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Vol.28 D&O保険と保険料負担の最新動向 (2016年5月11日)

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【ビズサプリ通信】 ▼ D&O保険と保険料負担の最新動向

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ビズサプリの久保です。

長めの連休はいかがでしたか?英気を養った、のんびり過ごした、家族サービスでぐったりなど、いろいろな方がおられると思います。5月病はこの時期にかかるそうですが、心機一転、元気を出して日常生活に戻りましょう。

今回は、D&O保険についてお話します。読者の中には、聞き慣れない方もおられるかもしれません。D&O保険についてやさしくご説明したいと思います。

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■ 1. D&O保険とは

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D&Oというのは、Director & Officerということです。Directorは役員で、Officerは執行役員レベルの人たちを指します。D&O保険は、英語ではDirectors’ and Officers’ Liability Insurance、日本語にすると「会社役員賠償責任保険」になります。

なぜ、わざわざ英語で「D&O保険」と英語で呼ばれるのかというと、欧米から入ってきた保険だからのようです。

役員が損賠賠償訴訟を起こされると、その結果に応じて、次のいずれかの費用がかかります。D&O保険は、これらの費用を補償するための保険です。

勝訴 : 弁護士費用+調査費用

和解 : 弁護士費用+調査費用+和解金

敗訴 : 弁護士費用+調査費用+賠償金+原告訴訟費用

日本では、上場企業の約 9 割がD&O 保険に加入しています。(経済産業省「日本と海外の役員報酬の実態及び制度等に関する調査報告書」 平成27年3月)。

D&O保険は会社が加入し、その保険料は会社が負担しています。ただし、これまでは株主代表訴訟を対象とする部分については、役員個人が負担していました。

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■ 2.D&O保険料を会社が負担してよいのか

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役員が第三者や自社に損害を与えた場合を対象として、会社が保険を掛けてあげる、というのは何となくおかしな感じがします。そこまでする必要があるのでしょうか。

役員が自らの仕事を真面目に実行したにも関わらず、責任を問われるという事態は、業務上避けられないという面があります。たとえば、社員が不法行為をしたことから、役員が監督責任を問われることがあります。このような場合、第三者が会社を訴えることがありますが、役員個人を訴えることもできます。このような場合、役員の監督責任はゼロではないにしても、その責任を問うのは酷という場合もあるでしょう。

社外取締役が訴えられる可能性もあります。それを恐れて、社外取締役のなり手がなくなるという問題があります。最近はプロの経営者が他社から引き抜かれる場合があります。このような場合には、役員個人への 損賠賠償がリクルート上のネックになることもあります。

このようなことから、役員(取締役、監査役など)を対象にして、会社が一括してD&O保険に加入し、保険料を会社が負担するというのが一般的になっています。

ただし、役員による犯罪や、私的な財産を得るために、自社や第三者に損害を与えた場合にはD&O保険の対象にはなりません。そのような損害賠償金は、役員個人が負担するのが当たり前です。このような場合は、保険金を支払わないということが保険契約の免責条項に記載されています。

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■ 3.株主代表訴訟を対象とするD&O保険の取り扱い

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会社法上、D&O保険の保険料を会社が負担してよいか、昔から議論があったようです。結論としては、会社が保険料を全額負担しても問題ないということになっています。これによって、役員としては、損賠賠償の心配なく思い切って仕事ができると いう環境が整います。

これまで、少数説としては、会社法上D&O保険は会社負担すべきでないという意見はありましたが、今では、株主代表訴訟の部分を除き、会社負担とする実務が定着しています。しかし、株主代表訴訟部分については、役員個人が負担することがこれまで行われてきたことは、冒頭でお話ししたとおりです。

株主代表訴訟を対象とした場合、なぜこれまで役員個人が保険料を負担すべきだと考えられていたのでしょうか。株主代表訴訟は、その名のとおり、株主による訴えです。その訴えの内容は、役員が会社に損害を与えたので、役員が会社に損賠賠償しなさい、というものです。

役員が敗訴した場合には、会社が役員から損害賠償金を受けるということに なります。この場合、訴えを起こすのは株主だとしても、損賠賠償金を 受け取る会社と、それを支払う役員の間で利益相反がある、ということが 言えます。 これは、会社が直接役員を訴える場合も同じです。これはD&O保険では 「会社訴訟」と呼ばれていますが、これまで保険の対象外になっているのが普通でした。

会社訴訟には明らかに利益相反がありますが、株主代表訴訟は株主が原告として訴えるため、会社法上の解釈が分かれていました。このため、これまでの実務としては、株主代表訴訟を対象とするD&O保険の保険料は 役員個人が負担する、ということにしていました。

株主代表訴訟をカバーする保険の利用価値が高いので、今では代表訴訟を特約条項としている保険が一般化しています。また、欧米では株主代表訴訟だけでなく、会社訴訟についても、D&O保険でカバーするのが普通という実態もあります。

そこで、経済産業省が会社法の解釈指針を出しました(「コーポレート・ガバナンスの実践 ~ 企業価値向上に向けたインセンティブと改革 ~ 」平成27年7月)。その後、税務上も株主代表訴訟部分を会社負担しても経費として認められるということになりました(国税庁 「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取り扱いについて」 平成28年2月24日)。

会社法の解釈を経済産業省が行うのはおかしい、という意見がありますが、法務省の了解を取り付けた、という話です。今後、保険会社が販売する新たなD&O保険に加入する場合には、株主代表訴訟部分も会社負担する実務が定着すると思われます。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。なお、D&O保険について、もう少し詳しい内容を筆者の 下記BLOGに掲載しています。ご一読ください。

D&O保険の保険料を会社負担してよいのか  http://kkbo-cg.blogspot.jp/2016/04/d.html D&O

保険を会社負担とする場合の法的手続  http://kkbo-cg.blogspot.jp/2016/05/d.html D&O

保険の適用範囲、特約、免責条項に注意が必要  http://kkbo-cg.blogspot.jp/2016/05/d_3.html

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

カテゴリー
会計
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その他
執筆者
辻 さちえ
三木 孝則
庄村 裕​
花房 幸範​
久保 惠一​​
泉 光一郎

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