vol.201 政策保有株式の功罪
ビズサプリの久保です。
新年おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。今年最初のメルマガをお送りします。
さて、日経新聞に「2024年この数字」という連載記事が掲載されていました。それは①「株価意識した」対策、8割の1354社開示、②株価最高値、2割の440社、③株式売り出し2.4兆、政策株の縮減で、④長期金利、13年ぶり1.1%、⑤アクティビストの大量保有133件の5つの記事でした。今回は、このうち政策株、すなわち政策保有株式について検討してみたいと思います。
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■ 1.政策保有株式とは
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持ち合い株式は、会社間で相互に株式を持ち合うことを指しますが、「片持ち」を含んだより広い意味では政策保有株式が使用されます。営業関係や資本関係構築のために保有する株式であれば問題ないのですが、それ以外の目的で保有する株式があります。
それ以外の目的というのは、株式を発行する会社の側からの依頼で、安定株主として保有してもらう株式です。
上場会社間で相互に株式を持ち合う慣行が1960年代ごろから行われてきました。これは安定株主を確保し、買収防衛や株価変動の抑制などが目的であったようです。当時は、証券会社が安定株主を紹介することもあったように記憶しています。
その後、コーポレートガバナンスの観点から政策保有株式の問題点が検討され、2015年6月に公表された初版のコーポレートガバナンス・コードにおいては「中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべき」であるとしています。要するに、経済合理性のない政策保有株式は持つべきではないとしているのです。
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■ 2.政策保有株式のどこがいけないのか
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政策保有株式は、安定株主づくりの観点から昔はメリットがあると考えられていたにも関わらず、最近では悪者扱いになっています。
その理由は、安定株主は現経営陣を支持し、必ずしも企業価値向上の観点から議決権の行使を行わない点が第一に挙げられます。また、純投資ではないため配当や売却益等のリターンを期待できないので、資産効率が低下するということが第二の問題です。
政策保有株式は、買収防衛策や株価対策のメリットはありますが、現経営陣を無条件で支持する安定株主がいると経営に反対意見が出にくくなり、緊張感を欠く生ぬるい経営に陥る可能性があります。これがバブル崩壊後の失われた30年の原因の一つとされているのです。
政策保有株式は、2010年3月期から有価証券報告書でその主要な銘柄や保有目的などを公表することになっていましたが、開示だけではその縮減が進まない状況でした。
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■ 3.政策保有株式の縮減
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ようやくここで、冒頭の「株式売り出し2.4兆、政策株の縮減で」について説明したいと思います。この記事は、2024年には政策保有株式を縮減する会社が増えてきたため、株式の売り出しが2.4兆円になったということを報じているのです。
株式の売り出しというのは、既に発行されている株式を一定の条件で不特定多数(50人以上)に売却する手続です。2024年は63件あったそうで、そのうちの1件あたり最大のものは損保会社やメガバンクが売り出したホンダ株式5,000億円だったそうです。
株式の売り出し価格は、その時の株価相当に設定されますが、その後流動株式数が増えることにより、株価が下がる可能性があるので、自社株買いで株価を下支えする動きもあったようです。
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■ 4.見せかけの政策保有株式縮減
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政策保有株式を縮減する方法として、株式を売却しないで、純投資対象の投資有価証券に振り替えるという手段をとる会社がありました。金融庁の調べでは、2024年3月期の振替額は6,379億円と前年度の約2倍(9割増し)になったそうです。このうち、地方銀行が7割を占め、一度に数百億円の政策保有株式を純投資に振り替えた地銀もありました。
これに対して、金融庁は「売却を妨げる事情が存在する株式は、純投資目的で保有しているものとはいえないことに留意する」とし、最近5事業年度に振り替えた株式で期末に保有する株式の銘柄や残高等を開示するよう求めています(2025年3月期より適用)。
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■ 5.社外役員の役割
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政策保有株式は財務体質だけでなく事業の収益性とも関係があり、それを保有しない会社と比較するとROEが低いという結果も出ています。
政策保有株式を売却すると、安定株主に代わってアクティビスト株主が増えるという問題がありますが、経営の緊張感が向上するメリットもあります。
政策保有株式の経済合理性については、取締役会でしっかり議論したうえで、縮減計画を立案して公表することを検討しなければなりません。
全体として、政策保有株式は減少に向かっていますが、企業間格差があるのが現状のようです。政策保有株式が多い会社は、社歴が長い、社長の年齢が高い、経営者の持株比率が低い、収益性が低い事業を抱えているなどの特徴があるそうです。
政策保有株式を多額に保有する会社の社外役員は、是非この機会に取締役会で問いただしていただきたいと思います。
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