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会計

vol.216 ニデックの意見不表明

皆様、こんにちは。ビズサプリの辻です。

つい最近まで「暑い、暑い」と言っていたのに、気づけば秋の気配も深まり、冬の訪れを感じるようになりました。そしてあっという間に12月。インフルエンザも猛威をふるっているようです。年末に向けて慌ただしくなる時期ですので、皆様も健康には十分お気を付けください。

今回は久しぶりに、公認会計士らしく監査意見についてのお話です。

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■ 1.異例の意見不表明が出た経緯
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2025年9月、ニデックの2025年3月期有価証券報告書において、会計監査を担当する監査法人のPwC Japanが「意見不表明」を表明しました。ニデックのような大企業で意見不表明が出されるのは極めて異例です。

今回の件は、まず2025年5月の「海外子会社の監査が遅延しており、会計監査人から連結計算書類に係る監査報告書を受領していないにも関わらず、監査報告を受領する予定で作成・送付した」というリリースに端を発します。これまたレアな内容のリリースです。監査報告書を出せるかどうかというかなりシビアな状況にあったわけで、監査法人と会社の間でコミュニケーションがきちんと取れていないのではないかと思わせるような恥ずかしいリリースです。

その後2025年6月にイタリアの連結子会社の貿易取引上の問題及び関税問題に関し、社内の更なる調査・検討に時間がかかるとのことから、2025年3月期の有価証券報告書の提出期限を2025年9月26日まで約3か月延長することを発表します。

そして提出期限直前の2025年9月3日には、第三者委員会を設置しました。
当然このタイミングの調査体制の変更では9月26日までに調査が完了することはできません。有価証券報告書の提出時に調査が完了しておらず、決算数値は確定できず冒頭で記載した通り9月26日に提出された有価証券報告書においては意見不表明となりました。

ニデックに何が起こっているかどうかは、調査が終了していないのではっきりとはわかりませんが、2025年11月14日に発表された2025年4月~9月の上期決算では、売上高は前年同期比85億円増の1兆3023億円だった一方、顧客との契約の履行に伴って発生する可能性が高い損失に備えた引当金など計877億円の特別損失を計上しているところからも過年度からかなり多額に利益を良く見せるような不適切な会計処理が行われていたのだと思います。

ちなみに、同社は2022年10月の中間配当(35円)および直前の自己株式取得が、会社法で定める「分配可能額」を超過していたという、これまた珍しいミスにより違法配当を行ったということがありました。ニデックの決算財務報告プロセスにおける内部統制は、基本的な部分から十分に整備・運用されておらず、特定の会計処理だけでなく全社的な内部統制にも問題があるのではないかと感じさせるもので、今後根が深いものがあるのではないかと思います。

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■ 2.監査意見の種類
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上場企業は、金融商品取引法に基づいて作成した上で監査法人による監査済みの財務諸表などの提出が求められます。監査法人によって表明される監査意見には、「無限定適正」、「限定付き適正」、「不適正」、「意見不表明」の4種類があります。

日本公認会計士協会のHPによると、「意見不表明」とは重要な監査手続が実施できず、十分な監査証拠が入手できない場合で、その影響が財務諸表等に対する意見表明ができないほどに重要と判断した場合の意見と説明されています。つまり「意見不表明」は、「監査意見を出せないという意見」になります。

日本取引所グループのHPでは「無限定適正意見」以外の意見が付された会社を検索できますが、意見不表明が出される会社数はかなり少なく、2025年ではニデックを含めて4社のみです。そしてニデックのような大企業に対して意見不表明が出されることは異例中の異例です。

意見不表明が出される、つまり「監査意見が出せない」となるのは下記のような状況が考えられます。

・監査の対象となる決算数値が確定していない
・業績の悪化等により資金調達の目途が立たず、会計の前提となる「継続企業の前提」が確認できる状態ではない
・重要な資料の提出等がされずに、監査が実施できていない
・実地棚卸の立会ができていない、預金の確認状が入手できないなど重要な資産の実在性(実際にあるかどうか)が確かめられない

数少ない意見不表明ではありますが、その中でも最近の意見不表明はほとんどの場合、ニデックのように会計不正等の調査中で、監査の対象となる決算数値が確定していないことによるものとなっています。

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■ 3.証券取引所の取り扱い
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10月28日には証券取引所はニデックを「特注銘柄」に指定しています。「特注銘柄」とは特別注意銘柄のことで、有価証券報告書等の虚偽記載や不適正意見、開示規制違反等があり、上場企業の内部管理体制について改善の必要性が高いと認められる場合に指定されます。投資家としては「特別に注意をしなければいけない銘柄」ということになり、かなり不名誉な指定です。特注銘柄に指定された企業は、早急に内部管理体制の改善に取り組む必要があります。証券取引所は指定後1年後に審査を行い、内部管理体制等の改善が認められない場合には上場廃止となってしまいます。かなりの緊張感のある制度です。

調査報告書が公表される前、つまり何が問題だったのかが明らかでないところで「内部管理体制等について改善の必要性が高い」と判断され、特注銘柄となることも珍しいことです。ただ、当時はあまりニュースにはなっていないのですが、実はニデックは、内部統制報告書(J-SOX)において、2023年3月期から「決算財務報告に係る内部統制は有効とは言えない」との評価結果が続いています。ニデック規模の上場会社で内部統制評価が連続して有効でないと評価をすること自体もこれまた異例なことで、証券取引所も、第三者調査委員会の調査報告を待つまでもなく内部管理体制を改善しなければならない状況にあったと判断したのだと思われます。

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■ 4.ニデックの今後
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ニデックは11月14日、「改善計画の策定方針に関するお知らせ」を公表しました。特別注意銘柄の指定解除に向け、内部管理体制等の改善に取り組む方針が示されています。

内容としては

・第三者委員会の調査に全面協力する
・第三者調査委員会の報告を受け次第、提言される再発防止策に真摯に対応
・上記の調査と並行して「ニデック再生委員会」を設置し、企業風土・組織風土の改革、人事制度改革、人材育成、恣意性の排除などを推進
・株主・投資家への適時・適切な情報開示体制の強化

などが挙げられています。

ニデックと言えば、「永守さんの会社」という印象があります。経営のカリスマが長年君臨している中で、ガバナンスは有効に機能していたのか、内部統制はなぜ機能しなかったのか、これまで実施したM&Aについて、適切な会計処理を行った場合はどのように分析、評価されるのか、監査法人とはどのような関係性だったのか様々な観点で注目していきたいと思います。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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