メールマガジン

メールマガジン

その他

vol.205 日本は「ニセコ化」するのか

ビズサプリの久保です。

タイトルに惹かれ「ニセコ化するニッポン」(谷頭和希著)を読んでみました。インバウンドの増加を批判的に捉える本かと想像しましたが、そうではありませんでした。今回はこの本を読んで感じたことを書いてみたいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 1.昔のニセコ
----------------------------------------------------------------------

ニセコには以前よく家族でスキーに行きました。当時はニセコアンヌプリ、東山、ヒラフの3つのゲレンデがありました。最近、真ん中の東山にあったプリンスホテルがヒルトンホテルになって、ニセコビレッジに名称変更されたようです。筆者は、主に日航ホテルがあったニセコアンヌプリに宿泊し、東山プリンスにも2度ほど泊まったことがあります。

山の頂上付近でゲレンデが繋がっているので、ヒラフには間違って滑り下りてしまった経験がありますが、宿泊したことはありませんでした。その理由は当時ヒラフには大きなホテルがなく、ホテルからゲレンデが直結していなかったからです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 2.今のニセコ
----------------------------------------------------------------------

筆者が間違って滑り降りたヒラフが、外国人だらけで大変なことになっているという報道を目にされた方も多いと思います。

牛丼2千円、一泊170万円のホテル、ルイ・ヴィトンのゴンドラなど、かなり刺激的です。パートの時給が2千円というのも有名です。ニセコは、パウダースノーに魅せられた外国人富裕層が押し寄せる世界的なスキーリゾートになったと言えるでしょう。

ニセコがこのように大きく成功した理由は、「選択と集中によるテーマパーク化」であると冒頭に紹介した「ニセコ化するニッポン」に書かれています。

要するに、消費者ビジネスに成功するためには、ニセコに見習って「選択と集中によるテーマパーク化」することが必要であるということだと思います。成功例として、インバウンドとクリエイティブワーカーを選択した渋谷(今や若者の街ではないそうです)、コリアンタウンの新大久保が紹介されています。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               

この本では、スターバックス、びっくりドンキー(ハンバーグ)、丸亀製麺(うどん)も成功例として紹介されていますが、テーマパーク化という表現には合わない感じがします。この本の著者がチェーンストア研究家のため、そっちに行ってしまったように思います。

失敗例は、「何でもあるが欲しいものがない」総合スーパーや百貨店、「ゆるキャラ」に代表される「なんでもあり」の地方創成が挙げられており、これらは納得できます。

成功例としては挙がっていませんが、京都はテーマパーク化の真骨頂でしょう。そもそも神社仏閣は昔から一種のテーマパークだったわけで、京都が意図的に選択したのではないかもしれませんが、結果として、テーマパークとして大成功していると言えます。

また、江戸時代の長崎はまさにニセコ化の典型例でした。鎖国時代の唯一の貿易拠点としてオランダ人や中国人が住み、異国文化や学問(医学、兵法など)が長崎に流入し、経済だけでなく文化的にも発展しました。これは外国との窓口を長崎に限定するという選択をした結果であったということが言えるでしょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 3.ニセコ化の弊害
----------------------------------------------------------------------

これらの成功例を見ると成功の裏で「静かな排除」が行われていると、本書では分析しています。

ニセコでは、宿泊や食事が高すぎて日本人スキーヤーが行けない、飲み屋が外国人に席巻され近寄りがたい、時給が高騰し地元のレストランがアルバイトを雇うことができないという弊害が見られます。

京都の例では、市バスがインバウンド観光客で溢れ返り地元の人が利用できない、静かな古都が満喫できないといったオーバーツーリズムの問題を挙げることができます。

「ニセコ化」には地元の人達にとっては、大きな経済効果がありますが、この「選択」の裏で「排除」が起こります。

日本の経済成長のためには、一つの成功パターンとして「ニセコ化」は有効な戦略ですが、これには「静かな排除」も付きまとうということも念頭に置く必要がありそうです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 4.人口減少への対応
----------------------------------------------------------------------

ここからは本書には書かれていませんが、視点を広げると日本の人口減少への対策として「ニセコ化」が有効であることが見えてきます。人口はだいたい60万人ぐらい毎年少なくなっています。鳥取県、島根県、高知県の人口がそれぞれ60万人台ですので、これらの県が毎年1つずつ無くなっていくのと同じです。

現在、人口減少を前提にした年金制度の在り方が検討されています。容易に分かることですが、外国からの移民を増やせば人口は増加します。筆者には、日本の移民政策は、江戸時代からの鎖国制度がそのまま残っているかのように感じられます。

若いころ筆者はカナダのバンクーバーに約2年間住んでいましたが、当時は、中国系が2割、インド系が1割程度いました。今では白人が5割を切っているようです。たぶん、昔からの住民は「静かなる排除」を感じているとは思いますが、特に治安が悪くなったという話は聞いていません。

昨年、インバウンドが3000万人を超えました。その2%の外国人が日本に定住してくれたら人口減少に歯止めをかけることができます。少子化政策の実効性が問われる今日、移民受け入れには十分な議論が必要ですが、日本全体を「ニセコ化」させるのも一つの方法かもしれません。

本日もAW-Biz通信をお読みいただきありがとうございます。
読者の皆様も「ニセコ化」の視点で今後のビジネスを検討してみてください。

カテゴリー
会計
内部統制
ガバナンス
不正
IT
その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

過去の記事

Bizsuppli通信

会計のプロフェッショナルが、財務・経営を考える上でのヒントとなる情報を定期的にメールマガジンにてお届けしています

購読お申し込みはこちら