vol.222 オーナー企業の強みとガバナンス
ビズサプリの三木です。
現在、経済産業省はファミリーガバナンス・ガイダンスの策定にむけて検討を重ねています。ファミリービジネスやオーナー企業と聞くと、意思決定が速い、カリスマ経営者がいる、思い切った投資ができる、といったイメージを持たれる方も多いと思います。一方で、オーナー企業の不祥事が報じられるたびに、「やはりワンマン経営は危ない」という声も出てきます。確かに、権限が集中しやすいからこそ、独善や公私混同、お家騒動が企業価値を傷つけることもあります。
今回は、経済産業省が提示しているガイダンス案を手がかりに、オーナー企業の強みとガバナンスの両立について考えてみたいと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 1.経済産業省のガイダンス案の内容
----------------------------------------------------------------------
実は日本の全企業のうち9割以上がファミリービジネスだと言われています。もちろん零細企業が多いのでしょうが、それでもかなりの経済活動がファミリービジネスによって動いています。しかしながら、上場会社向けには東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードがあるのに対し、ファミリービジネスに関する指針はこれまで十分整っていませんでした。今回の経済産業省のガイダンス案はこうした問題意識を背景としつつ、中堅企業成長ビジョンを受けて、ファミリービジネスの長所を生かしつつリスクに対処するために進められてきたものです。
内容としては、オーナー企業の強みを弱めるのではなく、強みを長持ちさせるための仕組みを求めています。柱は大きく五つで、理念・価値観・ビジョンの明確化、ファミリーとしての意思決定の仕組み、ファミリーの関与方針、所有・経営の承継計画を持つこと、ステークホルダーへの情報発信です。
まず、理念や価値観を明文化し共有・浸透させること。次に、ファミリー集会やファミリー憲章のような「場」と「ルール」を持つこと。さらに、親族の入社・役員登用・後継者選定について客観的な基準を置き、公私混同を防ぐこと。加えて、番頭や社内役員、社外役員など、オーナー以外の視点を経営に入れること。そして、従業員や地域社会にも会社の考え方を説明し、理解と信頼を得ることです。
事例として経済産業省の研究会でも取り上げられていたのがオタフクです。佐々木家では家族憲章を定め、株式保有や入社ルールを整理したうえで、グループ企業の取締役会の半数以上を一族以外で構成することや、後継者を「何を変えたか」「何を始めたか」「誰を育てたか」で見る考え方を打ち出しています。オーナー企業らしさを残しつつ、暴走しないための工夫と言えそうです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 2.オーナー企業の強み
----------------------------------------------------------------------
オーナー企業の強みは、まず時間軸の長さにあります。市場からの圧力を気にすることなく、設備投資や研究開発、人材育成のように後から効いてくる施策、あるいは思い切ったリスクテイクに踏み込みやすい点です。もう一つは、意思決定の速さです。株主と経営者が重なっていることが多いため、環境変化の局面で素早く動けることがあります。経済産業省の研究会でも、長期的な視点に加え、投資や意思決定をやり続ける粘り強さや、地域課題の解決に向けてリスクを取る姿勢などが、ファミリービジネスの強みとして挙げられています。
さらに、理念や歴史が経営の背骨として残りやすいのも強みです。ガイダンス案でも、理念や価値観は日々の判断の拠り所であり、関係者が同じ方向を向くための「羅針盤」と位置づけられています。実際、虎屋は「いどむ」「かかわる」「こだわる」という考え方を磨き続けることで長期存続を実現し、月桂冠は「注意帳」に失敗や改善点を記録していくことで気づきを共有する文化を作ってきたそうです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 3.強さが弱さにもなる
----------------------------------------------------------------------
ただし、オーナー企業の強みは、そのまま弱さにもなります。意思決定の速さは、多様な意見を取り込む調整過程が少なく、状況によってはブレーキが効きにくいことにもなりかねません。
ガイダンス案でも、ファミリービジネスは、経営者の強いリーダーシップや理念が企業価値向上に寄与する一方で、独善的行動、成長意欲の減衰、お家騒動、後継者の能力不足といった構造的リスクを抱えると整理されています。また、創業期には一体だった「家族」「所有」「経営」が、企業の成長とともに分かれ、関係が複雑化することでガバナンス上の問題が顕在化しやすくなるとも指摘されています。
例えば大塚家具のケースでは、創業家の親子間で経営方針の違いが表面化し、それが経営権争いの様相を帯びて、いわゆるお家騒動となってしまいました。オーナー企業では、平時には強いリーダーシップが成長の原動力になりますが、承継や路線対立の局面では、所有・経営・家族の問題が一気に噴き出すことがあります。
さらに厄介なのは、平時には問題が見えにくいことです。阿吽の呼吸で回っている間はよくても、代変わりなどの節目になると、方針対立が所有・経営・家族の問題として一気に噴き出したり、ルールの曖昧さから経営が混乱したり、周囲が異論を言えず判断が偏ってしまったりすることがあります。しかも日本では、諸外国と比べて、価値観の明文化やガバナンスポリシーの整備、紛争を想定したルールづくりが進んでいないとされています。
結局のところ、問題は「権限が強いこと」そのものではありません。強い権限自体は強みとして保持しつつ、その強い権限をどう統治し、持続可能な経営にしていけるかが課題であると言えます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 4.これはオーナー企業だけの話なのか
----------------------------------------------------------------------
ここまで見てくると、この話はファミリービジネスだけのものではないようにも思えます。たとえオーナー企業でなくても社長や会長の権限が非常に強い会社は珍しくありませんし、そうした権限構造を背景として多くの不祥事が起きてしまっていることもみなさんご存じの通りです。長年率いてきたトップに求心力があり、周囲が異論を唱えにくい会社では、起きる問題はオーナー企業とかなり似ています。
強いリーダーシップ自体が悪いわけではありません。しかし、その人の判断をどう補い、反対意見をつぶさないようにし、どう次の経営者に承継していくかがなければ、会社はだんだん危うくなります。理念の言語化、意思決定プロセスの整理、関与範囲の明確化、承継を見据えたルール、外部の視点の導入といった発想は、オーナー企業でなくても十分に応用できるはずです。
オーナー企業をはじめ、トップが強いリーダーシップを持つ会社の魅力は、スピードと覚悟にあるのだと思います。思い切った投資も、長い目で見た経営も、最後は誰かが腹をくくらないと実現しません。
ただしその強さは、統治する仕組みがないと暴走にもつながります。必要なのはオーナー色を薄めることではなく、強い意思決定を持続可能なものにするためのガバナンスと、それが必要なことをオーナー自身が理解することです。今回のファミリーガバナンス・ガイダンス案はそのために理念、対話、ルール、承継、情報発信を整えようとしています。
ガバナンスというと堅苦しいものの、要は強い会社を長持ちさせるコツです。難しい、堅苦しい、面倒と言わずに、向き合っていく必要があると言えるでしょう。
本日もAW-Biz通信をお読みいただきありがとうございます。




