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Vol.50 のれんの急増理由とその本質 (2017年3月29日)

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【ビズサプリ通信】

▼ 連載50回目

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こんにちは。ビズサプリの花房です。早いもので、ビズサプリグループとしてメルマガの連載を開始してから今回が50回目となります。隔週ですので約2年続けているのですが、1人で書いていたら継続は難しかったと思います(人によるでしょうが少なくとも私は)。

継続できた一番の理由は、「組織力」と思っています。現在は5人で持ち回りの連載なので、5回に1回、自分の担当が回って来ます。従って、作業効率が5 倍になる訳です。しかもそれぞれが得意分野、興味を持つ分野が違いますから、知識量も1人に比べて何倍かです。加えて、お互いが刺激し合って新しい観点に気付いたり、スキルアップが図られることで、組織としての力は、5人力ではなくX人力(少なくとも5人以上分)になっているはずです。

このように、複数のものが集まった場合に単純な足し算ではなく、それ以上に効果をもたらすことを、「シナジー効果」と呼びます。それでは、このシナジー効果が会社の決算書に載ることがあるでしょうか?答えは、唯一、バランスシートの「のれん」に限り、シナジー効果が含まれる場合があります。

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■ 1.のれんの急増理由〜IFRSへの変更がのれんの増加を後押し

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先日3月18日版の日本経済新聞に、『「のれん」最大の29兆円 買収先のブランド価値』の記事がありました。M&Aにより、上場企業の無形資産である「のれん」が急増しており、買収先の業績が悪化すれば、のれんに係る減損損失が多額の損失として顕在化するリスクとなることが懸念される、という趣旨の記事です。なぜ急増したかと言えば、日々のニュースで取り上げられているように、最近はM&Aが頻繁に行われ、M&A件数そのものが伸びており、かつソフトバンクの案件に代表される、海外の大型M&A案件が増えています。

もう1つのポイントは、この日経の記事にもありましたが、会計基準変更が多分に影響していることです。ここで言う会計基準の変更は日本基準からIFRSへの変更であり、日本基準がのれんの償却が要求されのに対して、IFRSでは償却はさせず、減損会計だけが適用されます。その結果、毎期定期的に、巨額ののれん償却費を計上することはなく、その分利益を確保できるということが、M&Aを後押ししているという訳です。

海外M&Aをする企業は、すでに海外でビジネスを展開しているグローバル企業、あるいはこれからそれを目指していく会社が大半です。上場しているグローバル企業は、海外で資金調達の必要性、知名度の向上、また世界中のグループ企業の評価基準の統一を図るため、日本基準からIFRSへ会計基準を変更していますが、のれんの定期償却が不要であることも、期間損益へのインパクトの大きさからすると、かなり魅力的と考えられます。

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■ 2.のれんの本質

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のれんはなぜ発生するのでしょうか?のれんは一言で言うと、M&Aにより受入れる時価純資産と、それに要する取得価額の差額です。受入れる時価純資産は、簿価純資産ではなく、M&A時点で識別可能な資産と負債を時価で評価し直します。時価純資産が、取得価額より大きければ、借方に差額が生じ、これを「のれん」としてバランスシートに計上します。逆に時価純資産が取得価額より小さいと貸方に差額が生じるので、これは特別利益として一時の収益となります。

ではなぜ、時価純資産よりも高い金額を支払ってでも、M&Aが行われるのでしょうか?その理由は、M&Aの目的にあります。なぜM&Aをするかと言えば、事業の拡大、異業種への新規参入、技術・商品ブランドの取得、人材の獲得等様々ですが、平たく言うと、経営資源を買うわけです。経営資源とは、経営学的にはヒト・モノ・カネ・情報ですが、それらを自社で構築すればいいのですが、それには多大な時間がかかるので、M&Aによって一気に手に入れる、言い換えると、時間を買っていることになります。

そこで対価を支払って得た経営資源を自社のバランスシートに載せるわけですが、全ての経営資源を『認識』出来るわけではありません。例えば、「情報」という経営資源としては、顧客リストやデータベース、技術やノウハウと言ったものがありますが、これらをどのように評価するかという問題があります。また労働力や、人材の持つ個々の能力と言ったものも、M&Aの目的の一部である場合も少なからずありますが、そもそも人材はM&A後に辞めてしまう可能性もあり、そのタイミングも通常は分かりませんので、やはりバランスシートに載せることは難しいことになります。(但し、会計基準上は、分離して譲渡可能な無形資産については、時価で評価してバランスシートに計上しなくてはなりません)

それと、それぞれ別々に事業を行っていれば、生まれなかったシナジー効果が、M&Aにより同一のグループになることで発生することもあります。M&Aの際には、買い手は事前に独自の事業価値評価を行い、それに基づいて売り手と交渉して買取金額、すなわち取得対価を決定します。その事業価値評価の際に、M&A後のシナジー効果分を含んでいることがあり、その場合は、のれんにシナジー効果分も含まれることになります。

このようにM&Aの目的として取得した経営資源(含むシナジー効果)のうち、個別に評価してバランスシートに乗り切らなかったものが、総体として「のれん」勘定に集約されて計上されることになります。加えて、高値掴みして余分に支払ったプレミアム部分も「のれん」を構成します。最近ではシュリンクしていく国内市場に対応するため、異業種や海外マーケットに進出したい企業が山のようにあり、1つのM&A案件に対して買収を希望する企業が数多くあります。つまり供給(売り案件)を需要(買い手候補)が大幅に上回っている状況にあり、入札方式による場合は特に、他社に取られたくないばかりに適正価額以上でM&Aを実行してしまうことが多々あります。

また入札でない にしても、企業評価をする場合は上場している同業他社の株価を評価の過程で使うことが多く、その場合、株価が上昇している局面においては評価が高く なりがちです。その結果、本来は価値がない部分に対価を支払う結果となってしまい、のれんの金額をより大きくしてしまうことになります。

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■ 3.どちらが優れた会計基準なのか?

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のれんは、M&Aにより取得した経営資源のうち、個別に評価できなかったもの、とりわけ無形資産の部分と、必要以上に支払ってしまったプレミアム部分から構成され、それが最近のM&A市場の活況と、のれんが非償却であるIFRSへの会計基準変更により、企業のバランスシート上の残高が積みあがってきている状況にあります。

上述した29兆円という金額は、日本経済新聞社が、約3,600社の上場企業が2016年末時点で計上しているのれんの金額を集計したものですが、1年前に比べて4兆8,000億円と、約2割増加していることになります(なお29兆円の残高のうち、ARM社やスプリント社など海外の大型M&Aを行ったソフトバンクが4.9兆円と1割以上を占め、続いてM&A積極企業として有名なJTが1.6兆円、NTTが1.3兆円と続きます)。

IFRS(米国会計基準も同様)では、のれんを定期的に償却せず、減損会計一本なので、M&A対象企業(あるいは事業)の業績が当初計画した通りに行かなくなると、突然に減損損失を計上してしまうことになります。最近の最たる例が、東芝の原子力事業絡みののれんに係る減損損失(2017年2月14日発表の業績見通しによると7,000億円超)です。さらに東芝は、ウエスチングハウスで内部管理体制に不備があったとして現在も調査中であり、2016年12月第3四半期の監査法人によるレビュー手続が現段階においても完了せず、 決算数値を確定できないまま特設注意市場銘柄に指定されてから1年6ヶ月 が経過しており、今後内部管理体制が改善されていなければ上場廃止のおそれがあるとして、監理銘柄に指定されるという、異常事態に直面しています。

東芝に限らず、のれんを減損している事例は枚挙にいとまがなく、のれんが積みあがって来ている状況において、比較的世界経済の先行きが好調と見られている現時点では、(もちろん個別案件ごとの判断はありますが)全体として今すぐのれんの減損損失が顕在化するわけではないと思われます。しかし今後、世界経済の不透明感が増すことがあって、将来の業績見込みが悪化すれば、途端に減損損失が噴き出すリスクはあります。

日本基準では、最長20年以内で規則償却していくことから、数年で償却し切ってしまうことが多いので、保守的な会計処理と言えます。またのれんの減損については、事業ごとの将来キャッシュ・フローで判断しますが、年月が経つ程事業を再編したりして、個別の将来キャッシュ・フローを掴みづらくなります。さらに、一見のれんが維持できているようでも、それがM&A時点に存在しているものが引き続き継続しているためなのか、新たな「のれん」が生まれて来ていてそれによるものなのかの判断も、難しくなっていくでしょう。

個人的には、のれんが未来永劫続くことは稀なので、償却するルールである日本基準の方が健全と思います。但し、IFRS上で確かにのれんは非償却ですが、日本基準よりも企業結合時に認識される無形資産の範囲が広いと考えられるので、のれんではなく、償却性の無形資産に配分されるものは定期的に償却されます。従って、日本基準でのれんとされるものが全て、IFRSでものれんとして非償却となる訳ではありませんので、ご注意下さい。

無形資産の基準が狭く、従ってのれんが大きくなりがちだが償却ルールのある日本基準と、無形資産の基準が広くてその分のれんが少なくなり、但し非償却のIFRSのどっちが優れているかは、時代が要請するものと思います。のれんに限らず、会計ルールが大きく変わるのは、大抵何か問題が起きてからです。現行でベストと思われる基準であっても、問題が頻繁に起こるようになれば改正されていくもので、唯一絶対的なものは作れないというのは、会計を含む社会科学全般に言えることです。

ビズサプリグループでは、M&Aの際の財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンス、企業価値評価、またM&A実行後の組織再編や統合作業の各種サポート、買収した会社の財務経理業務のアウトソースも行っておりますので、機会ありましたらご相談頂ければと思います。 https://biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
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IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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