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Vol.191 「虎に翼」で思うこと

ビズサプリの辻です。

現在放送中のNHKの朝ドラ「虎に翼」ご覧になっているでしょうか。「虎に翼」は、日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ、三淵嘉子さんの実話に基づくオリジナルストーリーで、困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開いてきた女性の情熱あふれる姿を描くとのことです。(NHK ホームページから一部引用)

このドラマを見ていると、私は涙がツーっと出てきてしまいます。朝ドラは仕事の合間の移動中にスマホで見る事が多いのですが、電車の中で人知れず涙を流してしまいます。そして周りの「働く女性たち」とも「そうそう!ほんとそう!」と盛り上がります。何が私たちの感情を揺り動かすのか、何か日本の女性活躍を阻むヒントがあるのではないかと思い、ちょっと考えてみることにしました。

■ 1.ジェンダーギャップ指数のおさらい

毎年6月頃に公表されるジェンダーギャップ指数、「日本は先進国では最下位レベル」とこのメルマガでも何度かお伝えしてきましたが、最近はどうでしょうか。「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)の2023年版を発表した。日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位で、前年(146カ国中116位)から何とまたダウン。順位は2006年の公表開始以来、最低になったとのことです。これをG7(主要7カ国)でみると、ドイツ(6位)、英国(15位)、カナダ(30位)、フランス(40位)、米国(43位)、イタリア(79位)です。もう、圧倒的な最下位です。
そして、お仲間のアジアでみると、フィリピン(16位)、シンガポール(49位)、ベトナム(72位)、タイ(74位)などがアジアの中では相対的に上位、日本は韓国(105位)や中国(107位)をも下回りこれも最下位クラスです。146か国中125位ですからどんな区分でみても最下位なのは当たり前ですね。
私が日本の結果をみて特徴的だな、と思ったのは下記の2点です。

◆毎年スコア(点数)は変わらないが、順位がじりじり下がっている
女性活躍の文脈でよく聞くのが、「頑張っているし、昔に比べるとだいぶよくなったよね。」という言葉です。これがまさにスコアにも表れています。日本が頑張っていないわけではないのだけれど、周りの国がスピード感をもってどんどん変わっているので相対的には遅れてしまっています。

◆評価の分野ごとのスコアに大きな差異がある
ジェンダーギャップ指数は、「政治」「経済」「教育」「健康」の4つの分野で評価します。このうち、「教育」「健康」については最下位レベルではありません。特に「健康」などは上位にランクしています。一方で「経済」「政治」が大きく足を引っ張る順位となっています。女性活躍が遅れている政治によって女性活躍に本当に必要な政策が実施されず、そのような社会の中で、せっかくよい教育を受けたとしても社会の中で活躍できず、給与格差等が生まれているという状況が世界でみると最下位レベルで継続しているという状況と読み取ることができます。このような状況では、女性は活躍できる海外に軽やかに飛び立ってしまいますよね。

■ 2.「はて?」が言えなかった

話を「虎に翼」に戻します。ドラマの中で、主人公である寅子(ともこ)は、自身が納得のいかないことがあると、「仕方がないな。」と流さずに「はて?」と立ち止まり、自身の率直な思いや疑問をぶつけます。

その「はて?」を聞くと、私はこれまで「変だな」「いやだな」「困ったな」「違うな」ということを、「まあ、そういう世の中だから、うまくやっていくには仕方がないよね」「まあ、そう思うのならそう思ってもらえばいいか。違うけど。」といかに流してきたのかに気づかされます。怒りも困惑も違和感もきれいに「スン」(これもドラマの中の言葉です。)と流す方が面倒でないし、スマートに周りとうまくやっていけたからです。「はて?」と立ち止まって怒りや困惑の気持ちを素直にぶつけ、世の中を変えるエネルギーにしなければいけないこともあったのだろうけれど、笑顔で流し、うまく立ち回ってきたことで今も仕事を続けることができている面が大きいと思います。特に子どもが小さい時にはいちいちこじらせて面倒に巻き込まれる時間ももったいないと思っていたことを思い出します。

朝ドラを見て改めて感じているのは、女性活躍が進まないのは、そんな風に「波風立てずにうまく乗り切る」術を身に付けてしまった私(達)のような存在も大きく影響しているのだということです。そして、今、世の中の潮目が変わり、女性活躍を真剣に取り組むようになってきています。このメルマガも含め、様々な場でダイバーシティや女性活躍に関して発言の場も増えてきました。日本のジェンダーギャップ指数の体たらくは、今、活躍をしている女性の影響も大きいということを肝に銘じて、「はて?」をきちんと言っていかないといけないと思います。

ちなみに、これを書いている5月23日の「虎に翼」では、妊娠をした寅子に対して、これまで寅子の生き方を理解してくれていた弁護士事務所の先輩や大学の恩師が「結婚をしたら、一番大切なことは良い母になること」と悪気なく優しく言います。そして、寅子は妊娠後思うようにならない体調や過労もあり弁護士を辞める決意をしますが、「私はどうすればよかったのか」と悔し涙を流します。妊娠という大変喜ばしい人生の出来事であるのに、自分の生きたい人生を選べない大変つらい場面でした。たまたま食事をご一緒した弁護士(女性)と「今日の“とらつば”もわかるわー!!」と大いに盛り上がりました。

人生にとって何が一番大切かは自分が決めるものであって、その優先順位は時と共に変わります。その日の体調によっても変わります。「今、何を優先したいかを自分で決める」ということ自体に男女の差はありません。

ただ、一方で妊娠、出産は女性にしかできません。そして残念ながら、その間の体調は自分でコントロールできるものでなく、また個人差も非常に大きいものです。本人のやる気とは関係ないところでできないこともあります。そこは周りも気遣い、サポートが必要になるかと思います。そして、その気遣いができるかどうかは、妊娠に限らず何かあった時に相談やSOSを出せるような信頼関係が普段から築けているかどうかによるかと思います。職場での信頼関係があるかどうかは、そこで働く1人1人が持つ力を出すという意味では重要なことです。
心理的安全性の高い職場が高い生産性と成果を出していることは様々な研究でも立証されています。

■ 3.多様性の問題はビジネスの問題

ジェンダーギャップ指数にも見られるように自主的な女性活躍の取組に任せているとちっとも進まないこともあり、とうとう政治主導で、2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書の「従業員の状況」においては「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」といった女性活躍推進法等に基づく人的資本指標の開示が求められるようになりました。開示が行われることで上場会社間で比較可能になったこと、経年もわかるようになったこと等で、企業はプレッシャーを受けることになったと思います。
なお、2023年3月期の有価証券報告書によると、

女性管理職比率については、

・女性管理職比率の全体平均は「9%」、分析対象の企業のうち「女性管理職比率 5%未満」が5割弱を占める

・「2020年代の可能な限り早期に30%以上」という政府目標があるが、「女性管理職比率 30%以上」は分析対象企業の5%程度しか存在しない

また、男女の賃金格差については

・全労働者区分では、「女性の平均年間賃金は、男性の6~7割程度」

・「東証グロース」に上場している成長企業、あるいは従業員数が少ない企業が、男女の賃金の差異が小さい傾向にある(但し、該当企業数の少なさや開示企業の偏りがある可能性はある)

・業種別に男女差の差異に大小があり、情報・通信業は小さく、卸売業、建設業、金融・保険業の差異は大きい。

(出典:人的資本データベースから見える上場企業の現状と情報開示の現在地(速報版)② ~女性管理職比率編~)

上場企業だけにはなりますが、現在地が見える化されました。まだまだ残念な結果ですが、今後の変化に期待したいところです。

なお、外資系の会社で役員をされている方からお聞きしたのですが、外資の会社が女性活躍を含めた「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」に真剣に取り組むのは純粋にビジネスに有利だからだそうです。「戦う敵が分からない時に、同じ武器をもっている人だけのチームと、様々なタイプの武器をもっているチームとどちらで戦いたいかというシンプルな問題」だそうです。本当にその通りですよね。女性活躍は多様性の一つの側面ですが、それさえできない企業は戦う武器が揃っていないということで投資先としても就職先としても選ばれなくなるのは当然の結果になりそうです。多様性の問題はビジネスそのものの問題と捉えると、もう少しスピード感を持って取り組めるのかもしれません。

今後も企業のD&Iの取り組みはサステナビリティ開示や統合報告書などで開示が求められます。企業が戦う武器をどれだけ多様に揃えられているかのメッセージであると捉えて経年変化もよく見ていきたいと思います。

本日も【AW-Biz通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
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