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Vol.77 意思決定の難しさ (2018年7月4日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.077━ 2018.7.04━━

【ビズサプリ通信】

▼ 意思決定の難しさ

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こんにちは。ビズサプリの花房です。今年はもう梅雨が明けてしまったとかで、例年海の日の前後と思っていたのでちょっと拍子抜けですが、その分暑い夏が続くことで恩恵を受けるビジネスもあり、天気、さらに言えば地震も含めて自然は予測不能ですが、それでも企業は日々意思決定を行っています。

日本では3月決算会社が多く、その株主総会は6月に行われて、中でも集中日と言われる日が今年は先週6月28日でした。当日は今回注目されていた富士フイルムホールディングス、武田薬品工業、出光興産の株主総会も行われましたが、いずれも経営上の大きな意思決定を抱えています。

それらは、富士フイルムは米ゼロックスの買収、武田薬品工業はアイルランドの製薬大手であるシャイアーの買収、出光興産は昭和シェル石油との経営統合についてです。いずれも賛否両論の戦略であり、また相手のある交渉事のため、会社自身で必ずしも決められない経営課題であり、今後どのような展開になっていくのか、外部からでも予想がつきませんが、意思決定する立場の経営陣は本当に大変だと思います。

今回は、このような経営上の意思決定についての手法を考えてみたいと思います。

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■ 1.経営判断の原則

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取締役、特に上場会社の取締役となると、その責任は重大です。会社法では、忠実義務や任務懈怠責任、善管注意義務等が定められています。特に意思決定ということになると、「経営判断の原則」と言われる考え方です。これは平たく言うと、ある意思決定が結果的に会社に損害をもたらしても、意思決定の経営判断が合理的であれば、結果責任を問わないとするものです。

意思決定の結果会社に損害が出た場合、全て意思決定時の取締役に責任があることになれば、取締役は委縮してしまって、必要な投資や大胆な事業計画を実行しなくなってしまい、結果的に会社の成長を妨げることになります。そこで、意思決定に際して、きちんと必要な情報収集をし、リスクを分析して、慎重に合理的な判断をしているのであれば、結果的に経営責任を問われることはないため、経営陣もリスクを取って挑戦できることになります。

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■ 2.経営者の意思決定

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「人生は選択の連続である」とかつてシェイクスピアが行ったように、我々は必ず何か選択をしながら日々生きていますが、それも小さな意思決定の積み重ねと言えます。日常生活に必要不可欠な意思決定もあれば、企業においては、売上を増やす、コストを下げる、生産効率を上げる等、業績の向上、財務体質の改善等、企業をより良くするために、様々な意思決定を行っています。

意思決定の手法として、昔からよく教科書に出てくるのは、PDCAサイクルです。 これは、P:Plan(計画)、D:Do(実行)、C:Check(評価)、A:Action(改 善)のイニシャルを拾ったものですが、「サイクル」という言葉が付くように、 一連の業務フローがある中で、計画したものが実行され、それを評価して課題を抽出し、改善のアクションをまた計画してそれを実行することを繰り返すのであり、基本的にはルーチンワークが前提と言えます。その意味で、すでに会社の業務として確立しているものであり、そこから革新的な何かが出てくる可能性は薄いでしょう。

経営者は、現在行われていることをきちんと執行するのも大事ですが、より重要なのは、将来のビジネスの基礎を作ることだと言えます。未来永劫何十年も同じ事業で成り立っている会社がゼロとは言いませんが、多くの長寿企業では、時代によって何十年周期で中核事業を変えながら継続している老舗がほとんどであり、必ず新たな中核事業を作り出し、育ててきた経営者がいます。

そのような意思決定こそ、経営者として真に求められる意思決定と言えます。それは過去の延長線上にあるものではなく、予測不能な中でも将来を見据えて、時代に必要とされるものを見つけ、あるいは作り出す必要がある、高度な意思決定です。このような意思決定に役立つ手法として最近注目されているのが、「OODAループ」と言われるメソッドです。

PDCAが工場で生まれたのに対して、OODAは軍事の世界から生まれました。戦場は常に敵との遭遇するリスクに晒されながら、刻々と変化する状況の中で、生き残るための最適な判断をしなければなりません。OODAは、O:Observe(観察)、O:Orient(状況判断、方向づけ)、D:Decide(決断)、A:Act (行動)、のイニシャルを取ったものです。

PDCAはプロセスが重視されるので、ある程度長期、変化の少ない状況で有効な手法に対して、OODAは変化が激しく、すぐに対応しなければならない機動性が要求される状況で有効な手法という意味で、変化が激しく1年後すら将来の予測が難しい現代に当てはまりそうな手法と言えます。

もう1つ注目されているメソッドとして、「QPMIサイクル」と言われているものがあります。これは、Q:Question(クエスチョン)、P:Passion(パッション)、M:Mission(ミッション)、I:Innovation(イノベーション)、のイニシャルです。最近はソーシャルビジネスが盛んですが、これはまさに、社会問題に疑問を持ち、その解決に情熱を持つ人が、それを自らの使命として、今までにないようなアイデアや技術で改革やソリューションを創出するビジネスモデルのサイクルと言えます。

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■ 3.意思決定以上に必要なもの

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今まで数多くの経営者を見て来て、最近では経営者のそばで仕事をする機会も増えてきました。そこで改めて思うのは、QPMIサイクルにもありますが、優秀な経営者の方は、例外なく、熱いPassionと、世の中を変えたいというMissionを持っていると思います。

大学の経営学や、MBAで学ぶような○○サイクルと言ったメソッドは、昔から行 われいる事象を類型化し、体系的に整理して、学問的に分かり易い言葉で表現しているにすぎません。歴史を作ってきた経営者の多くは、学問的なことを身に付けるよりも早く、深く考え、様々な経験をして、重要な意思決定を繰り返してきました。そしてそれは1人では出来るものではなく、従業員を始め、多くの方のサポートが合って初めて実現できたものと言えます。

昔から読まれている名著で、「人を動かす」(デール・カーネギー著)がありますが、そこでの人を動かす三原則の1つは『強い欲求を起こさせる』ことなのであり、経営者が明確なMissionを従業員に対して強いPassionで伝えられることが出来れば、多くの従業員が味方になってくれることでしょう。

経営者の意思決定の内容がどれだけ優れていても、それを実行し切れて初めて世の中から評価され、歴史に残ることになります。その意味でも、PassionとMissionは欠かせないと言えます。それがあれば、富士フイルムHD、武田薬品工業、出光興産の重要な意思決定もいい方向に向かうかもしれません。

今回は意思決定のメソッドをいくつか紹介してみましたが、いずれも観察であったり評価であったりと言葉は違えど、本質としては、現状分析と解決策の方向性を導き出すことが不可欠です。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタントにより、企業の意思決定支援のコンサルティングも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。 https://biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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