Vol.169 街角経済学vol.1 物価について
皆様、こんにちは。ビズサプリの花房です。皆さんは、牛丼はどこのチェーンに行きますか?
吉野家、松屋、すき家の中だと、私は松屋の牛丼が一番好きなのですが、松屋は先日、牛丼の並盛を20円アップの400円に値上げしました。
数年前は300円前後だったことを考えると、この5年間で3割ほど値上がりしたことになります。
またこの1年ほどは、原油価格の上昇や円安を始めとする原料価格の上昇、物流費の増加、人件費の増加等の理由で、様々な飲食物や消費財と言った、生活に身近なものが総じて値上がりしてきたと感じていると思います。
先週は首都圏の電車の初乗り運賃の一斉値上げ、電気代も2年前と比べると、1.5倍程度に値上がりしているようです。
また、多くの食品に使われる小麦は大半を輸入に頼っていますが、日本では価格安定と需給を調整するため、政府が一括して輸入し、売り渡し価格を半年ごとに変動しており、本来は輸入価格は13%程度上昇しているところ、消費者への影響を考慮して現行の価格から6%弱の値上げになるようです(これによる国の負担は100億円だそうです)。
小麦価格が値上がりすれば、パンやパスタをはじめ、多くの食品に更なる価格転嫁が予想されます。
「物価」とは、個々の物・サービスの値段ではなく、様々な物・サービスの値段を総体的に捉えたもの、と言われます。
この物価が継続的に上昇している状態をインフレと言います。日本は長らくデフレの状態が続いてきましたが、多くの人が物の値上がりを体感している現在において、我々の生活に身近な物価とは何か、そして物価が上がることは、皆さんの生活にとって良いことなのか悪いことなのか、を改めて考えてみたいと思います。
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■ 1.消費者物価指数について
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物価は、「物価が上がった」、「物価が下がった」、と言われるように、その動きを見るのが一般的です。
物価の変動としてよく使われるのは、消費者物価指数と言われるCPI(Consumer Price Index)で、日本では総務省が1946年から毎月公表しています。
これは、基準時点(現在は2020年)時点の消費者にとって重要な品目(現在は582品目)を選んで家計での支出割合に応じた数量を決めてその時の購入費用を100として、その後比較時点で同じ品目を同じ数量購入する場合に費用がいくら必要か、を表す指数です。
物価指標の中でもCPIは、2013 年発表の政府及び日本銀行による共同声明「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」において、物価安定の目標として消費者物価指数の前年比上昇率で2%とすることが掲げられていることや、厚生年金、国民年金といった公的年金の給付水準は、前年の消費者物価指数の変化率を基準の一つとして調整されることが法律で定められていること等から、経済政策上重要な指標となっています。
2022年のCPIは前年比で2.5%上昇しましたが、これは2000年以降で2014年の2.7%(消費税率5%から8%への影響を含む)に次ぐ、2番目に高い上昇率でした。2000年以降、前年比マイナスが10回、プラスが13回と、CPIで見る限りほとんどインフレは起きていないと言えます。
もう少し遡り、1971年以降でCPI上昇率が前年比で最も高かったのは、1974年のオイルショックに端を発した急激なインフレの時で、CPIは23.2%も上昇し、狂乱物価と言われました。なお、バブル期と言われた1980年代後半から1990年代初頭でも、0.1%~3.3%と、マイナスになることはなかったものの、急激な物価上昇は起こっていなかったようです。
2020年の新型コロナウィルス以降停滞していた世界経済は、2021年からは回復が見られ、CPIで見ると、2021年は平均で日本は△0.3%であるのに対して他のG7国はプラスとなっており、中でもアメリカは4.7と高い物価の伸びとなっています。
2022年の平均は日本も2.5%と2000年以降でも高水準であったが、他のG7では低くてもフランスの5.2%で、ドイツ7.9%、アメリカ8.0%、イギリス9.1%と比べると、日本のCPIは先進国の中で低水準です。
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■ 2.値上げを許さない日本人
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日本が他の先進国に比べて、コロナ禍の経済回復期において物価の上昇率が低い原因はどこにあるのでしょうか。
また、昔から貨幣量が増えれば貨幣の価値が下落し、物価が上昇する、金利を下げると借入が増えて経済活動が活発化し物価が上がる、という経済理論があり、2013年からの日銀による異次元緩和により、国債やETFの大量買入れとマイナス金利政策を行ったことで大幅なインフレが期待されましたが、物価安定の目標とした2%の持続的な物価上昇率は達成出来ませんでした。
逆に、1990年代後半の金融機関の破綻や2009年のリーマンショック時において、CPIの下落は△1.4%~△0.3%程度と、大きな下落もしていません。
「物価とは何か」の著者の渡辺努氏はその著書において、『日本は欧米よりも価格据え置きが多い』と、インフレでもデフレでも他国よりも価格の硬直性が高いと語っています。物価が毎年2~3%上昇しているアメリカと異なり、物価が四半世紀上がっていない日本では、値上げをすると消費者は値上げを許せず他店、あるいは他の商品に移ってしまうことになるため、コストが上昇してもそれを販売価格に転嫁出来ず、他社もお互いをけん制して同じ行動に出るという相互作用が働くと言います。
その顕著な例として、焼き鳥の居酒屋チェーンの鳥貴族による、2017年10月の値上げに触れています。
この時鳥貴族は、原材料や人件費上昇を背景に、アベノミクスで物価上昇の政策が掲げられている中、東京オリンピックの開催が決まって地価も家賃も上がっていることから、インフレを予想して値上げに踏み切りました。値上げ幅は、「全品280円」を28年ぶりに「298円」にするという、約6%の値上げだったようですが、結果は、客数の減少を招くことになり、価格改定の年度、その翌年度と立て続けに、既存店の売上高は減少しています。鳥貴族が値上げにより客離れを招いてしまったのは、同業他社が追随して値上げをしなかったことが大きいようです。バブル崩壊後、デフレが続いていると言われてきた日本において、消費者が値上げに対して許容して来なかったのです。
しかし、2022年4月以降はCPIの前年同月比が2.5%を継続して上回っており、今年に入っても1月は4.3%、2月は3.3%と高水準を維持しています。
なお、前年同月比4.3%というのは、1981年12月以来の42年振りの数値で、バブル期においても達成していない水準であり、潮目が変わって来たように思えます。
鳥貴族が値上げした2017年10月と違うのは、様々な業種で、1社だけでなく他社も値上げに追随していることで、他も同じように値上げするのであれば、消費者としては値上げを受け入れざるを得ません。
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■ 3.インフレは「悪」なのか?
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「物価」とは、様々な物・サービスの値段を総体的に捉えたものとお伝えした通り、商品やサービス1つ1つの値上げの物価への影響はほとんどありませんが、皆さんが最近様々な物が値上げしていると感じているように、経済全体として値段が上がっている状況が物価上昇、すなわちインフレです。物の値段が上がると同じ収入では購入できる量が減るため、消費者は値上げを嫌がりますが、経済にとってインフレは悪いことなのでしょうか?
先述の渡辺努氏の著書で、1989年から1996年にかけてのスーダンでの高インフレの事例が紹介されていました。
その時のインフレ率は高い時で年間165%に達したそうですが、スーダンからの留学生の話として、『人々の生活は崩壊することなく、むしろいつもとさほど変わらぬ日常が営まれていた』そうです。なぜかというと、どの商品の値段も賃金もほぼ同じ率で同じスピードで上昇したので、インフレを加味しても各企業の売上は実質的には変わらず、賃金も実質的に変わっていないので、購買力が維持されていた、ということのようです。
このことが示唆するのは、インフレであっても、人々の給与がそれに応じて増えているのであれば、つまり、実質的な購買力が変わらなければ、問題はないことになります。
昨年からの物価上昇を受けて、すでに今年の春闘では大手企業を中心に、労組からの要求に対して満額回答をする企業が相次いでいるようで、数十年ぶりのベースアップに踏み切った企業もあると言います。
製造業の主要企業の満額回答は全体の8割を超え、今後他の業種や中小企業にも賃上げが波及するかどうかで、景気への影響度合いが変わって来そうです。
では、購買力が変わらなければ経済も安定するとしたら、物価も上がらず賃金も上がらない世界でいいのではないかと言えますが、そのような状況が働く皆さんにとって魅力的でしょうか?
仕事を通じて自己が成長しても給与が上がらないとすると、モチベーションはきっと下がってしまうでしょう。
成長した分だけ給与が上がる世の中の方が、働きがいがあるのではないでしょうか。そして給与が増えて購買力が増える分だけ物価も上がり、企業の業績も上向くような好循環が景気の良さも感じられると思います。
日本をはじめとする先進国の多くでは、インフレ目標を置いています。その水準は2%程度であり、日本もそれに倣って日銀は、2013年に日本のインフレ目標をCPIの対前年比で2%を設定しています。
インフレがどの程度かは別にして、今回のインフレが景気を良くする適度なインフレとして定着して欲しいと思います。
景気の「気」は人々のマインドです。政府や企業が若い人に期待を持たせられるような政策や行動をすることこそ重要なのかもしれません。
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