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ガバナンス

Vol.173 東芝の迷走と買収提案

ビズサプリの久保です。今回は、久しぶりに東芝のお話をしたいと思います。
東芝がついに上場会社でなくなるのかどうか、というお話になります。

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1.会計不正の後始末からガバナンスの迷走

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東芝は、2015年の会計不正発覚後、原発事業の巨額減損損失により債務超過に陥りました。上場廃止を避けるには債務超過を解消する必要があるため、医療事業をキヤノンに譲渡し、半導体事業持分の過半数を売却することにしました。

半導体事業(現キオクシア)の持分売却は、中国当局での独禁法審査が長引いたために事業年度末に間に合わず、奥の手として海外の60ものファンドに対して、第三者割当増資6000億円を実行することにしました。このことが、その後の東芝の迷走劇の元凶になったのです。

英投資ファンドからの買収提案は、当時の東芝社長の出身会社からの提案だったことが問題視され、社長の辞任により白紙になりました。その後、会社を分割する案が臨時株主総会で否決され、アクティビストファンド出身者2名の社外取締役選任に反対した社外取締役が辞任するなどのゴタゴタも起こっています。

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2.買収提案と非上場化

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結局、日本産業パートナーズ(JIP)などの日系連合が2023年2月に買収提案を行い、3月の取締役会でこれを受け入れることになりました。

上場会社買収の場合、経済産業省のガイドラインに基づき、社外取締役等を構成メンバーとする特別委員会を組成します。ここで買収に賛同するか、株主に応募推奨するかどうかについて判断した意見書を作成し、取締役会に提出するという手順となります。

取締役会では、この特別委員会の意見書を承認し決議内容を公表します。東芝の場合、「買収提案に賛同するが、株主にはTOBへの応募は推奨しない」というものでした。ただし、TOBの開始まで4か月あるため、「あらためて、株主の皆様に対して本公開買付けへの応募を推奨するか否かについて検討し、決議する意向です」としています。

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3.応募推奨しなかったわけ

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株主に株式を手放してもらわないと買収が成立しません。そのため、TOBに賛同する場合には、株主に対してTOBへの応募推奨をするのが普通です。買収提案に賛同するが、応募推奨はしなかったという事例が以前にもありました。それは伊藤忠がファミリーマートを完全子会社化したときでした。

この会社の場合、「一般株主に対し本公開買付けへの応募を積極的に推奨できる水準の価格に達しているとまでは認められないことから、株主の皆様に対して本公開買付けへの応募を推奨することまではできず、本公開買付けに応募するか否かは株主の皆様のご判断に委ねる」としていました。結局のところ、伊藤忠のTOBは成立し、ファミリーマートは非上場の完全子会社になっています。

この件では、米アクティビストなどがTOB価格は「安過ぎる」とする訴訟を提起し、東京地裁が適正水準より300円安かったとの判断を示しています。このように、TOBにおいて株価が低すぎるとファンド株主などから訴えられるリスクがあります。

東芝の場合、TOB価格は1株4620円で、東芝株の3月23日終値(4213円)を1割上回る価格となっています。最近の事例における株価のプレミアム(上乗せ率)の多くは30%から40%程度であり、東芝の10%は低いと言えます。このため、株主に対してTOBへの応募推奨はしないという結論になったものと考えられます。

株主に応募してもらわないと買収が成立しないので、おかしな結論であることは確かです。
買収側が高めの株価で買収できない事情があるときに、このように妥協案的な結論になることがあります。

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4.TOBの公表から開始までの期間が長い理由

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3月にTOBの受け入れが表明されましたが、7月上旬にTOBが開始されるということです。本来は、その間の株価変動を避けるため、TOBの公表からすぐにTOBが開始されます。東芝の場合、なぜ4か月後になっているのでしょうか。

これは、買収に当たって海外の独禁法や投資規制をクリアする必要があるからです。東芝の事業は多岐にわたり相当の規模があるため、市場競争などの観点から、各国の審査が必要になります。東芝は、冒頭で触れた半導体持分の売却でも同様の事態を経験しています。

TOBが成立すると、東芝は非上場会社になります。上場廃止を避けるために海外ファンドから資金調達しましたが、それが裏目に出て、皮肉にも今度は上場廃止を目指すことになりました。7月上旬のTOBが無事成立するか見守りたいと思います。

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カテゴリー
会計
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執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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