Vol.48 決算短信の自由度の向上 (2017年3月1日)
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【ビズサプリ通信】
▼ 決算短信の自由度の向上
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ビズサプリの久保です。
前回のビズサプリ通信は、東芝の会計処理についての話題でした。東芝は、予定日の3月14日に決算発表ができず、その公表を1ヶ月延期することを発表したのはご存知のとおりです。東芝が3月14日において公表する予定だったのは第3四半期(2016年4月から12月まで)の四半期決算短信だったのです。この決算短信について、新しい取り扱いがこのほど決まり、東京証券取引所が上場規程を改正するとともに、その作成要領を公表しました。
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■ 1.決算短信の様式廃止?
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金融庁に設置された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(座長 神田秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)において、平成27年11月より、計5回にわたり、企業の情報開示のあり方等について、審議が行なわれました。この結果、「ディスクロージャーワーキング・グループ報告 ~建設的な対話の促進に向けて~」がとりまとめられています(平成28年4月 18日)。
この報告書の基本的な考え方は、「企業と株主・投資家との建設的な対話を充実させるため、義務的な記載事項を可能な限り減らし、開示の自由度を高めることで、それぞれの企業の状況に応じた開示を可能とする」ことです。
要するにコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードにおいて謳われた「建設的な対話」を充実させるためには、形式的な様式での情報開示ではなく、企業独自の工夫に基づいた自由度の高いものでなければならない、ということだと思います。
この報告書の中で決算短信と四半期決算短信については次の3つの提言が行われました。
(1) 監査及び四半期レビューか“不要て”あることの明確化
(2) 速報性に着目した記載内容の削減による合理化
(3) 要請事項の限定等による自由度の向上
これを受けて、東京証券取引所は、昨年10月28日に「決算短信・四半期決算短信の様式に関する自由度の向上について」を公表しました。そこには「当取引所が定める短信の様式のうち、本体である短信のサマリー情報について、上場会社に対して課している使用義務は、これを撤廃します。」と記載されています。
これだけ読むと「あの慣れ親しんだ決算短信の様式がついに廃止?」と思ってしまいしそうです。しかし、その備考には「短信作成の際の参考様式として、上場会社に対しその使用を要請するに止めることとします。」と書かれています。すなわち、様式の使用は義務ではないですが、要請はしますよ、ということでした。結果として、このようにルールを一段下げたことを「自由度の向上」としているということが分かります。
確かに、改正以前の上場規程を見ると「当取引所所定の決算短信(サマリー情報)・・中略・・により、直ちにその内容を開示しなければならない。」と記載されています。新規程では「当取引所所定の決算短信(サマリー情報)・・・により」が削除されました(有価証券上場規程第404条)。
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■ 2.決算短信は監査済みか?
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上場規程には記載がないのですが、これまでの決算短信の様式には「監査手続の実施状況」の記載がありました。これは決算短信に記載する財務情報が監査済みかどうかを記載するものと考えられていました。
前述の上場規程には、「決算の内容が定まった場合には、直ちにその内容を開示しなければならない」と規定されています(新旧同様)。「定まった」というのは監査を受けないとそうならないのか、会社が「定まった」と判断したら監査終了前でも「定まった」として良いのか判断に迷うかもしれません。この点について、改正後の決算短信作成要領において「監査等の終了を待たずに、「決算の内容が定まった」と判断した時点での早期の開示を行うよう、改めてお願いします。」と記載されています(作成要領P4)。
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■ 3.J-SOXへの対応には注意が必要
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東芝の前年度(平成28年3月期)の決算短信の経緯をご存知でしょうか。3度にわたり訂正が行われました。軽微な訂正ではありますが有価証券報告書も数度にわたり訂正されています。特に最初の決算短信の訂正は重要な訂正と考えられます。その訂正決算短信には次のように記載されています。
「5月12日の決算発表の時点においては、会計監査人である新日本有限責任監査法人の監査が未了であり、2016 年3月期の計算書類及びその附属明細書並びに連結計算書類 に対する監査報告書は受領しておりませんでしたが、その時点では重要性のある修正が必要になる可能性は低いと判断し、決算発表の速報性を重視し、決算発表を行いました。」
この結果として、(これだけが原因とは言い切れない面がありますが)、東芝はその内部統制報告書において「内部統制が有効でない」と報告しました。決算短信は会社が「決算の内容が定まった」と判断した時点で開示すべきですが、その財務情報に重要な誤りがある場合には、誤った決算を行うような内部統制だったということですので、「内部統制が有効でない」と見なされるリスクがある、ということになります。
重要な誤りのある決算を会社が行い、会計監査人がそれを発見した場合には、そもそも会社の内部統制によって適正な決算ができなかったということになり、 内部統制が有効でないと判断されます。これはその決算を公表したかどうかに関わりはないのですが、一旦公表してしまえばそれは最終版ではなかったとの言い逃れはできなくなってしまうのです。
東証の決算短信の自由度向上の取り組みにより、実際にどれだけの効果が表れるのか、注目していきたいと思います。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。