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会計

Vol.47 東芝と減損とプッシュダウン会計 (2017年2月15日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.047━2017.2.15━

【ビズサプリ通信】

▼ 東芝と減損とプッシュダウン会計

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ビズサプリの三木です。

いったん落ち着いたかに思える東芝の会計問題ですが、子会社ウェスチングハウスを主力とする原子力事業について新規に減損が発生するとの報道がされ、これに関連して「不適切なプレッシャーの存在を懸念する指摘」が東芝内部であったため2月14日になって第3四半期の決算発表が延期されるなど、再び混沌としています。

実はウェスチングハウスがらみの減損の話は2段階あります。1つは、2015年ごろ東芝全体で問題となった「不適切会計」の際に問題となったウェスチングハウスそのものの減損の話。もう1つは現在問題となっているもので、ウェスチングハウスが2015年に買収したCB&Iストーン・アンド・ウェブスターという会社に関わるものです。

現在問題となっている件はニュースで見ていただくとして、今回は前者の減損について取り上げます。

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■ 1.プッシュダウン会計

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2015年11月17日のプレスリリースを見ると、以下の記述があります。

「2006年度に当社がウェスチングハウス社(以下、WEC)グループを買収した際、米国会計基準に基づきWECグループ及び当社連結ベースで約29億3千万ドル(当時のレートで3,500億円相当)ののれんを計上しました。」

ここで「WECグループ及び当社連結ベースで」の部分を不思議に思う人がいるかもしれません。のれんは買収した側(つまり東芝)が計上するのが普通で、買収されたWECがのれんを計上するのは不自然です。 実はこれはプッシュダウン会計と呼ばれている会計処理で、米国会計基準で認められているものです。

子会社を買収した時ののれんとは、買収で支出した金額と子会社の(評価替え後の)純資産の差額です。 明確な資産はないけれど、その会社に何らかの価値を見出して買収していたことになります。要するに、ブランド力とか社風とか、買収された側の会社にあ る何らかの価値がその実態です。

のれんは親会社の連結財務諸表で計上されますが、もともとは子会社にある何らかの価値です。 ならば子会社の財務諸表にも計上すべきと考えたのがプッシュダウン会計です。 なお、子会社は買収対価を払っていないため、

(借)のれん(貸)資本剰余金

というやや無理やり感のある会計処理が行われることになります。このルールに基づき、WECグループの財務諸表でも3,500億円ののれんが認識されたわけです。

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■ 2.のれんの減損とグルーピング

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上述した東芝のプレスリリース(2015年11月17日)を見ると、2012年度の減損の検討について、以下の状況が分かります。

WEC:プッシュダウン会計で認識したのれんを減損している東芝(連結):減損を認識していない WECでは減損しているのに東芝全体では減損していないのは矛盾に思えます。 東芝ではこの理由を、WECでは4つのプロダクトラインごとに減損を検討してい るのに対し、東芝の連結決算では(東芝側の管理部隊も含めた)WECグループ全体で減損を検討しているためと説明しています。つまり、4つ合計すれば大丈夫だったという説明です。

実は、連結と単体で減損のグルーピングが異なるケースは皆無ではありません。例えば親が製造、子が販売を担当していれば、子会社では仕入販売だけに着目しますが、親会社の連結では製造から販売まで合算して減損を検討します。

しかしながら東芝のプレスリリースを見ると、WECで2012年度に762億円、2013年度に394億円の減損を認識している一方で、連結ではこの期間にのれんの減損を認識していません。私は内部情報は知りませんが、ここまで原子力事業に対する見方が異なっているのは説明が苦しいように思います。ご存知のとおり、この時期は福島第1原発の事故で原子力発電の先行きが見えな くなっていた時期です。

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■ 3.グルーピング単位と経営管理

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東芝の事例を疑いの目で見ると、のれんの減損を回避するためにグルーピング単位を故意に大きくしているようにも見えなくはありません。 一方、WECグループの4つのプロダクトラインはいずれも原子力事業という大きな屋根の下に集う運命共同体でもあり、それぞれに相互依存関係があることも十分に考えられます。

このように減損のグルーピングはけっこうファジーです。外部者である私が、グルーピングが許容範囲なのか不適切なのか簡単には断定できません。

しかしながら、のれんの減損というのは会計上の出来事である以前に経営上の出来事です。 経営のピンチを会計数値で早期発見することは極めて重要です。その点、大きすぎるグルーピング単位は問題の早期発見を妨げてしまうことがあります。

東芝では2013年度まではWECを含む「WEC事業部」を連結上のグルーピング単位にしていましたが、WEC事業部と原子力事業部を統合した結果、2014年度からはグルーピング単位が「原子力事業部」に拡大しています。 このグルーピングの変更は東芝内部の組織・責任体制の再編によるものですが、 結果として減損の表面化を遅らせた可能性はあります。 せっかくWECが認識していた減損がグループ経営管理に生かされていなかったとしたら、連結上のグルーピングが大きかったことは、東芝自身にとっても残念だったと言えるでしょう。

のれんの減損の問題に限らず、東芝は不適切会計によって構造改革が遅れたと言われています。 投資家を気にするあまり意思決定を歪めていないか、CFOや経理部長は十分に 注意する必要があるでしょう。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
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泉 光一郎

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