メールマガジン

メールマガジン

ガバナンス

Vol.105 消費税が10%になりました。(2019年11月20日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.105━ 2019.11.20━━

【ビズサプリ通信】

▼ 消費税が10%になりました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

皆様、こんにちは。ビズサプリの花房です。

消費税が8%から10%に変わり、1ヶ月半が立ち、景気後退を懸念する声がある一方で、その対応策として5%還元や10%還元が叫ばれ、売上を維持拡大しようと、小売り・外食業界の方はしばらくは大変な対応が続くと想定されます。キャッシュレス決済のポイント還元については政府の支援策で予算が付いていますが、対象となる決済に対する還元は1日当たり10億円分に上っているようで、予算が来年3月末までに足りなくなる可能性も言われています。また、キャッシュレス端末が間に合わなかったとか、システム対応で消費税がゼロになってしまった等、トラブルも少なからずあるようで、消費マインドの回復やキャッシュレス決済の普及等、消費税10%が当たり前のものとして定着するまでには少し時間がかかりますね。

元々消費税というのは、今後少子高齢化で現役世代の減少とともに減るであろう所得税から、消費全般に薄く広く課税する間接税とすることで税収を維持し、少子高齢化で必要となるであろう社会保障費の財源を確保する目的で導入されています。今では、消費税は社会保障の充実のため、年金・医療・介護・少子 化対策に用いるということで、目的税化されています。

世間一般には、今回の消費増税に関して、食料品については軽減税率が実施されたことで、みりんとみりん風調味料の違いや、栄養ドリンクでも医薬品等と清涼飲料水になるもの、テイクアウトと店内飲食で適用される税率が違うと言った、軽減税率の範囲に注意が行きがちですが、そもそもの目的である消費税が実際どのように使われているのか、同じ社会保障費の財源でも、健康保険料や年金保険料も近年1人当たりの負担は増え続けており、「隠れ増税」と言われていることにも目を向け、社会保障費の財源だけでなく、その使途にも注意を払って行かなければならないと感じるところです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 1.株主第一主義の見直し

----------------------------------------------------------------------

先日の日経新聞で、『米主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは19日、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した。株価上昇や配当増加など投資家の利益を優先してきた米国型の資本主義にとって大きな転換点となる。米国では所得格差の拡大で、大企業にも批判の矛先が向かっており、行動原則の修正を迫られた形だ。』(2019/8/20 日本経済新聞電子版)、との記事が載っていました。

企業は様々なステークホルダーと利害関係を持っている中で、アメリカでは企業の所有者である株主が一番大事と考えられ、企業は株主価値を最大化することを最優先しなければならない風潮があり、日本でもコーポレートガバナンスコードの導入や、ROE重視の経営への転換が行われてきました。しかし、行き 過ぎた株主重視の姿勢は、株価が上昇してもその恩恵を受けるのは大量の株式を保有する富裕層、機関投資家、自社株式やストック・オプションを持つ経営層であり、上記宣言は、投資家とそれ以外の人達との格差が許容しうる水準を超えたことの表れと言えそうです。

一方で日本の経営は、旧来は、利益三分法(会社の利益を従業員賞与、株主配当、社内留保で分ける考え方)や、日本的経営(終身雇用、年功序列、組合)と言われる特色を持ち、従業員重視の傾向は強く、また近江商人の三方良しに代表されるように、取引先や社会に対する配慮が行われ、現在でいう、CSRやESGで言われていることを実践している会社も多くありました。

「企業は社会の公器である」とは、かの松下幸之助氏も言った言葉と言われていますが、本来は全てのステークホルダーに配慮すべきところ、アメリカは株主重視に振り子が行き過ぎていたところを是正しようとし、一方で日本は株主を軽視していたところ、もう少し株主重視の姿勢に戻してきているとうように、各ステークホルダーへの力の入れ方、バランスを見直しているのだと言えます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 2.How Dare You!

----------------------------------------------------------------------

格差問題というのは古くて新しい問題であり、時代により様々な格差が話題に上ります。基本的には資産格差や賃金格差と言った金銭的な格差ですが、最近は教育の差が将来の貧富の差を決める原因となるが、そもそも低所得層の子供はちゃんとした教育が受けられないと言った教育格差や、選挙が近くなると「1票の格差」が取りざたされ、最近は世代間格差が話題となっています。

上記ビジネス・ラウンドテーブルでの話題で思い出すのは、数年前にフランスの経済学者であるトマ・ピケティ氏が『21世紀の資本(Le Capital)』において、資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも大きい状況が続く現在において、投資家は益々豊かになり、一般的な経済成長率しか享受できない労働者層との経済格差が拡大する構造的な問題があるとの主張です。そして、行き過ぎた富の偏在を解消するためには、グローバルに資産課税をすべきだとのことでした。

労働コストを削減して利益をねん出し、投資家の利益を増やすことはまさに、r>gを推進するものであり、本来は格差是正は政治が行うべきことですが、民間の自浄作用として、経営トップ層が格差是正を決断したということだと思い ます。

一方で社会保障費の増大は、本来受益者負担であるはずが、高齢化と医療費の増大により、シニア世代は過去に負担した以上の給付を、現役世代の負担によって賄っており、それが世代間で見た場合、負担と給付の関係が、シニア世代と現役世代で不公平となっている状況を、世代間格差と呼んでいます。

すなわち、シニア世代が得をし、現役世代が損をしているという構図ですが、広い意味でいうと、環境問題についても、かつて資源を制限なく採掘し、工業製品を作り、環境を汚染した世代がある一方で、資源がだんだんと枯渇し、汚染された環境で生活し、今後環境を再生しなければならない現役世代との間では、世代間格差が生じていると言えます。

先日、国連の気候サミットで、16歳の環境活動家の少女、グレタ・トゥンベリさんが、"How Dare You!"「あなたたちが話しているのは、お金のことと経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。よくもそんなことが言えますね !」と発言したことが話題となりました。まだ社会に出ていない若者が、今置かれた地球温暖化が進んだ状況に、不遇を嘆くのではなく、そのような状況を作ってきた世代に対して本当に怒っている姿が、各国首脳の行動を本当に変えてくれればいいのですが。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 3.改めて税について考える

----------------------------------------------------------------------

消費税が最初に検討されたのは1979年の大平内閣まで遡り、財政再建のため「一般消費税」導入を閣議決定したものの、世論の反対を受け、断念しました。その後、消費税が実際に導入されたのは竹下内閣時代の1989年(平成元年)でしたが、そのあおりで竹下内閣は総辞職しました。その後の増税の際も、常に世論からは逆風を受け続けてきたという歴史があります。

消費税だけでなく、そもそも日本人は、税に対して、義務ではあるから仕方なく納税している、本当は払いたくない、と考える方が大半ではないでしょうか?なぜ、税が必要なのか。これは、国や地方自治体が、共用資産である道路や橋と言った公的インフラや、年金・医療・福祉の他、国民の安全を守るための教育や警察、消防、防衛と言った、公共サービスを提供するためには、財源が必要であり、その財源のベースとなるのが税金である、ということは、高校までの教育で一度は耳にしたことがあるかと思います。

その意味で、程度の差こそあれ、誰もが税金の使途について恩恵を受けているはずなのですが、皆さんが税金を払うことに抵抗があるのはなぜなのでしょうか?若干古い資料ではありますが、2017年に、東京都税制調査会が外部委託した調査レポート(租税に対する国民意識と税への理解を深める取組に関する国際比較調査・分析等委託 最終報告書)によると、の国民所得に占める租税負担の割合は、他の先進諸国(ニュージーランドの46.2%、フランスの40.7%、ドイツの30.4%等)に比べて低い、24.1%であるにもかかわらず、中間層の税負担に関する意識調査は「高すぎる」という回答が6割を超え、実際に税負担の高い国よりも、意識の上では日本の方が高いと感じる割合が高水準だという結果が出ています。但し、税モラル(税金をきちんと納めなければならない意識)は、調査対象となっている国の中では一番高いようです。

実際の税負担と、負担していると感じる意識(通税感)の逆転現象は、分析によると、納税者が自らの納める税金がどのように使われどのように自らの生活に還ってきているのかを実感し、納得してもらうという「納得感」が足りないことに起因するようです。これを改善するためには、学校での教育だけでなく、自分の将来の給料からどの程度の税金が支払われるのか、社会人になるとともに説明する必要があり、またアメリカと違って組織人は源泉徴収の年末調整の制度によって、自分では確定申告は原則として行いませんが、大目に源泉して必ず年度末に、それぞれ確定申告で還付を受けることにすれば、例えで血税と言われるように、血の滲むような自身の努力から得られた報酬から、どれだけの税金が徴収されているか必然的に意識することとなり、その使い途にも自然に興味がわくと思います。そして選挙権を行使し、血税が大切に使われていることを監視することが、国民の義務だと思います。

税の三大機能の1つとして、所得再分配機能があります。競争を前提とした資本主義経済においては努力した者がより多くの所得を得ることは避けられないことから、ある程度の格差はいたし方ありませんが、行き過ぎた格差は許容されるものではありません。税は所得再配分により、その格差を緩和する調整機能を持っていますから、今回の消費増税がきちんと世代間の格差を解消するように政治を監視することが、まさに今我々国民に求められていると言えます。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタントによる業務改善支援、M&A支援、システム導入のコンサルティングの他、グループ会社で税務申告業務、税務顧問、税務DD等、税務業務も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。 https://biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

過去の記事

Bizsuppli通信

会計のプロフェッショナルが、財務・経営を考える上でのヒントとなる情報を定期的にメールマガジンにてお届けしています

購読お申し込みはこちら