Vol.176 街角経済学vol.2 社会保険(第2の税)について
皆様、こんにちは。ビズサプリの花房です。
先月6月は、1年間で一番株主総会の多い月でした。その中で、ソフトバンクグループの株主総会があり、昨年11月の記者発表から半年ぶりに孫社長が登壇して話題になりました。2年連続の最終赤字でもあり、株主からの株価低迷についての責任についての質問に対しては「2兆、3兆は誤差のうち」、と答えたそうで、相変わらずスケールの大きな方だと思いました。孫社長は、創業当時から社員に対して、「豆腐のように、1丁(兆)、2丁(兆)と数えられる会社にしたい」と言っていたそうで、兆円単位を誤差と言える人はなかなかいないでしょう。
兆円単位の話としては、上場会社の財務数値や時価総額(先週金曜日には、アップルの時価総額が史上初めて、3兆ドル(約430兆円)を突破したそうです)以外だと、巷では国家財政の話くらいではないでしょうか。日本の国家予算、令和5年度はいくらかご存じでしょうか?ご存じの方は普段から政治に通じている方と思われますが、令和5年度の国家予算は114兆円です(なお、国債残高はその10倍近い1,097兆円あります)。このうち、社会保障に回っているのは約37兆円であり、国家予算の約3割に当たります。一方で、国全体で社会保障給付として使われている金額は134兆円あります。
国家予算での社会保障の財源は37兆円であるのに対して、社会保障給付として実際に使われている金額が134兆円だとすると、その差額の100兆円近い金額の財源はどうなっているのか?金額が巨額過ぎることもありますが、そもそも日本人は、給与所得者である限りは年末調整により納税が完結するため、納税の主体である意識が低く、結果、納税者として税の使い道に対する意識も低くなりがちと言われます。そこで今回は、税収の使われ方と社会保険がどのように関連しているかについて、改めて考えてみたいと思います。
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■ 1.日本の社会保障費について
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我々が病気になった時に医者にかかる際の医療費や公的年金、公的介護サービスに使われるのが社会保障給付費ですが、国としての社会給付の総額は、2023年度の予算ベースで134兆円あります。そのうち、国の一般会計予算から賄われるのが37兆円(全体の約3割)で、78兆円(全体の6割)は個人と事業主から徴収される社会保険料の負担になります(残り1割の負担は、地方自治体の一般財源)。
本来的には、社会保障費は個人と事業主が負担する社会保険料で賄われるのが理想ですが、「保険料のみでは負担が現役世代に集中してしまうため、税金や借金も充てています。このうちの多くは借金に頼っており、私たちの子や孫の世代に負担を先送りしている状況」(財務省ホームページより)、となっています。借金に頼っているというのは、社会保障費の国費負担(一般会計予算)37兆円の財源が、税収(予算ベースで国家予算の6割)と国債(同約3割超)に裏付けられているためです。
少子高齢化の流れの中で、社会保障給付は長らく増加傾向にあります。物価上昇もあるので一概に比較はできませんが、約40年前の1980年の社会保障給付は25兆円だったものが、2023年は5倍以上の134兆円となっており、約20年前の2000年の78兆円と比較しても7割以上の増加となっています。また、その構成も、1980年は年金が41%、医療費が43%であったのが、2000年は年金が52%、医療費が34%となり、2023年では年金が45%、医療費が31%、介護10%、子供・子育て7.5%と、総額は全てにおいて増加しているものの、構成割合としては相対的に年金の比率が上がり、医療費の比率は下がっています。
いずれにしても社会保障費は膨らんでいるのですが、税金が一般会計で処理されるのに対して、社会保険料は年金や健康保険、介護保険などそれぞれに分かれて特別会計で処理されるため、全体を把握しにくい構造となっています。
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■ 2.国民にとっての負担は税も社会保険も同じ
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このように、我々の税金の一部(国家予算の歳出の割合で言うと3割)は社会保障給付に使われており、また、個人と事業主を合わせて78兆円の保険料を納付している訳ですから、もっと社会保障に関する政策に興味を持つべきだと思います。極論を言えば、国の財政の収入は税金と社会保険料しかない訳で、現状は毎年の収入より支出が多い状況であり、不足分は国債という借金で賄われ、積み上がった1,100兆円近い借金の返済原資としては、社会保険料は社会保障給付にしか使われない以上、将来の我々の税金で返済するしかない事実を、もっと重く受け止めるべきでしょう。
国の収入が税と社会保険料ですから、財政を正常化するには、支出を減らすか、収入源である税金か社会保険料を増やすしかありません。2022年度の税収は、過去最高の71兆円を超えたとのニュースがありました。物価高で消費税が伸びているようで、所得税を上回り(所得税が22.5兆円に対して消費税は23兆円なのでほぼ同規模)、最大税目となっています。所得税・法人税は過去に引き下げた経緯はあるものの、所得税の増税は富裕層、法人税はそこからの増税は大企業の反発で上げにくく、広く薄く徴収出来る消費税や社会保険料率の引上げが行われてきました。
その結果、財務省が公表している国民負担率(国税・地方税と社会保障負担の合計を国民所得で割ったもの)は、2023年度で46.8%とのことです。これは、1970年の24.3%からほぼ2倍の負担となっていることが分かります。特に、税負担は18.9%から28.1%と約9ポイントの増加に対して、社会保障は5.4%から18.7%と約13ポイント増加し、税以上に負担が増加していることが分かります。今年度は134兆円の社会保障給付は、約20年後の2040年度には190兆円と、さらに4割増えるという試算もあり、そうなると、単純に国民負担も4割増えることになります。
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■ 3.分かり易く透明性のある情報開示を
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政府は先月16日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を閣議決定しました。賃上げや少子化対策、防衛力強化等、重要課題に対する施策について、財源確保については曖昧だという意見もあります。中でも、少子化対策については、「こども未来戦略方針」を掲げ、その加速化のため、「こども家庭庁の下に、こども・子育て支援のための新たな特別会計(いわゆる「こども金庫」)を創設し、既存の(特別会計)事業11を統合しつつ、こども・子育て政策の全体像と費用負担の見える化を進める。」、とあります。
加速化のための予算規模は3兆円程度とのことですが、財源は歳出改革と、不足する場合は特例国債を発行するということで、確実な財源が確保出来ているとは言えない状況です。ましてや、特別会計は既得権益の温床とも揶揄され、財務省のチェックが甘くなりがちで、国の予算と言えば一般会計が話題の中心で、特別会計は国民の関心が低いということもあります。かつて塩川正十郎元財務大臣は、特別会計のことを、「母屋(一般会計)ではおかゆを食ってけちけち節約しているのに、離れ座敷(特別会計)で子供がすき焼きを食っておる」、と評したそうです。
財政支出は削減どころか、毎年増え続けており、最近は防衛費の増額や、落ち着きましたがコロナでの補正予算もあり、コロナ初年度の補正予算では、70兆円を超える財源が充てられています。国の収入の大半が税収と社会保険料であることを鑑みると、新たなこども金庫に限らず、一般会計と特別会計を含めた全体の財政収支をベースに全体の方向性を議論してもらいたいものです。そうしないと、木を見て森を見ずになってしまい、日本の将来の施策を誤った方向に導かないとも限りません。
今回は、普段単位として扱わない「兆」が多く出て来てきたことに関連してですが、最近あるドクターから聞いた話では、平成の時代は「腸活」が流行ったが、令和の時代は「肺活」の時代になる、とのことで、呼吸法を鍛えることにより、自己治癒能力が高まり、運動のパフォーマンスも高められるとのことです。
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