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Vol.93 寿司レッスンから学んだこと (2019年3月20日)

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【ビズサプリ通信】

▼ 寿司レッスンから学んだこと

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皆様、こんにちは。ビズサプリの花房です。「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」とはよく言ったもので、年が明けたらあっという間に年度末を迎えようとしています。1月、2月に何をしていたか思い出そうとするととにかくバタバタしていて何だか忙しかったということしか思い出せないのは毎年のことではありますが。明日はお彼岸ですが、これを過ぎると気温も上がって、東京では今週末には桜も開花してお花見シーズン到来ですね。

さて、前回のメルマガでは、今年は何か新しいことを始めるには相応しい年と書いたのですが、私は今年は寿司職人を目指します、というのは冗談で、先日、日本公認会計士協会東京会主催の、「第4回 握り寿司レッスン」に参加してきました。過去何回か、寿司レッスンの案内を見る都度興味があったのですが、いざ申し込む段階で申込期限を逃していましたが、今回無事抽選にも当たり、念願の参加となりました。

場所は、短期間で寿司職人を養成することで有名な、かの、『東京すしアカデミー(新宿校)』です。そもそも寿司職人というと、昔は1人前に握れるようになるまで10年はかかる、厳しい修行の世界と聞いていて、子供の頃に思い描いた将来の職業から、早々に消えていた思い出があります。私は、少なくとも魚を3枚におろせるくらいにはなりたいな、と思って参加したのですが、回りの方も、最近釣りを始めることになったので魚をおろせるようになりたいとか、寿司の握り方を知りたくて参加した、というように、それぞれ微妙に目的は違っていました。

 一方で、実際寿司アカデミーに通う生徒さんも、本格的に寿司職人を目指す方もいれば、今度寿司店を出すオーナーの方が基礎的な知識を身に着けるために通うケースなど、求めるレベル感も様々なようです。また大きな特徴としては、生徒さんの6割程度は、卒業後は海外で寿司職人になることを希望しているそうです。寿司屋の数は日本よりも海外の方が多いと言われているくらい、世界では寿司人気が高まっており、本格的な職人が不足しているので、日本で働くよりも高給で雇ってもらえることが背景にあるようです。

今回は、寿司店、ひいては今後の外食業界のあり方をテーマに取り上げてみます。

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■ 1.外食業界の概要

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一般社団法人日本フードサービス協会発表の調査結果によると、2017年度の国内の外食産業の市場規模は25.6兆円で、この中には給食やバーなども入っており、飲食店と喫茶店、居酒屋、料亭に限るとその規模はおよそ16.6兆円と推計されています。詳細ジャンルがあるものは限られますが、うち寿司店は1.5兆円と、そば・うどん店の約1.3兆円と並び、居酒屋の1兆円より大きな市場規模となっています(なお、当該調査データで一番大きいのは、「食堂・レストラン」の10兆円です)。

外食産業はそれなりの大きな市場ですが、特別な技術が必要な業界ではないため、業態の模倣もし易く、参入障壁の低い業界です。そのため、売上に対して食材費等の原価が3割、人件費が3割、家賃や減価償却費等の設備費、水道光熱費等のその他のコストが3割で、それらを差引いた営業利益率が10%出ればまずまず、の業種です。上場企業でも営業利益率が10%を超えている企業は数えるほどしかありません。

営業利益率が高い企業で有名なのは、高級レストランのひらまつで、かつて営業利益率20%超(2015年3月期:23.9%)と上場外食企業では1位を誇っていましたが、最近ではホテル事業参入に伴って新規出店費用やメディア経費等の積極投資がかさみ、営業利益率は10%台前半(2018年3月期:13.1%)となっています(それでも10%を超えている上場企業は数えるほどしかありませんので、優良の部類に入ります)。ひらまつの営業利益率が高いのは、高級レストランであり客単価が高く、相対的に食材費、人件費等の原価割合が低いこと、婚礼売上が多く、これは貸切りでコストの無駄がなく、効率性が高いことが考えられます。

ひらまつは高価格帯で婚礼需要にも応えられることから、外食産業の中では比較的参入障壁の高いニッチな分野と言え、高収益を達成できていますが、大多数の外食企業の客単価は低く、競争が激しいため、営業利益率は良くて1桁台前半か、ちょっとマイナスの外的要因が発生すると、すぐ赤字に転じてしまう企業も少なくありません。

また外食事業は給与水準が低い業界としても知られていますが、実際に厚生労働省の開示している労働統計要覧で、2017年度の「業別所定内給与額」を見てみると、全16分類のうち、『宿泊業,飲食サービス業』の現金給与額(年齢計)は最下位の月額265千円、でした(16分類の平均は月額346千円、一番高額は『電気・ガス・熱供給・水道業』の月額467千円と、飲食の1.8倍になります)。このように、給与水準が低いにもかかわらず、人件費が売上高の3割程度を占め、営業益率は1桁台、というのが、外食事業の特徴になります。

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■ 2.外食業界の課題

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外食業界の最大の敵は、デフレ経済ではないかと思います。1991年のバブル終焉後、ITバブルやIPOバブルなど、景気が良くなった時期もありましたが、ITバブル崩壊、リーマンショック等も起こり、平成時代の30年間は基本的にデフレ経済で、物価が上がらなかった時代と言えます。デフレ経済ではユニクロやニトリに代表されるように、低価格のものが消費者に受け、外食も価格競争が激しく、なかなか値上げが出来ない環境にあります。

さらに今年10月には消費増税も予定されており、これを機に価格の増額改定を検討している企業は多いと思いますが、価格上昇とともに客数の減少を警戒して、各社ともまだ方針は明確ではありません。また10月の消費増税に合わせると、便乗値上げと言われることを恐れて、時期をずらしてこの4月に変えるところもあれば、まずはライバル企業の出方を待って対応を決めたいとして、消費増税後に検討する企業もいるなど、各社対応はまちまちのようです。

また今回の増税は、同じ商品でも店内飲食の場合の税率は10%だが、持ち帰りの場合は軽減税率の8%が適用されると言った、やや複雑な対応が求められます。つまり大きくは、持ち帰りと店内飲食で同一価格とするため本体価格に差をつける場合と、本体価格は同じとすれば持ち帰りと店内飲食では消費税分だけ差が生じる場合の、2通りの対応が出てくると思います。ちなみにフライドチキンが看板メニューの日本KFCホールディングスは、増税後は、別々の価格で販売する方針を決めた、とのことです。

なお、消費増税のショックを和らげるため、オリンピック前までの時限措置として、中小店でキャッシュレス決済した際のポイント還元策が検討されています。まだ正式に仕組みは固まっていませんが、当初は増税分の2%を還元する話でしたが、首相の鶴の一声で還元率は5%で話が進んでいるようです。日本はキャッシュレス化が遅れていると言われており、この制度は、消費増税対策と日本のキャッシュレス化率上昇の二兎を追える政策として注目されています。

但し、キャッシュレス化の仕組は、クレジットカードにしてもQRコードにしても、専用の端末を設置するための導入コスト、毎月、運用会社に支払う決済手数料としてのランニングコストがかかることから、利用者は便利になる半面、飲食業者にとってはコスト増となるため、手放しで喜べるものではありません。決済手数料は売上金額に対して数%となるため、元々外食企業の営業利益率は1桁台と低いですから、この手数料を負担すると、営業利益はほとんど残らない、あるいは営業赤字になりかねませんので、キャッシュレス化が進むかどうかは、決済手数料が事業者にとって過度な負担とならない程度まで下がる必要があります。

そして現在大きな課題となっているのが、人件費の増加です。東京労働局の資料によれば、2008年10月に766円だった最低時給は、10年後の2018年10月には985円と、10年間で3割近く上昇しています。この傾向は今後も続くと考えられ、このペースだと2019年度の最低時給は1,000円を突破することが見込まれます。しかもこれは最低時給ですから、実際に飲食店でアルバイトを募集しようとすると、人員不足が恒常化している中で他社よりいい条件を出す必要があり、例えば吉野家さんの千代田区の求人情報を見ると、1,200円前後が多く、最大1,500円程度となっています。

また政府の働き方改革の一環で、労働基準法の改正により、2019年度からは有給休暇の義務化されることになります。これは、年10日以上有給休暇の権利がある従業員(含パートタイム社員)について、最低でも5日以上は会社が指定した日に有給休暇を与えることを義務化するものです。この義務に違反すると、対象となる従業員1人につき30万円の罰金が科せられることとなるため、すでに対策を立て始めている企業も多いと思いますが、罰則が重いため、未着手の企業とは早めに対応を考えないといけません。

有給の取得率が高まることは、従業員にとっては有難いことですが、企業経営としてはその分、仕事を効率化して、勤務時間が短縮しても従来と同等以上の成果を出す仕組みに代えて行かないと、人件費が増加することになりかねません。特に、多くの外食チェーンは年中無休であることを強みにしており、また24時間営業の企業もありますが、店舗を開けている以上は必ず人員を配置しないといけないことを考えると、有給消化が進むことは、その分代わりの従業員、パートさんのシフトを増やすことになりますので、人件費の増加は避けられません。

そして中長期的には、日本の出生率低下に伴い、今後人口が減少して行くという、根本的な課題があります。外食のマーケットサイズは結局胃袋の数で決まりますから、人口が減ると、外食産業全体としては、将来、売上が減少して行くことは明らかです。

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■ 3.外食業界の将来

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先述の通り、外食産業は人件費が増加傾向にある一方でなかなか値上げに踏み切れないジレンマにあり、かつ将来的には国内の市場規模がシュリンクして行く宿命にあります。このような課題に対して、明るい未来を築くにはどうしたらいいでしょうか?

まずは価格の引上げですが、今年は消費増税があり、税込み価格を上げないと、そのまま収支を圧迫しますので、更なる企業努力でコストを削減しなければなりません。ただその努力も限界がありますから、少なくとも本体価格は据え置きで、消費税が8%から10%になったことによる2%分だけ、消費者の負担が増えるというのが、無難な対応と考えられます。

但し日本の消費者は厳しい目を持っていますので、税込み価格が上がった途端に、商品を買ってくれなくなる可能性もあります。従って、増税だけの理由で価格を上げるような守りの値上げではなく、店舗に再投資したり、メニューをブラッシュアップする等、何かしら付加価値を高めて、消費者に納得してもらえるような形で、攻めの値上げをしていかなくてはならないと思います。そこには、全国一律同一価格ではなく、地域ごとの物価や給与水準、賃料水準、時期ごとの材料の仕入れ価格を反映した、より弾力的な価格設定も検討の余地があると思います。ECサイトでは、時間ごとに価格が変動して収益の最大化を狙う、ダイナミックプライシングの時代に突入していますから、外食産業も、業界としてただ価格の安さを競うのではなく、中身と価格のバランス、いわゆるコストパフォーマンスで競争し、全体の価格を上げて行くような意識と具体的な施策が求められます。

人員不足や働き方改革による人件費の増加への対策としては、最近話題になっているフードテック、すなわち、機械やIT化を進めて行くことも1つの有力な解決方法だと思います。昔から炊飯ロボやオートフライヤー、炒飯マシン、食洗機、食券器等、単純で重労働な作業は、機械化することで人への負担を減らしてきました。未導入企業はこれらの導入を検討したり、オペレーションの見直しにより、機械化した方がいい作業の専用マシンの開発をすることも考えられます。最近、キッチンロボの会社を新たに立ち上げようとされている、若手起業家の方にお会いしましたが、この分野で課題解決を目指すテック企業がこれから多く誕生すると思います。

IT化の活用としては、外食の売上の機会損失を減らすには稼働率の向上が1つの解決策ですが、例えば、消費者が予めネットで注文して決済まで済ませ、来店時間を予約してその時間に財布を持たずスマホ1つで行って、客席に着くとすぐ料理が提供され、食べ終わるとそのまま帰ればいいような仕組みにすることで、リードタイムを短縮して稼働率を高められるとともに、消費者の利便性も固まります。ネット経由の仕組にすることで、顧客のデータベース化を推進し、ビッグデータの活用で新たなサービスに繋げられるかもしれません。

そして人口減少に対する解としては、国内市場に限れば、家庭で調理している領域にもっと切り込んでいくことでしょうか?中食と言われるような、持ち帰りの惣菜等、もっとテイクアウトできる業態やメニューを増やしたり、ウーバーイーツに代表される宅配での食事の提供を増やすことで、人口は減っても外食産業が関われる機会を増やすことが可能となります。

そして近年、すでに進出している外食企業が始めていますが、日本でチェーン化した業態の海外進出です。ラーメン屋や寿司店、牛丼、定食屋等、日本ならではの業態がすでに海外進出しています。農林水産省の調査によると、2017年10月時点での海外の日本食レストラン数は11万8千店であり、これはその約2年前(2015年7月:8万9千店)から3割の増加とのことです。これは、2013年12月に、『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されたことや、近年訪日観光客が増加して、日本食への興味が増大していることが影響していると考えられます。

但し、11万8千店の日本食レストランのうち、日本企業が海外に進出して出店している数は多くないと思います。もちろん、日本人で海外に移住して出店しているケースもあると思いますが、大部分は現地資本のオリジナル和食レストランと考えられます。日本でのマクドナルドが約2,900店、KFCは約1,100店を国内で展開していますが、逆にこれほどの規模で、海外で出店している日本の外食企業の業態はまだないと思いますが、海外の職が日本で根付いたように、やり方によっては日本食を海外で根付かせることも可能と思います。

世界で日本食ブームとなっているのは日本の外食産業にとっては追い風です。食だけでなく、酒や焼酎といった日本独自の酒、食材も含めて、海外進出のチャンスだと思います。日本の外食業態が海外で根付き、店舗数を拡大して行くためには、ヘルシーで健康的なイメージ等、日本食のいいところを生かしながら、本格的な日本の味を広める一方で、メニューや味付けについては現地の嗜好に合わせることも必要と言えます。人口減少は日本の大きな課題であり、食以外でも将来的にマーケットを海外に求めて行かなければならいでしょうから、海外でも本格的な日本食が手軽に食べられる環境が増せば、日本人が積極的に海外に出て行く後押しになってくれると思います。

ちなみに、冒頭で触れた東京すしアカデミーでの寿司レッスンですが、初めての3時間のレッスンでも、何とかそれなりの握り寿司っぽいものが作れました。そこはやはり学校として、講師の先生が、理屈と理由を元に説明してくれたお蔭だと思いました。当たり前のことかもしれませんが、これはどの仕事にも共通することですから、私も今後仕事で人に教える時には意識しようと再認識した次第です。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタントによる業務改善支援、M&A支援、システム導入のコンサルティングの他、財務経理業務のアウトソースも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。 https://biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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