Vol.88 Reboot(再起動)の年 (2019年1月9日)
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【ビズサプリ通信】
▼ Reboot(再起動)の年
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皆様、明けましておめでとうございます。ビズサプリの花房です。
今年の話題と言えば、皇位継承とそれに伴う改元(元号の変更)、消費増税、オリンピック1年前としての盛り上がり(ラグビー好きの方にとってはラグビーワールドカップ)でしょうか。中でも、皇位継承はGWを10連休として行われる一大イベ ントであり、祝賀ムードが盛り上がることが予想されるだけに、経済効果も大きいと思われます。カレンダーやスケジュール帳の需要もありますが、システム会社にとっては、日付を和暦で入力するシステムの変更に対応するという特需が期待されまれます。
改元で分かっているのは、明治以降の元号のイニシャル、M(明治)、T(大正)、S(昭和)、H(平成)、が重ならない、漢字二文字であり、新元号の公表は4月1日 に行われるということです。従って、5月1日の新元号使用までの準備期間が1ヶ月しかない中で、これに対応するためにSEの方は残業や休日対応が求められるかもしれません。また経理に係る部署の方は、4月30日〜5月2日が祝日になるため、5月の月初の営業日数が極端に少ないことから、4月の月次締の負担がかなり大きいことが予想されます。
改元は世の中への影響が大きいですが、それは、それだけ元号がいまだ日常生 活で使われることが大きいからだと思われます。日付を記載する際に、西暦を 使うことが徐々に多くなってきたようには感じますが、役所を始め、多くの場合に生年月日等を和暦で記載することが求められます。合理性を考えると、全て西暦で統一した方がいいはずですが、和暦を捨てきれないのは、伝統、あるいは文化を重んじてのことだと思います。
また1つの元号は、まとまった1つの時代を象徴する意味で、元号が変わることで、また新しい時代が始まるきっかけにもなります。明治以降、元号の変更は天皇陛下の崩御に伴い、不測の中で行われていましたが、天皇陛下の退位に基づく、スケジュール化された改元という、今回は我々が経験する初めてのケースになります。1つの時代の節目として、通常の「新年」以上に、何か新しいことを始めるには、相応しい年と言えるのではないでしょうか。
「平成31年」=「○○元年」あるいは「○○1年」をReboot(=「再起動」)の年として、心機一転、皆さんも何か新しいことを始めては如何でしょうか。節目の年に始めたことは、何年経っても、記憶に残ること間違いなしと思います。
「平成」は、インターネットが一般化し、ネット社会が事実上誕生、成長した時代でした。それも最初はパソコンが主流でしたが、今ではスマホ中心に拡大しつつあります。誰もがiphoneの誕生を予測できなかったように、今年から始まる新元号の元ではどのような社会になるのか予想できませんが、ネット社会の成長の段階で間違いなく日本で進むこととして、「キャッシュレス化」があります。今回は、このキャッシュレス化をテーマに取り上げてみます。
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■ 1.消費増税対策とキャッシュレス化
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我々消費者に身近な、かつ生活への負担が大きい消費増税ですが、過去2度延期されてはいますが、このまま行けばさすがに今回は延期されることはないでしょうから、10月1日に予定通り消費税率の10%への引上げが行われる予定です。
消費税率Upは消費者からみれば、単純に支出増になりますので、政府は前回増税時のような駆け込み需要での反動減が起きないよう、いくつかの政策を発表しています。昨年の12月21日に閣議決定された、平成 31年度税制改正大綱においても、消費増税に対する需要変動の平準化等の観点から、住宅ローンの所得税額控除期間の延長(単純な延長ではなく、消費税率2%引上げ分の負担に配慮したもの)や、自動車税の減税(自動車取得税は廃止)等、税制面からの消費増税対策が明らかになっています。
なお、消費税率が10%となっても、飲食料品や新聞は軽減税率制度が適用され、 8%のまま据え置かれます。但しこの制度は、みりん風調味料は該当するが、みりんや料理酒は該当しない、栄養ドリンクもオロナミンC(清涼飲料水)は該当するが、リポビタンD(医薬部外品)は該当しない、さらに、日刊紙の定期購読は対象だが、電子版やコンビニでの販売は該当しない、といった、専門家でも判断に窮することもありそうな、かなり複雑な制度となっています(先述のような例は、「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」国税庁消費税軽減税率制度対応室、によりまとめられていますが、実に84個の事例があり、実際の現場では事例にないようなケースが沢山出てくることが想定されま す)。
また、消費増税対策と日本のキャッシュレス化率上昇の二兎を追える政策として、中小店でキャッシュレス決済した際のポイント還元策が検討されています。当初は増税分の2%を還元する話でしたが、首相の鶴の一声で還元率は5%で話が進んでいるようです。中小事業者保護の色彩もあるのだと思いますが、そもそも大企業は対象外、中小事業者も大手チェーンのフランチャイズの場合は還元率が2%になる、キャッシュレス決済に対応する専用の端末がない場合は新規に設置、ポイント還元に対応するためのシステム変更が必要といった時限措置のため、消費喚起の効果が限定的なこと、システムコスト等の費用対効果も踏まえて、実現可能性のハードルはかなり高そうです。
消費増税対策とキャッシュレス化の推進を一度に進める妙案があればいいですが、当該制度は導入されるとしても、増税時からオリンピック前までの9か月間のみの実施ということなので、少なくともキャッシュレス化推進の効果も限られるのではないでしょうか。キャッシュレス化と言っても、現在流通している紙幣・硬貨が電子データに置き換わるものであり、企業間取引や国民の生活の重要なインフラであること、また日本でキャッシュレス化が進めば、政府としても、電子データでお金の動きを把握しやすくなり、脱税・マネーロンダリング・紙幣の偽造等の犯罪防止を効果的に行いやすくなる利点があるだけに、今回の増税対策にかこつけた場当たり的な施策ではなく、キャッシュレス化の手法として、ユーザーの利便性やセキュリティ、導入コスト等の優劣を踏まえた上で、どの規格を中心に日本のキャッシュレス化を推し進めるのか、長期的な視点でしっかりとグランドデザインを描いて欲しいと思います。
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■ 2.スマホがキャッシュレス化を推し進める
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日本は「現金大国」と揶揄されるほど現金好きな国民で、超低金利の中、タンス預金も増加していると聞きます。少し前のデータですが、BIS(国際決済銀行)が主要国の現金の流通残高を対名目GDP比率で比較したものによれば、日本の当該比率は2015年末時点で19.4%であり、ユーロ圏の10.6%、米国の7.9%、韓国の5.6%等と比べて、突出していることが如実に表れています。
それだけ、日本の治安の良さや、日本国の発行する紙幣の信用力が高いことの 裏返しでもあると思います。一方で、キャッシュレスの決済手段の代表格である、クレジットカードの利用率が低いことを示すものでもあります。日本では、クレジットカードが使える場所は、比較的高額の商品やサービスを取り扱う店です。個人商店やファーストフード店では、カードが使えないお店が多く、仮に使えるとしても、金額の下限を設けていたり、カードによる支払を嫌がるお店も少なくありません。
その理由としてよく理由に上がるのは、クレジット決済用の端末の導入費用と、利用額に応じて支払う加盟店手数料率の高さです。これはお店の業態にもよるので一概には言えませんが、小売に比べて飲食店は高い傾向があるようです。またカード会社によっても、加盟店手数料の料率は異なります。ただ最近は、スマホの普及とともに、モバイル決済が普及してきています。これは、お店のスマホやタブレットをPOS端末として、クレジットカードの読み取り機を付ける形式のもの、消費者にスマホアプリをダウンロードしてもらい、そこに会員IDを表示させて決済する形式のもの(消費者はクレジットカード情報等を登録しています)、FeliCa等のお財布携帯としての形式のもの等、様々なものが普及してきています。
また日本での電子マネーは、ここ10年くらいの間に、プリペイド式を中心とする交通系(Suicaやパスモ)、流通系(nanacoやWaon)を中心に普及して来てました。これらは日常生活で利用頻度の高い電車やコンビニ・スーパーでの利便性が高いこと、流通系はポイントが付くことから、一気に普及しました。但し、プリペイド式は上限金額が数万円であり、主に少額決済でしか利用されていないため、取引件数は多いものの、金額ベースではまだまだこれからと言えます。
さらにここに来て注目を浴びているのが、QRコードを使った決済方法です。仕組みとしては、お店はQRコードを印刷して置くだけで、あとは消費者が専用アプリでQRコードを読み込めば、決済が完了します。店としては専用端末が不要で、またソフトバンクとヤフーが共同で手がけるQR決済アプリの「PayPay」やLINEが手掛ける「LINE Pay」は、最初の3年間の決済手数料を無料とすることで、早期の会員獲得を狙っています。特に昨年末に話題となったのが、PayPayが行ったキャンペーンで、1回の支払毎に最大20%を、さらに抽選で40回に1回の確率で、支払い額の全額をキャッシュバックするとしたところ、2019年3月31日の終了日を待たず、開始からわずか10日で終了するほどの反響が ありました。
昨年末には、みずほFGは2019年3月にQRコードを利用した、デジタル通貨を発行することを発表しています。また同じく銀行のサービスとして、ゆうちょ銀行もQRコードを使ったスマートフォン決済サービスとして「ゆうちょPay」を今年 2月から始めることとしており、銀行が直接サービスを提供することで、ユーザーとしての電子マネーに対する安心感は格段に高まる気がします。また他の電子マネーで後払い式のものは、最終的にクレジット決済になるため、使い過ぎを嫌って後払いに抵抗のあったユーザーも、銀行口座からの引き落としになる銀行提供のQRコード式の決済サービスであれば、クレジットに慎重な日本人の活用が進みそうです。
またSuicaはカード式から、スマホのアプリとしてのモバイルSuicaへの移行を進めています。スマホが生活になくてはならないものとなってきた現在では、単なるコミュニケーション、エンタテイメントツールとしてだけでなく、お金のやり取りについても、スマホでの決済がカギを握っている状況です。オンライン取引の決済はクレジットカードで行うのが主流でしたが、今後は更なるスマホの普及、様々なアプリの開発とともに、現金のやり取りはスマホ上で行うのが当たり前になりそうです。そこでの決済手段として、上記で紹介したものの他、「楽天ペイ」や「d払い」(docomo)等があり、さらに電子マネーへの参入企業が増えて行くと思います。さらに世界を見れば、中国での電子マネーは「ウィチャットペイ」、「アリペイ」のシェアが大きく、いずれもQRコード式による利便性、導入コストの安さが、急速に普及した要因と言われています。アメリカではAppleの提供する「Apple pay」やAmazonによる「アマゾンペイ」 も日本に進出しており、群雄割拠の様相となっています。
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■ 3.スマホ経済圏とキャッシュレス化の拡大
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昨今話題のシェアリングサービスとして、代表格は配車アプリの「UBER」や空き部屋の貸出アプリの「Airbnb」、日本発ではスマホによるフリーマーケットである「メルカリ」が有名ですが、ビジネスモデル的には、スマホ上のアプリで、個人の空いたリソースを別の個人にマッチングすることがベースになっています。個人間取引であるため、提供者・利用者相互の信頼性やセキュリティ、決済の担保が課題ですが、相互評価の仕組みを取り入れたり、支払もクレジットカードやその他電子マネーでキャッシュレスにより行うことでそれを可能にしています。
また法人の提供するサービスとしても、ECサイトを始め、音楽や動画配信、旅行、ゲーム、料理の出前等、消費者が生活に必要なあらゆるものが、徐々にスマホで提供されるようになり、スマホ経済圏が拡大しつつあります。それらも決済はクレジットやQRコード式アプリ等、キャッシュレスにより行われます。逆に言えば、スマホ経済圏におけるサービスは、キャッシュレス決済が大前提 になっていると言えます。
一方のリアル店舗では、決済手段として日本では根強い現金の他、主にクレジットカードが使われてきましたが、複数のクレジットカードを持っている人でも、実際に使っているのは2〜3枚だと思います。スマホ経済圏では、キャッシュレスの決済手段として、クレジットカード以外に様々な電子マネーが乱立して来ていますが、1人のユーザーとして対応できるのも通常は2〜3種類が限度ではないか、と想定されます。
そうすると、いずれは数種類の電子決済に集約されるかもしれません。ユーザーとしては、どれかに1本化された方がいいでしょうし、その方が一気にキャッシュレス化が普及すると思います。スウェーデンは銀行が中心となり、Swishという電子決済の仕組を取り入れたところ、一気に普及し、世界一キャッシュレスが進んでいる国と言われているそうです。しかし一方で、決済サービスを提供する企業にとっては、スマホ決済サービスは重要な収益源であるため、決済サービス提供企業としては、すでにサービスを始めた規格から、他社、あるいは国が決めた規格に合わせるのは、簡単には妥協できない話でもあります。
ここで普及のカギを握るのは、利便性とセキュリティ、低コストであること、だと思われます。決済の都度手続きが煩雑だと使ってもらえませんし、セキュリティに問題があれば見向きもされません。そして店側としては、導入コスト・ランニングコストが安くないと導入に踏み切れない事情もあります。今後キャッシュレス化が進むことは間違いないですが、日本発の決済サービスが普及して行くのか、それとも実績のある米国、または中国の決済サービスが日本でも同様に普及して行くのか、これからの2,3年が勝負の年と考えられます。
そしてキャッシュレス化が進めば、リアル経済圏にある店舗も大きな恩恵を受けるはずです。例えば、従来小売店舗における問題として、レジや、ATM・夜間金庫に入金する際の盗難のリスク、それに備えるための警備会社や現金回収サービスのコスト、また毎回現金をカウントし、レジを締めることに係る人件費コスト、と言った、様々なコストがかかることが挙げられます。今後キャッシュレスな決済サービスの普及とともに、今まで導入の障壁となっていた導入・ランニングコストが低減して行けば、キャッシュレス化のコストが現金を扱うことのコストを下回る時期が訪れ、そうなると、キャッシュレス化が一気に浸透し、小売店舗としては、現金管理やレジ締業務と言ったものから解放されることになります。特に人件費が増加傾向をたどる近年において、省力化は大きな課題です。すでに米国、中国ではその先を一歩進んでいて、無人店舗も徐々に普及し始めて来ており、日本でも実験店舗を始めている企業が出てきているものの、ここでもキャッシュレス化が前提のため、キャッシュレス化が進まないと、無人店舗の普及の障害となりかねません。
なお、クレジットカードやスマホ決済では、大抵ポイント制度があり、利用額に応じてポイントがたまり、それを買い物に利用できるようになっています。このようなカスタマー・ロイヤルティ・プログラムについては、会計上は従来、将来使用される可能性のある未使用のポイント残高を「ポイント引当金」として引当計上していました。これについては、2021年4月以降開始の事業年度から原則適用される「収益認識会計基準」においては、ポイント付与を、追加の財又はサービスを取得するオプションと捉え、そこから将来の履行義務が生じ、収益の計上を繰り延べることになります。ポイント制度を設けている企業にとっては、大きく影響すると言えます。
ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタントにより、効率的・効果的な業務改善の支援、それに係るスプレッドシート等の企業内ツールの作成支援やシステム導入のコンサルティング、IFRSや新会計基準適用の支援も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。 https://biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。