Vol.8 ROEは最良の指標か? (2015年7月15日)
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【ビズサプリ通信】 ▼ ROEは最良の指標か?
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こんにちは。ビズサプリの花房です。
今週は東京では晴天が続き、夏らしくなってきました。これから週末にかけて雨模様の天気予報ですが、この3連休が明ける頃にはいよいよ夏本番ですね。
3月決算の皆様方は、この6月の株主総会は如何でしたでしょうか?株主総会と言えば、株主に対して経営者が経営責任を果たしているかどうかを説明する場であり、経営状況について株主からの質問が寄せられます。今年の株主総会及びその前後で『ROE(Return On Equity)』が話題となりました。
今回はこの『ROE』について考えてみます。 なお、文中の意見は筆者個人の私見であることを予めご了承ください。
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■ 1.ROEが注目される理由
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ROEとは、自己資本利益率=当期純利益÷自己資本(≒株主資本)で表されますが、株主から与えられた資本を使ってどれだけ効率的に利益を稼ぎ出しているかを測る指標として、投資家目線の指標です。経営分析で出てくる代表的な指標で昔からあるものですが、最近新聞などの見出しで目にすることが増えました。
その理由の1つとして挙げられるのが、ちょうど1年ほど前に発表されました、「日本再興戦略」改訂 2014の中で、『コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準の ROE の達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である』と謳われているように、アベノミクスによる成長戦略の中でグローバル水準の ROE の達成が推奨されているということです。
またやはり昨年導入された新しい株価指数である「JPX日経インデックス400」では、3年間の平均ROEが400銘柄の選定基準の1つになっています。
このようにROEが会社を評価する指標として注目されており、経営者としてもそのような投資家受けのいい指標を重視した経営が求められる風潮にあります。
今年に入って、日立や三菱重工業、ソニー等がこぞってROE10%以上を経営目標 として掲げると発表しました。
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■ 2.ROEの意味するもの
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日本企業のROEの平均は8%程度と言われており、ROEが8%を超えてくると、株価が市場平均よりも高くなる傾向があるという話も聞きます。株価は個別企業のミクロの要因と市場全体のマクロな要因があるので、実際に株価とROEがどこまで関連性があるか分かりませんが、ROEが高いことが何を意味するのか見てみたいと思います。
先ほど、ROE(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本、という数式を示しました。自己資本は株主のもの、株主が経営者に託したお金ですので、ROEが高いことは、株主の預けたお金を効率良く使って利益を得ていることになります。
ROEのいいところは、これを適当な項目を挟み込むことで分解できることです。 具体的には売上高と総資産を使って、次のように分解できます。
ROE=(当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)
=売上高当期純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
売上高当期純利益率は、売上高に対する最終的に残存する利益を示す収益性の指標、総資産回転率は、1年間に総資産が何回回転したかを示す効率性の指標、財務レバレッジは、総資産が自己資本の何倍あるかを示す安全性の指標です。
従って、ROEは収益性、効率性、安全性の掛け算で計算できる点で、総合的な経営指標と言えます。
そしてこの分解した数式から分かることは、ROEを高めるためには、売上高当期純利益率、総資産回転率、財務レバレッジの3つのうちのどれかを挙げることができればいいということです。
このうち、売上高当期純利益率はコスト削減、総資産回転率は売上高の増大を図らなければならないため、簡単には高められませんが、財務レバレッジについては、自己資本に対する負債の相対的な比率を高めることで、前2者に比べて財務戦略により、比較的容易に上げることが可能です。
すなわち、負債を増やすか自己資本を減らす、あるいはその両方により、財務レバレッジは高まります。そのため、毎日のようにどこかしらの上場会社が自己株買いを行ったり、あるいは配当性向を高めて、余剰資金を分配し、株主還元策に走っている状況です。
このように、ROEは株主目線の指標であるがゆえに、株主にとって優位なようにある程度は操作が可能な指標と言えます。
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■ 3.ROE至上主義からの脱却
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ROEは財務レバレッジを高めることで、財務戦略のみで上昇させることが出来ます。もちろん金融機関が青天井で貸し出しに応じてくれるわけではないですからおのずと限界がありますが、これだけ低金利の時代なので、お金を借りてでも出来る限り自己株買いをすれば、ROEが上昇して、株価に好影響を与える可能性があります。
しかし、それは本質的な意味で企業が成長しているわけではありません。本当に大事なことは、収益性を高めて利益を稼ぐことです。そのためには、設備投資や研究開発費といった、将来への投資を惜しまず継続的に行って行かなければなりません。それは、一次的にはコスト増になりますから、市場から常に増収増益を求められる上場会社にとっては、業績を睨みつつ予算の範囲で行っている状況でしょう。しかも四半期開示がなされる現在、短期的な視点での経営に陥りがちです。
その点、非上場会社は短期的な業績の変動を気にすることなく、長期的な成長の観点から思い切った投資が行えるので、経営者としては優位と言えます。また非上場会社にはオーナー企業も多く、オーナー社長の号令もと一致団結して物事に取り組みやすく、不況の時代には上場会社に比べて非上場会社の方が成長している会社も多いという話も聞きます。
上場会社は、投資家の目に晒され継続的な成長を求められますから、経営者に対するプレッシャーは相当なものです。無理に増収増益を達成しようとして、それを前提とした予算を必達目標とし、従業員もそれに応えようとして無理をする、あるいは都合の悪い情報は上に流さない、それが今回の東芝の不適切会計問題の大きな要因のように報じられています。
人間でも無理を続ければ健康を害するように、企業も無理を続けると歪が生じ、それがさらに続くと大きな問題となって露呈し、最悪の場合、企業そのものが破綻してしまいます。人生と一緒で、企業も常に順風満帆ということはあまりないでしょう。山あり谷ありで、長期的に見て平均的にそれが右肩上がりとなれば、結果として成長できていると言えます。
株式投資の王道は、長期保有だと言います。一時的な浮き沈みに一喜一憂しても投資家としても疲れますから、多少のでこぼこはあっても、長期的に成長する会社を見つけて投資できれば、長い目で見て大きなキャピタルゲインを手にすることが出来ます。それに長けた世界一の投資家が、ウォーレンバフェットなのでしょう。
ROEのような経営指標は、企業の状況を確認するツールであって、それが目的化してはいけないと思います。ROEは投資家の好む指標ではあるので、対投資家対策としてROEとうまく付き合っていく必要はありますが、それに縛られては元も子もないと思います。
しょせんROEは過去の実績から得られる数値であり、企業は様々な社会的責任を負っていますから、たとえ一時的に業績は落ち込むことがあっても、存続し続けることの方が重要です。そこに終わりはありませんので、抗うことのできない市場環境の変化やビジネスモデルの変更等、短期的には減収減益となるような状況でも、長期的な成長を目指して取り組んでいることを丁寧に株主・投資家に説明し、理解してもらう必要があるでしょう。
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本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。