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会計

vol.218 金利と会計基準

ビズサプリの三木です。
今年の初詣ではおみくじを引いたのですが、去年は300円だったおみくじが500円になっていました。諸々の値上げ傾向もすっかり定着した感があります。そして2025年12月、日銀は政策金利を0.25%引き上げ0.75%としました。政策金利とは銀行同士が短期でお金を貸し借りする際の金利の誘導目標です。こちらの金利の上がり傾向が定着するのか注目している人が多そうです。

私も30年近く会計士をしていますが、その大半は長く続いたゼロ金利・マイナス金利の時代でした。なので、借入コストも割引率も理屈は理解しているものの、長期に渡る案件でなければ影響は誤差の範囲だし、どうも日常感覚とは相容れない別物のような感覚で捉えていたように思います。ただ、金利が実際に動き始めると、そうした前提も少しずつ変わっていきます。
今回は金利と会計基準の関係について書いてみたいと思います。

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■ 1.金利が大きく影響する会計基準
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金利が大きく影響する会計の領域としてはどのようなものがあるでしょうか?

(1)リース会計

リース負債は将来の支払額を割引いて現在価値で計算するため、金利が上がれば契約の当初に計上されるリース負債は小さくなります。しかしながらその後は、上昇した金利で計算した支払利息が損益計算書に計上されていきます。リースの利用度合によっては思いのほか多額の支払利息が計上されてびっくりしたり、「そのリースの使い方で本当に良いのか?」と、改めて考えさせられる場面も増えてきそうです。

なお、2027 年 4 月 1 日以後開始する事業年度の期首から適用される新リース会計基準ではリースの範囲が広くなる可能性があります。

(2)減損会計

のれんや有形固定資産などに適用される減損会計では将来キャッシュフローの割引現在価値を用います。金利が上がれば減損額を計算する際に簿価と比較される使用価値が下がるため、減損が生じやすくなります。

ただし、当然のことながら金利が上がってもそれに負けない継続的な利益があれば問題はありません。金利が上がる局面ではインフレ率も高めなことが多く、企業としてはそれにしっかり追随して、その状況に対応した価格設定や事業計画を立てなければいけません。インフレ下でお金を普通預金に置いたままでは目減りしていくのと同様に、金利を意識せずに事業を続けていると、事業資産の価値が目減りし減損につながってしまう、そんな時代に入ったと言えそうです。

(3)M&A

M&Aの際の株価算定には複数の方法がありますが、中でも良く使われるのはDCF法(将来キャッシュフローの割引現在価値)でしょう。金利が上がれば計算上の企業価値が抑えられ、「買いやすい」「買われやすい」局面が増えそうです。ここも減損会計と同じで、インフレや金利の上昇に取り残されない事業計画を描けるかどうかがポイントになりそうです。厳しいことを言えば、金利に満たない水準の利益は利益ではない(会社を清算して定期預金に預けたほうがマシ)ということになります。

(4)退職給付会計

退職給付債務も将来給付を割引いて計算されるため、割引率が上昇すれば債務は小さくなります。加えて、株式市場が堅調であること等により年金資産が増加すれば、年金債務を年金資産が超過する資産超過となる企業が増える可能性もあります。これにより、会計上で負債が減って資産が増えるという影響だけでなく、実際に資産超過により退職給付信託の一部が企業側に返還される事例も出てきています。

ただし、退職給付会計はかなり長期の金利計算を行います。そのため、金利の変動の影響は非常に大きく、わずかな割引率の変動で債務額が大きく動きます。計算の結果だけを見るのではなく、金利に対する感応度を把握しておくことがこれまで以上に重要になってきそうです。

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■ 2.金利はリスクの言語化
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金利というと、「市場が決めるもの」「外から与えられる数字」という印象を持たれがちですが、実は金利とはリスクを数値で表現したものでもあります。

危なっかしい取引先にお金を貸す時は金利も高くなります。これは与信リスクに応じて金利が変動するためです。M&Aの時の企業価値算定にはWACCと呼ばれる割引率が用いられますが、ここにも当然リスクに応じた金利が反映されており、事業が不安定な会社ほどWACCも高くなる傾向があります。

少し専門的な話になりますが、会計上でいわゆる時価を計算するにあたって、IFRS13号では「使用価値」と「公正価値」という言葉が使い分けられており、適用される割引率も異なっています。使用価値は企業自身がその資産を使い続ける場合の価値であり、「その企業が今後も継続して事業を続けられるか?」といったリスクを加味した割引率を用います。他方で公正価値は外部の人がその資産を取引する場合の価値であり、企業固有のリスクを加味した割引率にする必要はありません。どの立場で、どのリスクを見ているのかによって、使う割引率が変わりますし、リスクが分からなければ割引率は決められません。

金利が上がるにつれて、決算や監査対応の現場においても、割引率の根拠の説明を求められる機会は増えていくでしょう。金利とは、そこにあるリスクを数字という共通言語に翻訳したものだと言えそうです。

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■ 3.PLだけでなくBSも
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振り返れば、ゼロ金利の時代は歴史的に見ても例外的でした。会計基準はもともと、時間とリスクが金利を通じて価値に影響する世界を前提に作られています。いま起きている変化は、会計が厳しくなったわけではなく、30年ぶりに会計基準の前提条件が本来の姿に戻ったと見るほうが自然でしょう。

リース負債、減損資産、退職給付債務、M&Aによるのれんなど、貸借対照表に計上されている多くの資産・負債は、これまでより金利の影響を大きく受けるようになり、財務数値は金利により想像以上に大きく動くようになります。一般に経営分析の際には損益計算書を中心とすることが多いのですが、金利が発生する原因は貸借対照表の資産・負債にあります。この影響を理解するには、損益計算書だけでなく貸借対照表も含めて全体を読み解く必要がありそうです。

2026年はさらに金利が上がっていく年になるかもしれません。
金利のある世界に戻ったことで、会計は再び、「時間」「リスク」「将来と現在の価値」といった大きなテーマを私たちに問いかけているように感じます。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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