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Vol.21 コーポレートガバナンス・コードを「そもそも」から理解する(その1)(2016年2月3日)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.021━2016.02.03━

【ビズサプリ通信】

▼コーポレートガバナンス・コードを「そもそも」から理解する(その1)

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おはようございます。ビズサプリの久保です。

日銀のマイナス金利政策によって、皆様の銀行預金の金利がマイナスになるということはありませんが、株価へのインパクトはあったようです。日銀は、いろいろな奥の手を出してきますが、そろそろタネが尽きてきた感があります。これで日本経済が持続的に上向くことを願うばかりです。

今回は、コーポレートガバナンス・コードの基礎の基礎を取りまとめてみました。良くご存知の方も復習の意味でざっとお読みいただければ幸いです。

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■1.そもそも「コード」とは?

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日本語でコードというと、普通は電気のコードを思い浮かべます。それはCORDです。コーポレートガバナンス・コードのコードはCODEですので綴りが違います。このCODEにはいろいろな意味があります。暗号や信号を秘密のコードということもありますね。法律という意味もあり、Civil Codeは民法、Commercial Codeは商法ということになります。

コーポレートガバナンス・コードのCODEは、学校や同業者などで定めた体系的な規約、規則、慣例を指します。日本のコーポレートガバナンス・コードは上場会社を対象にしていますので、上場会社が守るべき約束事を体系的にまとめたものが「コード」の意味になります。

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■ 2.そもそも「コーポレートガバナンス」とは?

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コーポレートガバナンスは、企業統治と訳されることがあります。国家のことはGovernment(ガバメント)と言いますね。Governance(ガバナンス)は国の統治や行政のことを指します。それを企業に当てはめたのがコーポレートガバナンスです。

企業にも、政府が国を統治するようなことがあります。すなわち、株主が株式会社を「統治」したり、株主から経営を任された経営者が組織を「統治」したりします。ただし「統治」というと大げさですね。良い日本語がないので「統治」が仮に使われていると考えて良いでしょう。しかし、最近は企業統治ではなくコーポレートガバナンスと呼ぶのが一般化してきました。

後者の経営者による組織の「統治」は、経営そのものですので、コーポレートガバナンスに含まれないという考えが一般的と思います。しかし、子会社ガバナンスとか、グローバルガバナンスという呼び方があります。これは親会社が株主として子会社を監督・管理するところから、そう呼ばれるようになったのだと思います。親会社による子会社ガバナンスは、本来、 親会社による経営の一環であり、株主と株式会社の関係とはだいぶ状況が異なります。

余談ですが、役所や新聞社は、できるかぎりカタカナを使わないようにしているようです。役所の場合は、外来語をそのまま使わず、できる限り日本語化する方針です。また新聞は、パッと見て理解できることや、文字数節約の観点から漢字で表記する方針です。そのような環境でも、コーポレートガバナンス・コードはカタカナ表記を守りました。「企業統治規約」とか「企業統治コード」でも良かったかもしれませんが、コーポレートガバナンスという言葉が一般に定着しており、かつ「統治」が企業にはふさわしくない用語であることから、カタカナ表記になったのだと考えられます。

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■ 3.金融庁原案と東証コードの違い

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日本のコーポレートガバナンス・コードは「原案」となっているものと、そうでないものがあります。

原案の方は、金融庁に設置された「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」(座長 池尾和人慶応義塾大学経済学部教授)による議論の結果、取りまとめられ、平成 27 年3月5日に公表されました。原案を受けて、東京証券取引所が、平成27年6月1日に「コーポレートガバナンス・コード」を取引所の有価証券上場規程の別添として定め、関連する上場制度の整備を行いました。コーポレートガバナンス・コード及び改正後の有価証券上場規程等は、同年6月1日から適用されています。原案を金融庁で作り、それを東証に渡して最終化するという手順になっています。なぜ、そんなに面倒くさいことになったのでしょうか?

これはコーポレートガバナンス・コードを上場会社のルールにするためと考えられます。前述のとおり、上場規程として定めることにより、上場会社が守るべきルールとなります。 金融庁は、金融商品取引法を所管しています。金融商品取引法では、例えば、有価証券報告書の提出義務を定めています。この法律に従って、上場会社は有価証券報告書を提出しなければなりません。そういう点では金融商品取引法の一部としてコーポレートガバナンス・コードを定めることもできたかもしれません。

ここでハードローとソフトローについて理解しておく必要があります。ローというのはLAW、すなわち法律です。硬い法律と柔らかい法律と翻訳できます。法律は硬いのでハードローが法律です。ソフトローは、法的な強制力はないのですが、現実の経済社会において国や企業が何らかの拘束感をもって従っている規範を指します。

コーポレートガバナンス・コードは、前述のとおり同業者などの体系的な規約なので、ハードローというより、ソフトローにふさわしいものです。このため、東京証券取引所の上場規程の一部として定めることとなったのです。 証券取引所に上場するためには、上場規程を守ることが必要になります。会社のすべてが上場規程を守る必要はなく、上場したい会社だけが上場規程を守ればよいのです。それを守りたくなければ、上場しなければよいわけです。ちょっと回りくどい話になりましたが、金融庁が作った原案を東証が最終化した のは、ソフトローにしたかったからなのです。

なお、実は金融庁原案と東証コードの内容は全く同じです。しかし、原案と東証コードには、その体系が次のように異なります。

【金融庁原案】

 序文  基本原則  原則と補充原則(一部に背景説明あり)

【東証コード】

 基本原則  原則と補充原則(背景説明なし)  資料編(序文、波形説明)

東証コードに、金融庁原案の序文があるのは変なのでそれは外し、一部の原則や補充原則に背景説明があるのもバランスが悪いので外したようです。ただ、情報としては貴重なものなので、東証コードではこれらを資料編として末尾に付けたと考えられます。

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■ 4.そもそも「コーポレートガバナンス・コード」は何のためにある?

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上場会社にとっては、新たなルールが適用されることになるわけですが、一体何のためにコーポレートガバナンス・コードが導入されたのでしょうか? コードに準拠すればいいことがあるのでしょうか?

まず、コーポレートガバナンス・コードとは何かという定義をしておく必要があります。それは、コーポレートガバナンス・コードの最初の「コーポレートガバナンス・コードについて」に書かれています。

そこでは、「「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義されています。

次に、何のためにそのような仕組みが必要かについて書かれています。短い文章ですが、いろいろなことが盛り込まれていますので注意して読む必要が あります。「それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られる」がコーポレートガバナンスの目的です。会社が持続的に成長すれば中長期的な企業価値が向上するはずですので、この2つは、ほとんど同じことを言っています。

ということで、コーポレートガバナンスの目的は、「会社の中長期的な企業価値の向上」です。実は、コーポレートガバナンス・コードの表紙を見ると、サブタイトルとして「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために」と書いてあります。基本原則、原則、補充原則に従った体制づくりに関心が向くと、往々にしてその目的を見失いがちです。「会社の中長期的な企業価値の向上」のために実効性のある体制づくりをするということが最重要ポイントです。

このシリーズの「その2」では、コーポレートガバナンス・コードの中身について少しお話しをすることにしたいと思います。

なお、ビズサプリでは、コーポレートガバナンスに関して幅広くご支援して います。お気軽にご連絡下さい。本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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