Vol.132 上場準備会社が常勤監査役等選任の前に理解しておくこと (2021年4月7日)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.132━2021.4.7 ━
【ビズサプリ通信】
▼ 上場準備会社が常勤監査役等選任の前に理解しておくこと
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビズサプリの久保です。
スタートアップ企業が、VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けるようになると、取締役会を設置していない会社ではその設置が求められます。そうなると監査役の選任が必要になりますが、この段階では、名ばかりの監査役でも問題にされないことが多いと思います。
事業が拡大し、上場準備に入る会社は、監査役会または監査等委員会を設置することになります。そうなると、監査役等(監査役または監査等委員)は3名以上必要となり、そのうち1名は常勤者にすることが求められます。今回は、上場準備会社が監査役等を選任するに当たって、理解しておくことを解説したいと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 上場準備会社の常勤監査役の仕事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そもそも常勤監査役等はどんな仕事をするのでしょうか。会社法上、監査役等は、取締役の職務の執行を監査するとされています。この監査は業務監査と会計監査に分けることができます。この点は、監査役会でも監査等委員会でもほぼ同じです。上場準備会社は、上場会社並みの運営をするので、常勤監査役等の仕事は上場会社と同じです。しかし、上場準備会社の状況は、次の3点で上場会社と大きく異なります。その結果、常勤監査役等に求められるスキルや仕事の内容が違ってくることになります。
・企業規模が小さい
・内部統制が整備・運用されていない
・先輩監査役と補助者がいない
(1) 企業規模が小さい
東証一部に直接上場する会社は別にして、マザーズ上場を狙う会社が上場準備を始める場合、その売上高は5億円から15億円ぐらいと思います。業種によりますが、社員は20名から80名ぐらいが多いのではないでしょうか。これぐらいの会社規模の場合、社内外で何が起こっているかは比較的容易に理解できます。高度な技術やビジネスモデルを採用する会社であっても、能力・経験のある常勤監査役であれば、会社の状況を理解するのにそれほど時間がかからないと思います。 売上高が数千億円以上、子会社50社レベルの会社でも、監査役は3名から5名程度ですので、マンパワーとしては1名の常勤監査役で十分と言えます。
(2) 内部統制が整備・運用されていない
上場準備会社では、内部統制すなわち会社の管理体制が整備されていないのが普通です。内部統制の構築と改善は、上場準備中に行う重要な作業になります。これは常勤監査役による監査上大きな問題になります。常勤監査役の業務監査には不正やコンプライアンス違反を指摘するという仕事が含まれます。内部統制が整備・運用されていないということは、不正やコンプライアンス違反が発生するリスクがあるということです。 このため監査役等は、内部統制の不備を指摘しつつ、不正やコンプライアンス違反の発見にも努める必要があります。
内部統制上の問題を抱えたまま上場申請することはできませんので、上場前に問題を解決しておくことが必要となります。常勤監査役は、内部統制の改善状況を監視することも行います。 上場準備中に、重大な不正やコンプライアンス違反が発覚した結果、上場できなかった事例があります。このようなことにならないように、内部統制の不備を早急に改善しておくことが必要となります。
このような観点から、監査役会等が内部監査部門を直轄し、監査役等が内部監査の指揮命令を行うのが良いのではないかとも考えられます。しかしこのような体制を採用する会社は、東証一部上場会社の一部にはありますが、新規上場会社のなかではほとんどありません。これは、内部監査の役割は、社長の指揮命令の下で内部統制の不備がないか チェックすることであると考えられているからです。社長を頂点とする会社組織におけるPDCAサイクルのCを担うのが、内部監査の位置づけと考えられているのです。
監査役等から見ると業務監査の観点では内部監査部門が内部監査を実施し、会計監査の観点では監査法人が会計監査を実施します。監査役等はその両者と連携して監査を実施します。このように3つの監査が連携して実施されるため、これらを総称して三様監査と呼ばれます。
(3) 先輩監査役と補助者がいない
最後に、先輩監査役と補助者がいないというのも上場準備会社での典型的な状況です。大規模な上場会社の場合、常勤監査役等が2名以上置かれており、先輩の常勤監査役等から業務を学ぶことができます。しかし、上場準備会社では1名が普通であり、前任者がいないので、引継ぎを受けることもできません。また、大規模な上場会社では、監査役室等が設置されており、そこには複数名の補助者が在籍しています。しかし、上場準備会社で監査役等の補助者を置いている会社はほとんどないと思います。このため、常勤監査役等は1人で監査に当たる必要があります。 先輩や補助者の助けを借りることができないことから、常勤監査役等は実務経験があり、基本的な素養をすでに身に付け、さらに最新の法令を自ら学ぶ能力を持っている必要があります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 上場準備会社の常勤監査役等は社外で探す
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
このように上場準備会社における常勤監査役の仕事が分かると、どのような人が適しているかが分かります。常勤監査役等には、監査役会等のリーダーとして、業務監査と会計監査を実施する能力と経験が求められます。先輩監査役や補助者がいないことから、常勤監査役に就任してから業務に習熟することはできません。社外の監査役等は、監査役会または監査委員会の会議に参加しますが、実際の監査業務には従事しないのが普通です。このため、社外監査役等に監査役等による監査業務を手伝ってもらうことはできません。
一般に、起業当初に選任した監査役が、そのまま常勤監査役等に就任できな いことが多く、また社内で常勤監査役の適任者を見つけることも難しいと思います。実際のところ、2020年に新規上場した93社中、58社(62%)の会社が常勤監査役等として社外の人を選任しています。
形式的な監査では上場審査は通りません。また、監査役等による監査が不十分であることが一因となって、上場審査が通らなかった会社がありました。監査役等は、会社法に従った監査役等監査というだけでなく、実質的に有効な業務監査と会計監査を実施することが必要となります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 週3日で常勤になる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここで「常勤」とはどういうことかについてお話しておきましょう。
土日以外毎日勤務すれば常勤であることは間違いありません。しかし、前述のとおり、上場準備会社の規模は小さいため、常勤監査役の仕事がそれほど多くあるわけではありません。
常勤監査役の勤務日数はどこまで減らせるでしょうか。一般に、週3日勤務 以上であれば常勤と考えられています。週5日でなくても、週3日で常勤監査役の仕事ができるのであれば、その分監査役等への役員報酬の節約になります。あまりお勧めはしませんが、常勤監査役に上場申請書類の作成や社内規程の策定を依頼する会社もあります。この場合も、常勤監査役業務を週3日以上にしなければなりません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 上場準備会社の常勤監査役等の適任者
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
財務、経理、法律の経験と知識があれば、誰でも常勤監査役ができる訳ではありません。監査役経験者の中には、上場会社の子会社の監査役経験者がいますが、上場会社の子会社は、上場準備会社と状況が大きく異なりますので、この経験は十分とは言えません。このため、上場準備会社で常勤監査役等を経験した人が、有力な候補者となります。
大規模な上場会社や外資系企業の内部監査部門で内部監査を実施してきた人や、監査役室で常勤監査役の補助者をしていた人は、常勤監査役としての経験はないものの、常勤監査役と連携して仕事をしてきた経験が活かせると思います。ただし、この場合は小規模でかつ内部統制の問題が多い会社での対応ができることが条件となります。
監査法人に所属して会計監査を実施していた公認会計士も有力候補となります。公認会計士は、会計監査や内部統制監査を実施した経験があり、会計監査に関わる会社法や金商法に精通しています。上場準備会社の会計監査を経験した人もいます。ただし、独立開業している公認会計士の中で、常勤監査役等を希望する人は多くないと思います。公認会計士の場合は報酬を高めに設定することも必要となります。
本日もビズサプリ通信をお読みいただきありがとうございます。 ビズサプリでは、常勤・非常勤監査役のご紹介を行っております。 お気軽にご相談いただきますようお願いいたします。