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内部統制

Vol.160 改正公益通報者保護法と内部通報規程の改訂

ビズサプリの久保です。

早いもので、もうヒグラシが鳴く季節になりました。自宅近くの田んぼでは稲刈りが始まっています。
今回は、改正された公益通報者保護法についてお話ししたいと思います。
不正発見経路のナンバーワンが内部からの通報です。内部通報制度は、社内不正早期発見に欠かせない重要な仕組みです。内部通報規程改訂に当たっての留意点も解説したいと思います。

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▼改正前の公益通報者保護法

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公益通報者保護法は、2006年から施行されている法律で、一定の要件を充たす「公益通報」を行った従業員等に対する解雇などの不利益取扱いを禁止する法律です。その名称のとおり、公益通報者を保護する法律です。
一方、企業から見たら、内部通報制度は、不正やその火種を早期発見して対処するという、自浄作用を発揮する仕組みです。
改正前の公益通報者保護法では、従業員等が会社に対して内部通報後20日以内に調査を行う旨を通報者に通知しない場合、一定の条件がありますが、行政機関やマスコミなどの外部に告発した場合にも、企業が通報者に対する不利益な取り扱いを行ってはいけないとされていました。
そのために、企業は内部通報窓口を設置し、通報内容の調査等を行う体制の整備が必要となっていました。改正前の公益通報者保護法は、企業の体制整備を促す効果を持っていましたが、体制整備を求める法律ではありませんでした。

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▼改正公益通報者保護法

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改正公益通報者保護法(以下「改正法」)は、常時雇用する労働者(以下「常勤社員等」)300人超の事業者に対して、(1)内部通報の体制の整備と(2)公益通報対応業務従事者の指定を義務付けました。これに加えて、(2)の従事者に対して(3)法的な守秘義務が課され、その違反には刑事罰(30万円以下の罰金)が定められました。
常勤社員等が300人以下の会社では、(1)(2)が努力義務です。ただし、(2)の従事者を指定した場合、その指定された従事者は法律上の守秘義務を負うことになり、(3)の罰則の対象となります。
改正法違反があった場合には、消費者庁長官におる行政措置(助言指導、勧告)の対象となります。事業者が勧告に従わない場合には会社名等が公表されます。努力義務の会社は、公表の対象にはなりませんが、助言指導、勧告は行われます。

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▼内部通報規程の改訂

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常勤社員等が300人超の会社は、自社の内部通報規程を改訂して改正法に対応する必要があります。改正法は、今年の6月1日から施行されていますので、未対応の会社は急ぐ必要があります。なお、上場会社の場合は、常勤社員等が300人以下であっても、300人超の会社と同等の内部通報規程に改訂すべきであると思います。
規程の改訂に当たっては、消費者庁のウェブサイトに掲載されている「内部通報に関する内部規程例」(以下「規程例」)を参考にするのがよいと思います。
会社は、規程の改訂に当たって、この規程例の組織名等を自社に合わせれば、大体の改訂ができます。ただし、次の諸点については、規程例を自社に合わせて修正するだけでは、対応できないので留意が必要です。

・規程例の脚注に記載されているように、公益通報者保護法では取引先の労働者及び役員からの通報も公益通報に該当するとしていますが、規程例には反映されていません。
・グループ企業では、親会社の通報窓口を利用するなどの体制を採用することが多いですが、規程例はこれを前提にしていません。

上記のうち、取引先からの通報については、これまで内部通報規程に盛り込んでいなかった会社も多いとか思います。今回の改訂に当たって、この点を考慮するようにお願いします。そういう意味では、規程例の本文に記載しておいてほしかったと思います。
内部通報規程の改訂方法として、改正法の内容を既存の内部通報規に反映する方法もあります。この場合、規程例をよく読んでその記載内容をできる限り反映するようにしてください。
なお、役員に関係する通報については、監査役等とその後の方針について協議するとする規定(規程例第4条)は、消費者庁による指針の解説で求められているもので、役員不正への対応のために、ぜひ盛り込むようにしてほしいと思います。

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▼遵守事項版と推奨事項版の違い

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規程例には、「遵守事項版」と「遵守事項+推奨事項版」があります。
「遵守事項+推奨事項版」は、消費者庁が公表した指針解説の「指針を遵守するための考え方や具体例」のみならず「その他に推奨される考え方や具体例」についてもできる限り反映することに努めたものとされています。
「遵守事項+推奨事項版」に追加されている事項について、特筆される点は次のとおりです。

(1) 役員に関係する通報について監査役窓口がある(第4条1及び3)
(2) 職制上のレポーティングラインが、窓口の規定に記載されている(第4条7)
(3) 通報の範囲外共有について別紙細則が用意されている(第6条1)
(4) 調査について詳しく記載されている(第7条)
(5) 調査への協力義務が記載されている(第10条、第18条2)
(6) 通報者や調査協力者への処分等の減免について記載されている(第21条)
(7) 通報者や調査協力者に対する積極的評価について記載されている(第23条)

基本的に「遵守事項+推奨事項版」を利用することが望ましいのですが、上記のうち(6)と(7)は、 通報者や調査協力者が不正行為を行っていたとしてもその処分を減免し、また通報行為や調査協力に対して人事上プラスの評価を行うということです。これらを自社で採用するかどうかについては、慎重に検討する必要があります。
(1)の監査役窓口を設置するかどうかについては、監査役等と協議しておく必要があります。上場会社はほとんどの会社で常勤の監査役等が選任されていますが、上場会社以外では監査役が非常勤のことも多いです。その場合は監査役窓口が機能するかどうか検討してください。
(2)の職制上のレポーティングラインについては、遵守事項版にも記載しておいた方がよかったのではないかと思います。遵守事項版は、職制上のレポーティングラインにおける通報者の保護については規定されています(第15条)が、通報窓口を規定する第4条には含まれていません。

以上、改正公益通報者保護法の概略と規程改訂の留意事項をご解説しましたが、規程の改訂に当たっては、法律専門家に相談することが必要です。
ビズサプリでは改正公益通報者保護法に詳しい弁護士のご紹介や、内部通報規程の策定/改訂及びその運営についてのご相談をお受けしています。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
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不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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