵政グループ上場に関する話題を取りまとめてみました。ご参考になれば幸いです。 本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
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泉 光一郎

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