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Vol.141 岸田新政権発足 (2021年10月6日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.141━2021.10.06━━

【ビズサプリ通信】

▼ 岸田新政権発足

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ビズサプリグループの花房です。

9月19日時点で、日本のワクチン接種率(54.8%)が米国(54.7%)を抜いたとの記事がありました。また早ければ飲み薬としての治療薬(米国メルク,ファイザー)も年内中に実用化の目途が立つと期待されています。10月1日には緊急事態宣言、まん延防止等重点措置がすべて解除となり、制限が緩和されました。まだ完全な収束は期待しない方がいいですが、徐々に新型コロナウィルスがインフルエンザ並みの感染症としてこれまでほどの脅威ではなくなるレベルの期待は見えてきた気がします。

9月29日には自民党の総裁選が行われ、事前の世論調査で優勢だった河野氏ではなく、岸田氏が新総裁に選ばれる結果となりました。そして10月4日に岸田氏は第100代の首相となり、新政権が発足しました。日本の首相は国会での議決により選ばれるので国民が直接選ぶ訳ではないですが、与党のトップ (自民党では「総裁」)が通常選ばれるため、今回の自民党の総裁選は我々国民の関心が高かった訳ですが、世論が投票結果と乖離するのは、自民党の総裁選の仕組みそのものにも理由がありそうです。

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■ 1.自民党総裁選の仕組み

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自民党総裁選は、国会議員1人1票の「国会議員票」382票と、全国の党員・党友約110万人による投票をドント方式(各候補者の得票数を1、2、3、4、という整数で順に割っていき、得られた数の大きい順に、各都道府県の持ち票を1票ずつ配分していく方式)で配分した「党員票」382票の計764票で争います。今回は4人の候補者がいましたが、その内過半数獲得すれば当選ですが、この 1回目の投票で一位は256票獲得した岸田氏、2位が僅差で255票獲得した河野氏で、いずれも過半数の383票以下であるため、両氏による決選投票となりました。

決選投票は、国会議員票は1回目と同じ382票で変わりませんが、1回目の党員票は決選投票では各都道府県連に1票ずつ割り振られた47票となり、計429票で争われます。各都道府県で得票数が多い候補者がその都道府県連での1票を獲得する形です。結果、170票の河野氏に対して、岸田氏が257票を獲得し、新総裁に選ばれました。

不思議なのは、1回目の投票で382票あった党員票が、決選投票では47票に集約され、党員の影響度が縮小されてしまうことです。つまり決選投票では国会議員の意志が強く反映されます。投票結果の内訳をみると、岸田氏の1回目の得票数256票の内訳は、国会議員票146票と党員票110票に対して、河野氏は1回目の得票数255票は国会議員票の86票と党員票169票であったことから、岸田氏が国会議員の支持を多く取り付けていたのに対して、河野氏は地方からの信任が厚かったと言えます。

もし、決選投票での国会議員票と党員票の比率が1回目と同じ1対1の割合であったなら、結果は変わっていたかもしれません。国会議員票は派閥の影響を受けざる得ないこと、党員票は幅広く地方の意思を集めたものであるから国民の声を反映したものと言えなくもないので、自民党総裁選の仕組として、決選投票になると世論の影響を受けにくいものとなっていると言えます。

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■ 2.価値観の多様化と民主主義の困難性

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ドイツの連邦議会選挙は、キリスト教民主・社会同盟、社民党、環境政党の緑の党による三つどもえの争いとなっていましたが、社民党が25.7%と24.1%のキリスト教民主・社会同盟をかわして、第1党になりました。しかしながら、過半数を取るためには、第3党の緑の党、及び第4党の自由民主党と連立政権を樹立しなければなりませんが、3党の間には結構政策上の溝がある上、第2党のキリスト教民主・社会同盟も緑の党、FDPとの連立を狙っているようです。

政党は共通の政治的主義・主張を持つ者によって組織される集団ですから、工業化が進み、経済が発展して物の豊かさが満たされてくると、人々の価値観は多様化していき、次第に共通の主義主張を持つグループが分散し、政党が小規模化、あるいは1つの政党でも派閥間の考え方が乖離することは必然と言えるかもしれません。民主主義では多数決が基本となるため、議決権の過半数を取るためには、連立を組んで、重要な主義主張は共通化することになりますが、意見が割れる論点については改革がし辛く、迅速な意思決定を阻害しかねません。

価値観の多様化とともに、皆のベクトルを合わせることが徐々に難しくなり、民主主義による意思決定が困難になるのではないかと危惧します。また、衆議院議員選挙において、昭和42年は全体で約74%と有権者全体の3/4あった投票率も、平成29年では約54%と、およそ半分近くまで低下して来ているのは、政治に求めるものが満たされて来たからなのか、政治に期待できないという不信感からか、国民が決定権を持つにも関わらずそれを半数近くの有権者が放棄している現状は、民主主義の前提が弱くなっているのではないかと感じざるを得ません。

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■ 3.経営理念の重要性

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価値観の多様化は政治だけでなく、昨今の企業経営にも多大に影響します。戦後間もない時期は物がなく、人々は物質的な豊かさを求めていたので、生存欲求を満たすことが先決であり、企業で働くのは給与を稼ぐことが一番の目的でした。そこから高度成長期を経て物が満たされてくると、人々の価値観は徐々に多様化して行きます。金銭的な欲求だけでなく、同僚や上司部下といった組織内での関係性を求めたり、自己のスキルアップや成長を求めるようになります。また最近では、若い人を中心に、社会的課題を解決する企業が採用において人気だったりと、社会に役立ちたいという公欲を重視するために企業で働く価値観もあります。

このように働くことの価値観も多様化している状況において、企業経営者は、従業員を如何に同じ方向を向かせて動機付けするのかということが難しくなって来ていると言えます。そのような時こそ、経営理念をきちんとメッセージとして発し、行動規範や組織風土を通じて、共通の価値観の下に考え方や価値観が統一されると、組織としての力を高めることが出来ます。経営の神様と言われた松下幸之助氏は、経営が成功する絶対条件として、経営理念が確立できれば、50%は成功したようなものだと言ったそうです。それだけ、経営理念の重要性を認識されていたと言えます。なお、残りの30%は必要条件として、従業員一人一人が能力を最大限に発揮できる環境づくり、残り20%は付帯条件として、経営戦略と戦術であり、これも出来れば、経営は100%成功する、と言うことだそうです。

なお、私が企業理念として秀逸だと思うメッセージは、サントリーの『水と生きる』という言葉です。これは、サントリーが製造する飲料製品は『水』がベースであり、貴重な共有資源である水を守り、水とともに生きるというメッセージだけでなく、サントリーが提供する製品やサービスを通じて、人々の豊かな生活に貢献する意味で社会にとっての水となること、また全ての社員が水のように柔軟に挑戦し、新たな価値を創造する企業であることを目指す思いが込められています。

経営理念は創業者の思いが詰まったものですが、企業によっては長い年月の間に忘れられている、あるいはきちんと従業員や取引先、顧客に届いていない場合があります。またその理念の意味する当初の想いは、世の中の変遷により解釈も変わり得るものだと思います。皆さんも、自社の経営理念に興味を持つと、仕事についての意欲も高まるかもしれません。また経営者の方は、一度自社の経営理念について再考してみるのもいいでしょう。

ビズサプリグループでは、会計のみならず、企業の様々な経営課題についても幅広いコンサルティングを実施していますので、ご興味がある方はお気軽にお声がけ下さい。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、有難うございました。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
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泉 光一郎

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