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Vol.152 東証再編の狙いと経過

ビズサプリの三木です。

2022年4月より東京証券取引所(東証)の市場が再編されました。
今回は、その狙いと移行状況、上場審査への影響についてご紹介します。 なお、本メルマガ内では理解のしやすさのために、市場再編の準備段階での上場基準の変更も含めて市場再編後の上場基準として取り扱っているところがあります。ご了承ください。

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■ 1.再編の狙いと経過

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もともと東証の市場は、東証一部、東証二部、JASDAQ(スタンダード、グロース)、マザーズの5つに分かれていました。
これが今回の再編で、プライム、スタンダード、 グロースの3区分に変更されています。

この再編の背景は、旧区分だと市場の特徴が分かりにくい(特に新興企業向け市場)こと、及び東証一部が膨らみすぎてしまったことです。 そもそもJASDAQは東証とは別の母体(JASDAQ証券取引所)が運営し、東証が運営していたマザースとは競合する位置づけでした。大阪証券取引所(大証) がJASDAQを子会社化、さらに東証と大証が経営統合したことで、東証傘下に新興市場が複数存在する状態となってしまっていました。(どうでも良い雑学ですが、JASDAQは米国NASDAQの日本版という命名なのに対し、マザーズは「様々な新興企業を受けとめるお母さん」から命名された…わけではありません。Market of the high-growth and emerging stocksから語呂よく文字を拾って命名されたものです。)

また、市場再編前の会社数は、東証一部が2,177社、東証二部が475社、JASDAQスタンダードが652社、JASDAQグロースが34社、マザースが432社となっており、 上場企業の過半数が東証一部という状況でした。東証一部には大企業が多く時価総額でみるとさらに偏っていることになります。この膨らみすぎた東証 一部の整理も大きな課題でした。
市場の再編により、プライムに1,839社、スタンダードに1,466社、グロースに465社が移行しました。内訳を見てみると、東証一部に上場していた企業の 84%がプライムに移行、東証二部及びJASDAQスタンダードに上場していた企業は全てスタンダードに移行、マザーズ及びJASDAQグロースに上場していた企業はスタンダードに移行した1社を除き全てグロースに移行しています。ややプライムの社数が多いものの、ある程度順当に再編がなされたといって良いかと思います。

なお移行に当たっては経過措置が設けられています。選択先の市場区分の上場維持基準を100%満たしていなくても、一定期間内に適合する計画書を開示することで猶予期間は緩和された上場維持基準が適合され、希望の市場に移行することが可能とされました。東証一部からプライムに移行した企業のうち16%にあたる295社がこの計画書を開示しており、やはりトップ市場に上場していたいという思いが見て取れます。

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■ 2.上場基準の変更

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市場再編に伴い上場基準についても見直しが行われました。 それぞれの市場の細かな基準についてはここで説明しませんが、概要と注目すべき点を解説します。

プライムについては、東証一部では10億円以上だった純資産の必要額が50億円になるなど定量基準が大幅に厳しくなりました。膨らみすぎた東証一部の整理のためには当然と言えば当然の対応です。
また、高度なガバナンス水準が求められ、コーポレートガバナンス・コードについては一段高い水準の内容を含む全原則 (基本原則、原則及び補充原則全てを含むものを「全原則」と呼びます)が適用となります。

スタンダードについては、旧東証二部より条件が緩和され、JASDAQスタンダードに近い基準となりました。例えば流通株式比率はもともと東証二部では30%だっ たのが25%となっています。このため東証二部及びJASDAQスタンダードに上場していた企業は全てスタンダードに移行するという結果となっています。
また、上場企業としての基本的なガバナンス水準が求められ、コーポレートガバナンス・コードについては全原則が適用となります。

グロースについては、マザーズに比べてさらに緩和された基準となりました。 また、成長段階を踏まえたガバナンス水準が求められ、コーポレートガバナンス・コードについては基本原則のみの適用となります。

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■ 3.上場審査への影響

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市場再編後の上場審査はまだ事例が少ないものの、新規上場を目指す企業にとっては、グロースの定量的な上場基準は取り組みやすいものとなりました。一方、 成長性を重視する方針も明確となっており、グロース市場に新規上場する際には「事業計画及び成長可能性に関する事項」を開示し、かつ1年に1回以上は進捗状況を開示することが求められます。

このため、グロースへの上場のためには事業計画や市場分析、競争力の源泉などをしっかり分析・開示しなければなりません。「高い成長可能性を有していると の判断根拠に関する主幹事証券会社の見解が提出されていること」が上場基準の1つとなっていますから、証券会社と共に成長性を描いていく必要性がさらに 高まったと言えます。

東証一部に比べて形式基準のハードルが上がったプライムでは、ガバナンスについても高度化され、英文での開示、気候変動による影響の開示、独立社外取締役の増員などが求められています。 この中で唯一、緩和方向にあるのが赤字の取り扱いで、中長期的な企業価値の向上のための投資によって一時的に赤字を計上している場合は赤字が許容されます。 日本全体が成長戦略を描き切れないなか、継続的な黒字を求めることが成長を阻害しないようにという配慮と言えます。

「攻めのガバナンス」という言葉がありますが、どういう理由で赤字になっているのか、それは適切に意思決定されたものなのか、リスクは受容可能な範囲にコントロールされているのか、それをどうモニターしているのか等のガバナンスを整えた上でリスクテイクした結果であれば許容されうるということになります。

総じての印象として、3市場は単に大中小で分けたのではなく、各市場のコンセプトを以前より重視しているように感じます。大きいからプライム、小さいからグロースではなく、グロースに当てはまる成長性を持っているのか、プライムで必要なガバナンスに耐えうるのか、必要なのかなど、定性的な観点でのフィット感も冷静に考えて市場選択する必要が高まったと言えるでしょう。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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