Vol.126 船にかかわる問題 (2020年11月4日)
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【ビズサプリ通信】
▼ 船に関わる問題
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ビズサプリの三木です。
私の趣味はスキューバダイビングで、今年も何度となくダイビング船に乗りました。私は船酔いには強いほうなのですが排気ガスは苦手です。昔に比べて車の排気ガスはずいぶんきれいになりましたが、船の排気ガスは今もかなり臭うことがあります。今回のメールマガジンでは、SDGsに関わる様々な船の社会問題についてご紹介します。
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■ 1.船の環境問題
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東京湾にはホンビノス貝という貝が住み着いており、大型で味も良いことからスーパーでも目にすることが増えてきました。この貝はもともと北米などに生息していました。大型の貨物船などは空荷の時に安定を保つために海水(バラスト水)を内部タンクに取り入れ、荷物を積み込む際に吐き出します。ホンビノス貝はこの水に混ざって東京湾に運ばれてきました。
また、ムラサキイガイという貝も船によって日本にやってきた外来種です。こちらはバラスト水ではなく、船底に張り付くことでヨーロッパからやってきたと考えられています。食材としてはムール貝と呼ばれる美味しい貝ですが、ロープなどに群生して固着してしまう性質もあって、世界の侵略的外来種ワースト100にも選ばれています。
このムラサキイガイやフジツボなどが船に張り付くと燃費や速度に悪影響が出るため、船底には付着防止効果のある塗料を塗ることが一般的です。以前に使われていた塗料(トリブチルスズ)は毒性が強く、現在日本では別の塗料(トリフェニルスズ類)が用いられています。しかしながら国によってはルールが杜撰であること、後述する便宜置籍船などで取り締まりが緩い国があることなど、この塗料による環境問題も完全には解決されていません。
排気ガスについては、実は船舶の排ガス規制は自動車の規制に比べて大幅に遅れてきました。特に大型船舶はコスト削減のためC重油と呼ばれる硫黄分の多い燃料を使うことが多くSOxが削減しづらかったこと、活動場所が主に人のいない海上であること、コスト競争といった事情から、排ガス規制が進まなかったものです。さすがに近年は規制が厳しくなっており、LNGなど排ガス対応しやすい燃料にシフトしつつあります。
そのほか、石油タンカーが事故を起こした場合の環境問題も時折ニュースになります。タンカーは輸送効率を上げるために大型化が進んでおり、その分、事故を起こした場合は油の流出量も大量となってしまいます。
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■ 2.便宜置籍船の問題
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船舶の事故などがあると、よくパナマ船籍とかリベリア船籍といった言葉を耳にします。船籍とは船の国籍とも言うべきもので、船舶はどこかの国に船籍を登録する必要があります。船籍は船主の国籍に合わせる必要は無く、船籍を取得するのに必要な要件は国連海洋法条約という条約に基づき、それぞれの国家が定めています。従って、条件さえ合えば、例えば海が無いモンゴルに船籍を置くことも可能です。
実際にいくつかの国は税収増のために船籍を誘致しており、こうして船主の国籍とは無関係の国に船籍を置く便宜置籍船が発生します。例えば日本郵船の有価証券報告書を見ると、「船舶保有・貸渡関係会社等は、専ら船舶保有・貸渡を行うためにパナマ、シンガポール、リベリア等に設立した子会社及び関連会社等であり、当社はこれらの会社の概ね全社から船舶を定期傭船の上、運行しています」との記載があり、海外子会社等を通じて便宜置籍船を運航していることが分かります。
船籍の誘致のためには、税率を低く抑える、乗組員の国籍条件や資格要件の緩和、定期検査や安全設備の基準の緩和、殆ど取り締まりを行わない等の方法が取られます。船籍が異なれば船主の国の法律は該当船舶に適用されません。便宜置籍船を利用すること自体は適法なコスト節減ですが、乗組員の劣悪な待遇、安全管理や環境対策の軽視、違法取引や違法な漁業に使われるといった多様な問題の背景となってしまうケースも少なくありません。
もちろん、前述した環境問題への影響も生じてきます。この問題の根底には国家の主権が関わるため、便宜置籍船自体を廃絶することは容易ではありません。しかしながら問題を放置すると環境問題や海難事故、人権問題といった多様な問題につながることから、日本を含む多くの国ではポートステートコントロールという方法で対応を図っています。これは一定条件を満たさなければ入港を認めないもので、例えば救命設備、消火設備、乗組員の保有資格などをチェックしたりします。
こうした努力により徐々に好転はしているものの、運送コストの安さが売りである海運では安全マージンを切り詰めてコスト競争をしている現実もあり、便宜置籍船による問題は今も海運業界の大きな課題となっています。
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■ 3.船の解体の問題
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2014年に沈没、約300名もの犠牲者を出した韓国のセウォル号は、もともとは「フェリーなみのうえ」号として鹿児島-沖縄航路に就航していた船が韓国の業者に売却されたものでした。セウォル号が沈没した年に、「かめりあ丸」という船がインドネシアに売却されていますが、これは東京-伊豆諸島の航路に就航していた船で、私も幾度も乗船したことがあります。
このように、船が古くなると、燃費や安全基準、環境基準、保守コスト等の関係から、他の国に売却されることはよくあります。何か国にも渡るケースもあり、傾向としては徐々に船舶管理の弱い国(安全マージンを削りやすい国)に転売されます。しかしいつかは寿命となり、漁礁として沈められる等の例外を除いては解体処分されます。特に今は、新型コロナによって客離れが生じ、解体待ちの客船が増えているようです。
大型船舶は頑丈かつ巨大な鉄の塊で、塗料などの化学物質、貨物船では運搬物の残滓もあるため、解体には本来、大型の設備、高度な安全管理、工程管理が必要です。しかしながら船主が解体コストを忌避する場合、解体のために途上国に船舶を売却し、そこで人海戦術で解体を行うこともあります。一番安価な解体方法では、満潮の時に遠浅の海岸に全速力で船を突入させて座礁させます。そこで残燃料、ボート等の装備品、消火設備などは全て回収業者に売却され、残る鉄は人手で切断してスクラップ業者に売却されます。違法スレスレの解体を行う場合、船籍も変えて責任追及を難しくするなど、犯罪まがいの行為が行われることもあるようです。
こうした解体現場では環境問題や安全管理も手薄ですから、転落事故等も多く、化学物質なども垂れ流しとなる懸念もあります。指定した解体方法が実施できる国にしか船舶を売却しないといった対応も取られつつありますが、貧困層の雇用や鉄資源の確保など受入国にとっては必須のビジネスという側面もあって、状況改善は簡単にはいきません。最も有名なのはバングラディシュのチッタゴン(チャットグラム)という場所で、私も訪問したことはありませんがネットで検索すると様々な写真が出てきますので、ご興味ある方は調べてみてください。
今回は会計とは全く関係なく、社会問題を取り上げてみました。本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。