Vol.19 ちょっと不思議な、人や会社の行動に関わるゲーム理論 (2016年1月8日)
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【ビズサプリ通信】
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新年、明けましておめでとうございます。ビズサプリの三木です。 良いお正月を過ごされましたでしょうか?
色々な会社に伺って仕事をしていると、 「こんな仕事、役に立たないのに・・・」という不満を持っている会社の方によく出会います。今日は、ちょっと不思議な人や会社の行動に関わるゲーム理論を紹介したいと思います。 少々マニアックですが、良く考えてみると面白い話ですので、お時間のある方はお目通しいただけると幸いです。 なお、文中の意見は筆者個人の私見であることを予めご了承ください。
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■ 1.人や動物の不思議な行動
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考えてみると、人間や動物はけっこう不思議な行動をします。
なぜ男性ビジネスマンはネクタイをするのでしょうか?きちんとしたビジネスマンの証明のようなものですが、ネクタイをしていても怪しい人はいますし、ネクタイで仕事の効率が上がるわけでもありません。
オスのクジャクの羽は、なぜあれほど派手なのでしょうか。メスをひきつけるためとはいえ、羽が派手だから自然界での生存に長けているわけでもありません。むしろ大きく重い飾り羽は、動く時には邪魔なくらいです。(実際に繁殖期が終わると抜けてしまうそうです)
「こんな形式的な管理しても役に立たない」 「でも仕事だから仕方ない」と思いつつ日々仕事をされている方も多いと思います。上場企業であれば、「本音をいえばJ-SOX対応は役に立たない。なんであんなルール作ったんだ」と思っている方も多いと思います。 それでもビジネスマンはネクタイをし、クジャクは飾り羽を広げ、大企業の中には形式的な管理が残り続けています。
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■ 2.フォーカルポイント
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この不思議な行動の理由として、フォーカルポイントという考え方があります。
例えば、初対面の人と渋谷で待ち合わせをすることになったとします。ところがうっかりして、待ち合わせ場所が渋谷のどこなのか、指定するのを忘れてしまいました。 相手の携帯電話も知りません。この場合、「とりあえずハチ公前に行ってみる」人はけっこう多いのではないでしょうか。 ハチ公前が待ち合わせ場所として格段に優れているわけではありません。でも、渋谷で待ち合わせといえば、自分ならハチ公!、なら相手も同じように考えるのでは?と予想すると、「とりあえずハチ公前に行ってみる」というのはけっこう合理的な選択です。
このように、コミュニケーション手段が無い場合に当事者が一致しあえる点をフォーカルポイントといいます。そしてフォーカルポイントは、必ずしも他より優れているわけではなく、個人の損得では説明つかないことが多いことが知られています。
「とりあえずハチ公前」ではないですが、私もクールビズの季節が終わると、「とりあえずネクタイ」をします。なぜそれがネクタイなのかに意味はありませんが、一度ネクタイがフォーカルポイントになり、多くの人がそのように行動しだせば、「とりあえずネクタイ」が常識人の証明のようになってしまうのです。 ※フォーカルポイントの概念は、米国の経済学者トーマス・シェリングによっ て提唱されました。詳しく知りたい方は同氏の著書を参照ください。
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■ 3.合理的ではないけれど合理的な行動
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ライオンに追われるガゼルは、大きく飛び跳ねる行動を見せます。ところがガゼルは、飛び跳ねないほうが速く走れるのです。これは、「こんな飛び跳ねるくらい私は元気。私を追いかけても無駄だよ」と いうメッセージだと考えられています。ライオンにとっても健康なガゼルを捕まえるのは大変です。飛び跳ねないカゼルに狙いを絞ることでライオンも労力を節約できますし、そういう行動をとったライオンのほうが生き延びるでしょう。この結果、飛び跳ねたガゼルは難を逃れます。これを、ハンディキャップ理論と呼びます。クジャクの羽も、 「こんなきれいな羽を生やせるほど、俺は健康だぜ! 重くたって平気!!」というアピールと考えることもできます。
ところで、これとは少し異なる話ですが、高学歴者ほど高収入なことの説明が案外難しいことが知られています。大学で一生懸命勉強したことで仕事の能力が格段にアップ・・・・していれば話は早いのですが、コンパ三昧、麻雀三昧の生活をしていた学生であっても、学歴が高いほうがおそらく高収入でしょう。また、受験で勉強したことが仕事で役に立っているかというと、そうでもない人のほうが多いと思います。
とすると、能力が高いから高収入なのではなく、学歴によって「私は能力が高い」というシグナルを出せているから高収入なのだと言えます。これをシグナリング理論と言います。余談ですが、この理論が100%正しいとすると、大学は卒業さえできればコンパ三昧、麻雀三昧で構わないことになります。しかしながら、卒業生の実際の能力によってシグナルの効果は徐々に補正されていきます。「先輩の名を汚さない」といった理念が受け継がれている大学を選ぶことが、シグナリング効果で長く得をできることになります。ハンディキャップ理論もシグナリング理論も、一見すると合理的ではない判断 が、実は合理的であるというところが面白いところです。
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■ 4.個別最適と全体最適
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ゲーム理論の世界では、一見すると合理的でない行動でも、周りの人の行動とあわせ考えると最適行動になっていることがあります。そうした行動を分析できるのはゲーム理論の面白いところです。しかしながら、それが組織全体として最適かどうかは、また違う議論です。
囚人のジレンマという有名は話があります。複数人で犯罪を犯した人たちが別々に取り調べを受けたとき、全員が黙秘すれば釈放されるとしても、自白すれば減刑という条件をつけると個人にとっては自白が最適行動になってしまう、という話です。犯罪者たち全体としての最適行動は間違いなく黙秘です。でも「自白したら減刑」であれば、各個人の最適行動は自白になります。
色々な会社に伺うと、個別の部署や人は合理的な判断をしているのに、会社全体として合理的な行動になっていないことがあります。予算が余りそうだったら年度末に残さないように使い切る。部署間の交渉材料にするために共有してしかるべき情報を小出しにする。皆さんにも覚えのある方が多いと思います。
個別最適と全体最適を一致させるのは実に難しいものです。無意味に見える行動も、フォーカルポイントになっていたり、シグナリング効果で全体最適に寄与していたりします。ビジネスマンとしては全体最適を考える目は常に持っておきたいものです。 「とりあえずビール!」というフォーカルポイントなら歓迎なんですけどね。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。