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Vol.130 令和3年度税制改正 (2021年3月10日)

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【ビズサプリ通信】

▼ 令和3年度税制改正

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ビズサプリグループの花房です。

三寒四温とはよく言ったもので、この2〜3週間余りは、日中20度近い春の陽気の日もあれば、朝方や夜半は1桁の気温の日もあったりが数日おきに繰り返し、毎年のように異常気象が続く昨今においても、日本の季節のリズムはまだ保たれているのかなと感じでいます。ちょうど新型コロナが深刻化したのが1年前の今くらいの時期でしたが、外出時にマスクが手放せなくなったおかげで、寒暖の差が激しい時期においても風邪の症状が出にくくなったのは、コロナ禍においての数少ない利点でしょうか。

新型コロナに抗するため、ようやくというか、それでも従来のワクチン開発から承認までのスピード感では考えられないくらいの速さで開発された、新型コロナのワクチン接種が、2月中旬より始まりました。まずは医療従事者の方から、その後は、高齢者、一般の方へと順次対象が広がっていきますが、飲食業・観光業中心にダメージが蓄積している中、希望的観測は言えませんが、少しでも早く収束に向かうことを願うばかりです。

4月は新年度のスタート、制度の新設・改変の多いタイミングですが、税制については、昨年12月21日に令和3年度税制改正の大綱が閣議決定されています。その概要においては冒頭で、『ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のデジタルトランスフォーメーション及びカーボンニュートラルに向けた投資を促進する措置を創設するとともに、…(中略)…次のとおり税制改正を行うものとする。』と謳っています。

ポストコロナを待たずとも、新型コロナによりリモートワークが常態化し、外出が制限される中で、飲食のデリバリーやネット配信の浸透、また自動運転技術や遠隔医療の導入等、選択ではなく半ば強制的に、デジタル技術を活用して業務プロセスが変わり、新サービス、新技術の導入が一気に進み始めています。また政府としても、今年の9月には「デジタル庁」を新設し、行政でのデジタル化を加速する狙いです。政府自らが本気になってデジタル化の推進に取り組む気持ちの表れとして、税制改正においてもその後押しをする措置が織り込まれたのだと思います。

その中で、経理実務に少なくない影響を与えると想定されるのが、電子帳簿等保存制度の見直しです。制度としては1998年に制定された法律で、いわゆるペーパーレス化を進めるものとして領収書のスキャナ保存を認める等、何度かの改正を経ていましたが、結局紙での保存と変わらない、あるいはそれ以上の労力を要することになるため、普及が進まない制度でした。今回の改正は抜本的な見直しと言っているように、その阻害要因が大幅に解消され、使い勝手のいい制度となりそうです。

今回のメルマガでは、電子帳簿等保存制度の改正について解説します。

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■ 1.電子帳簿保存制度の概要と改正前の障害

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企業は法人税法等の国税に関する法律において、総勘定元帳・仕訳帳等の帳簿や、取引等に関して作成又は受領した書類(以下、「帳簿書類」)を原則7年間(欠損金が生じる年度については10年間)の保存義務がありますが、原則は紙で保存することとなっており、取引の増加とともに紙の証憑が増えるため、電子データでの保存を容認するものとして、1998年に「電子帳簿保存法(通称)」が制定されました。

この電子データでの保存ですが、帳簿書類の性質により、次の3つの類型に分かれます。

1. 自己が電子的に作成する帳簿書類の電子保存 (以下、「1.帳簿書類の電子保存」)

2.取引の相手方から書面で受け取った請求書等のスキャナ保存 (以下、「2.スキャナ保存」)

3.取引の相手方から電子的に受け取った請求書等のデータ保存 (以下、「3.電子取引のデータ保存」)

これらにつき、従来普及が進まなかったのは主に、次のような煩雑な手続きが必要とされたからと考えられます。

1.帳簿書類の電子保存、2.スキャナ保存、については、紙から電子データでの保存に変える日の3か月前までに、税務署長に対しての申請が必要

2.スキャナ保存の内部統制要件として、スキャナ対象の書類に受領者が自署した上で3営業日内に読み取ってタイムスタンプの付与が必要、書類原本と電子データの突合作業をする定期検査、2名以上での事務処理による相互けん制が求められる

2.スキャナ保存、及び3.電子取引のデータ保存について、システム上の検索要件として、取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目により検索出来ること、日付又は金額の範囲指定により検索できること、二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できることが求められる

1.帳簿書類の電子保存については、2020年3月時点において税務署による承認件数が約27万件であるのに対して、2.スキャナ保存が約4千件に留まっているのは、紙保存以上に厳しい内部統制要件を満たさなければならなかったためと言えます。

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■ 2.今回の改正のポイント

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令和3年度の税制改正では、上記の障害を大幅に解決する方向で制度が使いやすくなります。まず、1.帳簿書類の電子保存、2.スキャナ保存ともに、税務署による事前承認が廃止されることで、電子帳簿保存法に対応した機能を備える会計システムやスキャナが準備出来れば、すぐに電子保存に切り替えることが出来るようになります。

次に、2.スキャナ保存の内部統制要件が大幅に緩和され、スキャナ対象の書類への受領者の自署は不要、タイムスタンプの付与が3営業日から最長2カ月以内に延長、定期検査は不要となり、スキャナ後すぐに原本を廃棄可能、また2名以上の相互けん制も廃止して1名での事務作業が可能となりました。

また、2.スキャナ保存、及び3.電子取引のデータ保存について、電子化の3つ目の大きな障害であったシステム上の検索要件は、検索項目が取引の日付、取引金額、取引先に限定されることとなりました。さらに電子取引のデータ保存の場合で売上高1千万円以下の事業者は、検索要件自体が不要となっています。

このうち、企業にとって最も負担が大きかったのが内部統制要件ですが、この負担の大幅な軽減は、電子保存のハードルを大きく下げることになります。一方で国税側としては、電子帳簿保存の浸透により、紙ベースよりもデータ改ざんが容易に出来ることから、データの改ざん等で修正申告がある場合、従来の重加算税に加えてさらに、本税の10%に相当する金額という重いペナルティを課すことで、企業側をけん制し、バランスを取っています。企業としても、税務上で内部統制要件がないからと言って内部統制の整備を怠ることは許されず、ガバナンスの観点からは、不正や間違いを防ぐ機能を組み込んだシステムの構築と、運用をチェックする体制を整えなければなりません。なお、今回の電子帳簿保存法の改正は、2022年1月からの施行となります。

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■ 3.システムインフラとモニタリングがより重要となる

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電子帳簿保存の導入企業としては、電子保存が容易になることで、電子データを活用して二重入力を減らせること等により経理業務の生産性の向上が図れますし、電子データはシステム内に格納され物理的な原本確認が必要ないため、従来難しかった経理業務のリモートワークの推進が可能となります。ただメリットだけでなく、従来の紙ベースから電子データとなることで、複製の容易な電子データは二重請求や二重計上のミスを招きやすくなるため、受領してから申請〜支払までの仕組み、特にシステムインフラをきちんと整備する必要があります。その上で、電子帳簿保存の仕組みを踏まえた業務フローが適切に行われているのかをモニタリングして、従業員の不正やミスを監視する必要があります。

システムインフラの観点から、せっかく電子データとして保存出来ても、電子データ保存用のシステムと、社内決裁ツールとしての電子稟議(ワークフロー)、会計システム等が連動していないと、せっかくの電子データが効率的活用できていないことになり、生産性向上やテレワーク推進として生かせないことになります。この点については、一気通貫のシステムとして構築するか、あるいはそれぞれのシステム同士が連動はしなくても、データの吐き出し・取り込みが容易に行える仕組みとする等、電子帳簿保存の導入に際して、業務フローとシステムの見直しを実施しなければなりません。

また、紙ベースで申請書を回し、ハンコをつくことで決裁していたプロセスから、電子化された証憑を添付する形の電子稟議で決裁を行うプロセスに変化することで、改ざんや二重精算のリスクは相対的に紙保存よりも高くなる可能性があります。紙の原票だとコピーや改ざんは容易ではないですが、電子データはコピーや改ざんが比較的容易という特色があり、スキャナ保存時のタイムスタンプは保存日時は保証しても取引発生日を保証するものではないためです。そこで、計上された経費を事後的にモニタリングする仕組みが重要となります。具体的には、増減比較分析や予実分析と言った管理会計的な観点でのモニタリングを、従来よりも詳細レベル(例えば、申請者別や取引先別等)で行うことが有効と考えます。

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■ 4.経理業務はより付加価値の高い業務へ

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今回解説した令和3年度の税制大綱のうち、電子帳簿保存法の改正は税金計算そのものに影響するものではないですが、経理業務のデジタル化を進める意味でのインパクトは大きなものがあります。紙の原本保存が必須であることから、物理的に会社での業務を強いられ、書類の整理や保管に労力を割かなければならなかった従来の状況から解放され、リモートワークが可能となり、取引データを電子化することで、その後の仕訳入力作業を自動化、あるいは半自動化することで、仕訳入力に費やす時間の削減に繋がります。

これは経理業務という職種がなくなることを意味するものではなく、仕訳入力というどちらかというと単純作業はコンピュータに任せ、人の行うべき仕事としては、入力された仕訳のチェックや、前期比較や予実分析と言った管理会計業務にシフトしていくべきと考えます。また、分析業務を強化するため、システム上どういう勘定科目や補助科目を設定すべきか、システム変更を行う場合にどのようなシステム設計にするのか、あるいはシステムを選択するのか、現状の業務フローをより効率的、効果的なものとするためにはどのように変更していけばいいのか等、より付加価値の出せる仕事の割合が増えていくはずです。その第一歩として、紙の帳簿書類から電子帳簿に移行することは、チャレンジすべきいい機会 だと思います。

ビズサプリグループでは、電子帳簿保存法の改正に対応した、経理業務の改善支援を行っています。あるべき業務フロー、システムの選定・導入支援、規程の整備等を含めてサポート可能ですので、ご興味がある方はお気軽にお声がけ下さい。本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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