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vol.228 コーポレートガバナンス・コードの改訂

ビズサプリの辻です。

8月も後半となりました。この夏も40℃を超える酷暑や熊本での地震を始め、台風や大雨の地域もあればダムが干上がってしまうぐらい水不足の地域もあるなど、自然災害が猛威をふるいました。このメルマガの配信日の26日も多くの地域で猛暑日予想が出ています。まだまだ残暑厳しい日が続きますが、なんとか乗り切りたいものです。

暑いので、メルマガの中で大変好評の“ほっとできる小説のご紹介”をしたいところですが、本日は残念ながら、7月に施行されたコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の改訂を取り上げたいと思います。

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■ 1.コーポレートガバナンス・コード改訂の背景
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導入から10年余り、CGコードには一定の意義がありました。独立社外取締役はプライム市場では3分の1以上がほぼ標準となり、女性役員も着実に増え、任意の指名・報酬委員会や取締役会の実効性評価も広く定着し、政策保有株式も確実に減少しました。そして、企業の収益力は上がり株価も上昇しました。CGコードがなければこのスピード感でここまで進むことはなかったのではないでしょうか。(ただ、結局制度でしか進まなかったこと自体は少し情けない気もしますが。)

一方で、補充原則まで含めて83に及ぶ原則はかなり細かく、またほとんどの会社が「コンプライ」しているのも事実で、当初プリンシプルベースを想定していたCGコードは実質的にルールベースに近づいていました。その結果、「どう対応すれば形式的にコンプライといえるのか」に労力が向かい、本来のプリンシプルベースから遠ざかっているという面もありました。また、CGコード導入から年月を経て、国が望ましいガバナンスの姿を示して上場会社がその形式を整えるという段階ではなく、各社がそれぞれガバナンスの在り方を考えなければいけない段階になっていると思います。

このような背景から、2026年7月に5年ぶりに大幅に改定された改訂版が施行されました。

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■ 2.改訂のポイント
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今回の改訂の趣旨については、金融庁から、「成長投資の促進に向けた コーポレートガバナンス・コードの改訂について」(https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721/03.pdf)が公表されています。その中で示されている主な改訂のポイントは次のとおりです。

【CGコードのスリム化】
補充原則が廃止され、コンプライorエクスプレインの対象は基本原則と原則に絞られました。この結果、補充原則を含めて83あった原則は、基本原則4+原則26の合計30にスリム化されました。その代わりに新設されたのが「解釈指針」です。解釈指針には「当該原則の背景となる考え方、目的のほか、当該原則を履行するための最良の手法(いわゆるベストプラクティス)や優れた手法(いわゆるグッドプラクティス)の一つと考えられる方策も含まれる」とされており、上場会社においては解釈指針を参考にして対応することが期待されることとなります。このため、実務的に大幅な変更となるわけではないとは思いますが、原則を遵守するための自社の取組を、より自身の言葉で説明することが必要となってきます。

【成長投資の促進】
取締役会の役割・責務として、成長投資等に向けた取組の重要性が明記されました。原則4-1において、「取締役会が成長の道筋を示し、設備投資・研究開発・人的資本といった経営資源の配分が適切かを検証すること」が求められました。また、検証を行うべき内容として、「現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているか」という視点が解釈指針で例示されています。

日本企業は「無借金経営」が健全といわれていた時代も長く、余剰の現預金を持ち過ぎている、資本コストを考慮した経営が行われておらず成長投資に振り向けられていない、といった投資家からの指摘が多くありました。このような指摘に対する対応として、コードにあえて例示の形で示したものといえます。

なお、「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(金融庁2026年7月21日)では、「現預金を含めたこれらの資産を保有することは常に否定されるべきものではなく、会社が保有の必要性・合理性を説明できる限りにおいて、適正な水準の現預金等を保有することも経営資源の配分の一環として考えられることに留意が必要である」とされています。つまり、現預金は、保有の必要性・合理性を説明できる水準になければならないとも読めます。

【取締役会の機能強化】
取締役会はコーポレート・ガバナンスの要であり、ガバナンスを有効に機能させるには取締役会の機能強化が必須です。この点は改訂前のCGコードから考え方の変更はないものの、独立社外取締役が占める割合が増加し、その監督機能をより効果的に果たすための環境も整いつつあることも踏まえ、改訂後のCGコードでは独立社外取締役の実効性向上に向けた記載が追加されました。

具体的には、果たすべき役割の明確化、数だけではなく「質」への言及、そして独立性確保の重要性が強調されました。例えば「社長の友人」や「取引先」といった関係者から頭数だけを揃えるようなことは、当然ながら認められません。独立社外取締役が取締役会に占める割合が高まるなかで、適切な人材を選任できなければ、かえって会社を危機に晒すことにもなりかねません。

加えて、会社に関する情報が不足しがちな独立社外取締役が実効性のある監督を行うためには、取締役会事務局・コーポレートセクレタリーの機能強化が不可欠であり、この点が原則4-14の解釈指針において示されました。今後、取締役会事務局には、ガバナンスの実務を統括する機能が期待されることになりそうです。現状では、総務部門や経営企画部門が兼任で担っているケースが多いものの(出典:『取締役会事務局の実務』商事法務)、今後は専門部署を設置する例も増えていくものと思われます。

【有価証券報告書の提出について】
有価証券報告書を株主総会前に提出することが原則に盛り込まれました。また、有価証券報告書は株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましく、選択肢として株主総会の開催時期の後ろ倒しも含めて検討することが考えられる旨が、同原則の解釈指針に記載されました。

現状、総会の3週間以上前に提出している会社はかなりの少数派で、2026年3月期では7社が3週間以上前の開示を実施したそうです(ちなみに、2025年3月期は1社)。一方で総会前開示を行った会社は、2026年3月期決算の会社では88.3%(プライム市場においては94.3%)となっており、ほとんどの会社が総会前開示には対応したことになります。(ここにも「お上から具体的な指針が示されれば頑張る」という我が国の特徴がよく出ているように思います。)

とはいえ、3週間前というのは決算・監査の実務に影響を与え簡単ではありません。ただ、決算実務の対応でどの程度早期開示が可能なのか、株主総会の開催時期をずらすのか等を検討しておかないと、「いつの間にか周りが対応していた」ということもあるかもしれません。

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■ 3.「守りのガバナンス」は軽視されているのか?
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原則4-4の解釈指針では、「内部統制や先を見越した全社的リスク管理は、適切なコンプライアンスの確保により持続的に信頼を維持し、リスクを最小化するために重要であるのみならず、経営陣が果断にリスクテイクを行うための裏付けとなり得るもの」とされ、いわゆる「守り」(内部統制、全社的なリスク管理、適切なコンプライアンスの確保)を「攻め」の経営の裏付けと位置づけています。「攻め」のガバナンスばかりが注目されていますが、「守り」を軽視してよいわけではありません。「守り」を疎かにしたことで、大きな不祥事が生じてしまい、企業価値を毀損するようなことがあれば、不祥事対応に追われ、事業で思い切って「攻める」こともできません。

原則4-4において、「取締役会は、内部統制や全社的リスク管理体制を適切に整備すべきである。」と明記しています。また、解釈指針の中では、リスクの例示として、サイバーセキュリティリスク、国際的な経済安全保障を巡る環境変化等の地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク及び技術等の情報流出リスクへの対応等といった最近生じているリスクを例示で示しています。まずは、この例示に示されたリスクについて取締役会が適切に役割を果たしているかどうか検証してみるのも、原則4-4への対応の第1歩となりそうです。

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■ 4.改訂後のCGコード
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日本企業はプリンシプルベースが苦手です。具体例を示されれば、それを満たすために一生懸命になります。社外取締役の人数、女性役員の比率等がその良い例です。それでも、最近は、さすがに次の段階に入ってきた気配はあります。今後は形式ではなく、改訂後のCGコードが求めているように「中身」を充実させていく段階になっていくと思います。

一方で、形式が整った先の「質」というのは抽象的でわかりづらく、特に取締役会の「議論の質」は測りにくいものです。社内外の取締役、時には監査役も含めて、自社にとって望ましいガバナンスの在り方・取締役会での議論の在り方を試行錯誤していくことが必要なのではないかと思います。

また、最近は上場会社の数が減少に転じています。プリンシプルベースとなるCGコードに対応しつつ、その姿勢を自らの言葉で説明し、機関投資家との対話を図るというのは、かなりの労力とコストがかかります。上場するメリットとコストを比較して、非上場を選択することも大きな経営判断になるかと思います。

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■ 5.おわりに
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ガバナンスは、経営の執行に緊張感をもたらす仕組みで、投資家や株主のためだけのものではありません。今回の改訂を、自社のガバナンスの状況を確認し、より望ましい方向性に導くための議論するきっかけにする必要があると思います。

本日もAW-Biz通信をお読みいただきありがとうございます。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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