Vol.37 企業経営での負債の意味 (2016年9月23日)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.37━2016.09.23━
【ビズサプリ通信】
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ビズサプリの三木です。 今年のシルバーウィークは天候がいまいちですが、皆様どのようにお過ごしで しょうか。
今回のメールマガジンでは、企業経営での負債の意味について考えてみます。
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■ 1.日本の経営スタイル
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日本企業はROE(株主資本利益率)が低いとよく言われます。生産性が低いというだけでなく、内部留保を手元資金として大量に蓄えている企業が多数あることもROEを下げる要因と言われています。
多額の内部留保があることは安定・安全経営のように思えますが、お金が遊んでいる状態になるとROEが下がってきます。ROEが下がると株価にも影響があり、上場していると買収されるリスクも高まります。稼いだお金をしっかり大切に蓄える経営は、堅実な生き方のお手本のようでありながら、実はリスクも抱え込んでいることは認識しなければいけません。
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■ 2.PBRが1未満とは 〜 企業の存在意義がない!?
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PBRという財務指標があります。
PBRとは株価純資産倍率のことで、株価÷1株あたり株主資本で計算します。 実際に計算をしてみると、
株価総額=純資産ならPBRは1、
株価総額<純資産ならPBRは1未満、
株価総額>純資産ならPBRは1より大きくなります。
PBRが1を下回っているのは、実は会社として存在意義を問われる状態です。会社は、設備や人を組み合わせて1人の人間や1つの設備ではできないことを行い、利益を上げていきます。 このため会社の価値は、個別の資産を積み上げた価値よりも大きくならなければいけません。さもなければ、解散して全てを売却して株主に返還したほうが マシということになります。このため、PBRは理論的には1を下回らないはずです。
ところが実際には、PBRが1未満の会社はけっこうあります。大量の内部留保があり、PBRが1未満の会社というのは、買収を仕掛ける側からすると大変に「お買い得」な案件です。
1.買収先が持っている資産を、個別に買うより安く買えることになる。
2.純資産より株価が低いため、のれんが殆ど出ないか、負ののれんになる。このため、買収後ののれんの減損リスクや償却負担を気にしなくてよい。負ののれんは収益計上されるため、一時的ではあるが業績を押し上げる。
3.PBR1未満の会社は手元資金を大量に持っていることが多く、これを安値で買うことで次の買収資金を入手できる。
このような点でPBR1未満の上場企業は買収されるリスクが高く、自社の財務戦略を見直す必要があると言えます。
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■ 3.負債の効果 ----------------------------------------------------------------------
負債というと日本人にとってはネガティブなイメージがありますが、財務的に資金調達以外の効果もあります。 有名なのはレバレッジ効果です。つまり、借入をしても本業で金利を上回る利益を上げれば結果としてROEを上げることができます。 てこの原理と同じなのでレバレッジ効果といわれます。
財務分析では一般的に負債が大きすぎると安定性が無いと判断しますが、世の中にはそんな常識にかからない会社もあります。世界最大のたばこメーカーであるフィリップモリスが実は債務超過であることをご存知でしょうか。 しかもフィリップモリスは、業績不調で債務超過になったのではなく、自社株買いで自ら債務超過の道を選んでおり、株価は好調です。 安定収入で負債の返済を賄えるため、自己資本比率はマイナスでも安定性に問題はないという見方がされているのでしょう。 PBRが1未満の会社からすると想像もつかない世界です。
また、負債を負うことによりガバナンスにも影響するといわれます。 すなわち、負債の返済という大きなプレッシャーで財務規律が高まり、資金繰りをしっかり考えるようになる、無駄なものは買わなくなる、といった効果が あります。 株主からすれば、破綻さえしなければ負債はありがたい存在といえます。
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■ 4.負債を使った買収スキーム
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負債を使った様々な買収スキームもあります。恐くなるようなスキームもありますが、代表的なスキームを紹介します。
まず有名なのがLBO(レバレッジドバイアウト)です。 買収元は買収資金として借入を行いますが、この際の担保は買収相手の借入余力です。 この際に買収相手の内部留保が大きければ、買収後にその内部留保を配当などで吸い上げて返済に充てれば、自己資金なく買収することが可能です。企業倫理的には問題あるでしょうが、PBRが1未満の会社をLBOで買収し、資金を吸い上げて返済に充て、価値がなくなったところで放り出せば、計算上は買収 前より多くの資金を手にすることすらできます。この仕組みだと、LBOを使ったライバルつぶしも発生しえます。
もう一つ、投資ファンドのExitの1つとして、借入をして配当することががあります。 企業を買収した後でその企業に借入をさせ、その借入で配当させて資金回収してしまうというものです。もともとの買収に借入を使うわけではありませんが、買収先の借入余力に注目して資金の早期回収をするので、広い意味では負債を使ったスキームといえるでしょう。
LBOにせよ借入による配当にせよ、買収された側の資本構成は様変わります。 純資産が減り、負債が増え、その分だけ資金を吸い取られることになります。
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■ 5.負債を使った買収は悪か?
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負債を使った買収スキームは恐ろしい感じもします。こういう買収を仕掛ける人を快く思わない人も多いでしょうし、本当に倫理的に問題があるケースもあるでしょう。 とはいえ、特に今の日本社会にとって、負債を使った買収は悪だと断言はできません。
少子高齢化で働き手が減る中、企業の生産性を上げていくことは日本経済の重要課題であり、アベノミクスもコーポレートガバナンス・コードの策定もその流れの中にあります。 過剰資本となっている企業が資本構成を見直し、ある程度の負債を負ってROEを上げていけば経済全体でも成長力が高まります。 端的に言えば金めぐりが良くなるわけです。
LBOなどの買収スキームは、過剰資本の企業に半強制的に負債を負わせ、資金を別のところに配置しなおす効果があります。 吸い上げられた資金が生産性の高い企業に投資され、過剰資本だった企業は負債のプレッシャーを感じながら筋肉質な会社に変わっていくのであれば、社会全体ではプラスと言って良いのではないでしょうか。 長らく安定経営が身上だった日本企業が急に変わることも簡単ではありません。また、買収される当事者にとってはたまったものではありません。
しかしながら、上場企業には常にそのリスクがついて回るわけですから、そういう目に合う前に自力で資本構成を見直すことを求められているのでしょう。少なくとも、安全のために内部留保をたくさん持つことが逆に別のリスクを高めてしまうということは念頭に置くべきといえます。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。